第31話 背景モブ
2022/12/11
・ほぼ全てのサブタイ、文、あとがきを書き直し。
「ねえ知ってる!? 2日前に日本で巨大生物の目撃情報があったんだって!」
明日奈から言質を取って早3日。
一昨日からやってることで眠気が抜けきれない朝の教室。
新聞を持って仲の良いグループに突撃する女子の姿があった。
(巨大生物の目撃情報ねぇ……めっちゃ身に覚えあるな~)
ちょっと予想外のこともあって計画の修正を余儀なくされた今回の件。
忙しさが倍増しているのに、身に覚えのある目撃情報とか勘弁してほしい。
僅かな気配から、教室にいる共犯者たちが動揺しているのが分かる。
ついでに、新聞を持った子の一挙一動に注意しているのも。
しかし、あの子……見覚えのある顔だな。
(う~ん……誰だっけ?)
香坂拓也への対策で1週間以上に渡り見張っていたせいかボクはクラスメイトのこととか禄に知らない。メインヒロイン以外の名前すら思い出せん。どうでもいいとは言わないけど、優先順位は限りなく低い存在のはず。なのに見覚えがある。
ボクにとって、その他大勢の1人のはずなのにやけに気になる。
絶対どこかで見たことある。
どうにか記憶から引っ張り出して……あー、思い出した。
あの子、背景モブ(普通に顔が整ってる)の1人だ。
背景モブ。もしくは、特に名前の出ないクラスメイト。
ゲームでは様々な主要キャラが登場するが、当然そのキャラだけで話を進めるのは無理がある場合が多い。舞台が学園なら尚更。
大抵は役職名だけかシルエットのみでモブキャラが登場するけど、ゲームによっては禄に名前すら出してもらえないものの立絵はあるというキャラたちがいる。運が良いとCGイラストの背景として描かれることもある。それが背景モブ。
彼ら、彼女らはヒロインの子と仲良くするための会話のパス回しになる場合や、切っ掛けとなる会話の言い出しっぺとなる場合に重宝される“重要人物じゃないけど何かあるかもしれないから覚えておこう”な存在である。
『ヴァルダン』にも〈女子A、B〉と〈男子A、B〉の4人がいた。
〈女子A〉は普通に顔が整っており、もう一癖二癖何かあるか、バックストーリーがあれば準ヒロインになれたんじゃ?っていう惜しい娘。交友関係が広く、クセがないから1番登場回数が多かったはずだ。
〈女子B〉は髪を三つ編みにしているメガネっ娘。少し地味だけど本好きということで小夜の会話相手だったことが多い。
〈男子A〉はちょいオタク気質だったはず。サブカルチャーに詳しく、一部のイベントで助言役をしてくれる。
〈男子B〉は坊主頭。確か野球部に所属しているという設定だった。あとエロトークになるとどこからともなく現れた。愛称はエロ坊主。
その4人がグループを作ってるらしい。
〈女子A〉が他の3人へ突撃する姿を見てほっこりする。
今の今まで忘れといてアレだけど、やっぱ『ヴァルダン』の登場人物には違いないわけで、ボクの中の優先順位を少し上げておいた。
で、気になる新聞の内容はと言いますと――
「『全長100メートル近くの巨大な影』? これか?」
「そう! 夜中に肝試しをしていた大学生たちが見たんだって!」
「あの、これゴシップに近いんじゃ……? 新聞には確かに載っているけど、5面の端っこにある『今日のミステリー』ってコーナーのだし」
「信憑性は限りなくゼロじゃね?」
「3人ともロマンが無いなー!」
良かった。ゴシップ扱いしてくれたか。
これで安心――
「けどさー、この写真の影。どっかで見たこと気がするよな」
「あ、オマエも? 100メートル近いのなんて目にする機会無いのにさ」
「ワニみたいシルエットで、大きくて、最近見たのって……」
「あはは、まるで柚木さんの異能で召喚されたワニみたいだよねー!」
しばらく笑う〈女子A〉は、しかし徐々に笑いが乾いたものになってきて……
グリンッ!とこっちに顔を向けてきた。
ミシッ!と骨から音が出る勢いで逆方向に顔を背ける。
地味に痛い。おい、こっち見んな。近づくな。
「あの、ね? 柚木さん。この新聞にある巨大生物の影を映した写真なんだけどね、もしかして……覚えがあったりする?」
「知らないなぁ。日本じゃ巨大怪獣が各地で暴れ回るなんて良くあることじゃん。こう、仏顔な光の巨人と日々死闘を繰り広げてるでしょ?」
「それ特撮だから。あんな戦いが現実に日本全国で起こっていたら、日本の経済が死んじゃうから」
「じゃあ、アレ。放射能吐く怪獣との大怪獣バトルが――」
「だ・か・ら、それ特撮だって」
だって「日本」と「巨大生物」ってワード聞けば、某ウルトラな巨人と放射能撒き散らし怪獣王が真っ先に頭に思い浮かぶでしょ。
だが、残念ながらボクの言葉は信用度が足りないらしい。
ひやひやとした視線が〈女子A〉だけでなくクラス中から注がれる。
さてどうしたものかと考えを巡らせ、
「皆さんおはようございます。あと数分でHRですから、そろそろ席につく準備してくださいねー」
野々上先生が教室に入ってきた。
そう、怒ると恐い野々上先生が!
途端に動き出すクラスメイトたち。
担任の婚期を逃しかねない怒り方は初日に知っているのだ。
「はい! 分かりましたー! あー、ほらほら女子Aさんも、新聞仕舞って席についた方がいいよー。没収されたくないでしょ?」
「むぅ、はぐらかされた気が――ちょっと待って? 女子Aって私のこと!? え? 柚木さん私のことそんな風に心の中で呼んでたの!?」
「親しみを込めてね!」
「尚さら悪いよ! あの、私の名前は――!」
「明日奈~、ちょっといいか~!」
HRまで残り数分、〈女子A〉から逃げるため明日奈の元へ。
後ろで何か言ってるけど今回ばかりは聞きたくないので無視する。
ターゲットになった明日奈は声を潜めながら嫌そうな顔を寄越す。
「友理、逃げる手段にアタシを使わないでよ。そもそも2日前にワニ助の存在がバレたのもアンタが隠蔽対策し忘れたからじゃ――」
「あそこにいる4人、俗に言う背景モブだぞ? アニメで見たことない?」
「あ! 確かに見覚えがある! 何で気付かなかったんだろアタシ!」
目に見えて明日奈のテンションが上がった。
きっとボクと似たような気持ちなんだろう。
あれだ。推しである歌手が1番好きだけど、いつも同じメンバーのバックダンサーに会えたらそれはそれでテンション上がるのに近い感じだ。
今回出てきたモブって『To L〇VEる』に出てくるヘアピンの子みたいな、マンガだと日常風景で頻繁に出てくる存在を意識してます。
……まさかメイン回があるとは思わなかったなあの子。
~おまけ~
【昼休み】
明日奈(*´∀`)「ね! ね! 本名何て言うの! 好きなものとかある?」
友理(´∀`*)「どんな異能を持ってるか今一度知りたいんだけどさ! あ、そうだ。連絡先でも交換しない?」
〈女子A、B〉(;゜Д゜)〈男子A、B〉「「「「急に何なの!?」」」」
次回は、ワニ助を使ってここ数日何をしていたかについて。




