第30話 今明かされる、衝撃の真実ゥ!
[side.明日奈]
瑠維ちゃんが教室を騒がせ、不用意な一言の言質を友理に取られてしまった日の放課後。
アタシと友理は、カフェの一角で今後の重要事項となる「瑠維ルート攻略作戦」とアタシの嫌な予感しかしない――というか、実際その通りだった――異能の強化計画について話し合ってた訳なんだけど……
「『Heartギア』を開発した研究者たちの試作品?」
「そう。どうもそれが、瑠維の持っているアクセサリーの正体みたいなんだよねー。原作知識と、アルカのハッキングで得られた情報からすると」
ものすごく軽い雰囲気で、極秘レベルの情報をぶっちゃけ始めたのよ。
事前にカフェの角側の席を取って、即席で創ってやった盗聴防止のアーティファクトがあるから話せるんでしょうけど、心臓に悪すぎる。
「元々、異能のアクセサリーの素材に使われたのは、宇宙船のAIだった頃のアルカや乗組員が不思議技術で回収した、各惑星でしか取れないもの――つまりは正体不明物質だな――の一部だ。あくまで珍しい素材が使われているだけのアクセサリーで終わったモノもあったが、いくつかは技術で再現することができない異能を内に秘めたアクセサリーとなった。……言うなれば、天然のアーティファクト」
「………………ちょっと待ちなさい。今、サラッと聞き逃せない超とんでも真実を言わなかったかしら? アルカが、何ですって?」
いや、薄々そういう系じゃないかしら~とは思っていたわよ? アルカもいつだか「地球はホントに青かったよ」なんて言っていたし。
でもこんな緊張感も無く、カミングアウトされるなんて思わない。何で別の重要事項の前振りに使われてんのよ、衝撃の真実?
「宇宙船から得られた技術を解析して『Heartギア』を含む、オーバーテクノロジーが世にもたらされた。偶然がいくつも重なった末に完成したそうだけど、その話はひとまず置いておこう。今知っておくべきなのは、この世界にある異様な技術のほぼ全てがアルカの故郷由来だってことだけ」
「無視かい。そして、またもや衝撃の真実が」
そりゃアルカのいた宇宙船がどんな代物なのか想像つかないけど、星と星とを簡単に移動できる機械が見本としてあれば、全部の技術を解析できなくったって、一定以上の進歩は見込めるでしょう。
研究者からしたら、お宝の山に見えたんでしょうね。
「……そのアルカは、勝手に人の星の技術を盗まれた。著作権料やら特許料を要求したい。――って、ちょっと怒ってたけど」
「無断使用したこと考えたら、天文学的金額になりそうね」
「あと、死んだ乗組員を好き勝手した件だけは絶対に許さないって」
「ごもっとも」
フィクションでの宇宙人の扱いを考えたら、何が行われたかは想像が難しくない。現実問題としてそりゃ許せないわよね……
アルカにこの話題は基本禁止って覚えておこ。
「当初、ボクらはこの『ヴァルダン』の世界をローファンタジーの世界だと思っていた。だが違う。あの日、アルカと初めて出会って知ったのは、この世界はローファンタジーの皮を被ったSFの世界だったという事実だったんだよ」
「その事実を2番目に聞いてもバチが当たらない立場にいながら、今日までずっと知らされなかったアタシは一体……」
今更だけど、この数年間でいくらでも言う機会はあったはずよね?
友理の奴、絶対に普通に話したら混乱して面倒そうだからって、他の重要事項の中にねじ込んでダメージを少なくしたかっただけでしょ。
「研究者たちも『Heartギア』を開発するに当たって、様々なデータが必要だったみたいでさ。正体不明物質の中でも加工が可能そうなのを選んで作り、天然アーティファクトができたら、具体的にどんな効果があるのかを各地で秘密裏に実験してたんだって」
「あぁ、そっか。作ったはいいけど効果までは把握できてなかったアーティファクトもあったから、人目の付かない所や条件に合いそうな所で実験したのね。もしかしなくても、その過程で流出した?」
「正解」
『Heartギア』の開発は当時のトップシークレットだったんだし、アルカがいたっていう……宇宙船(?)のこともあったから、相当セキュリティーが厳しかったはず。流出するなら、外に持ち出されたタイミングしかない。
「当時の電子記録はほとんど無いから、アルカでも調べきれなかったんだ。原作の方でも、そこまで深くは掘り下げていないんで真実は分からん。事実として分かったのは輸送途中に事故・事件があって、いくつもの天然アーティファクトが海に落ちたこと。流れが激しい海域だったのか世界中に流されたこと。今日までに何とかほとんどの天然アーティファクトは回収できたけど、未だに行方が分からないモノもあること。これくらいだな」
「じゃあ、瑠維ちゃんのアクセサリーも海で?」
「いや、ロシアの海域に流れ着いたのをマフィア連中が見つけたらしい。それから血みどろな抗争の果てに、瑠維を狙っている組織の手へ1度は渡ったそうだ。異能の効果も知っていたのか、それを組織の象徴にして、ロシアで確固たる地位を築いたんだと」
「あれ? じゃあ何で瑠維ちゃん――正確には瑠維ちゃんのお婆ちゃんが持っていたのよ?」
ロシアから日本に渡った経緯が予想できない。
象徴にするぐらい大事なモノなら、管理も厳重だったはず。
「理由は2つ。1つは、犯罪者の取り締まりが厳しくなった背景にある。『Heartギア』開発の副次的効果で国側の技術が一気に上がったんで、法整備を光の速度で終えて、組織だって行動する犯罪者共を逮捕しまくったんだ」
「あ、それ中学の歴史で習った」
「そうそれ。で、件の組織も巻き込まれて上へ下への大騒ぎ。ついに本部へ公的機関が押し入る事態にもなって、逃げる途中で換えの効かない財産なんかを咄嗟に隠したらしい。あとで回収するつもりで」
「その中に瑠維ちゃんのアクセサリーもあったのね!」
1度マフィアの手から離れたんだったら、2つ目の理由しだいでは日本に来てもおかしくはない。
「それで? 2つ目の理由って?」
「瑠維の婆ちゃんだ」
「……え? もうここで出てくるの?」
2つ目の理由のあとじゃなく?
「う~ん……何ていうか、瑠維の婆ちゃんって若い頃はブイブイ言わせてたみたいで……めっちゃフットワークが軽かったそうなんだ」
「あー、学生時代はヤンキーだった的な?」
「『ボルシチ(ロシアの定番料理)っての、食べてみたいなぁ』という軽い気持ちで、ロシア行きの船に乗り込んだとか」
「それ密入国!!」
フットワークが軽いんじゃなくて、考え無しなだけでしょ!?
「ボルシチ自体は“言葉が通じなくても拳で語ればいい”という謎理論で仲良くなった、後のボクシングチャンピオンに奢ってもらい、大満足したそう」
「ツッコミどころしかないわね……」
何なの? その少年マンガみたいなノリと勢い?
「で、帰りの日本行きの船が来るまでの間は暇だからと港周辺をぶらついていたら、マフィアが咄嗟に隠したばかりのブツを発見」
「ここで1つ目の理由と合流かぁ」
「明らかにヤバいモノもあったから、さすがの瑠維婆ちゃんもマズいと思って離れようとするけど、そこで目に付いたアクセサリーのデザインが気にいったそうで……『落ちてた物を拾っただけ』という暴論でアクセサリーを即装着」
「それ置き引き!」
「『アタイの物はアタイの物、落ちてた物もアタイの物』だと、それから半世紀に渡って身につけてたんだって」
「どこのジャイアニストよ!?」
さっきから聞いていれば犯罪ばっか!
瑠維ちゃんに優しく接するお婆ちゃんのイメージが崩れちゃう!!
「そんなこんなで『さすがに、婆になってアクセサリーを身につけるのはキツいなぁ』と、適当な理由を付けて瑠維にあげたわけだな」
「最後にトドメを刺さないでよ。イメージが……」
瑠維ちゃんの件になると、何でこんなに疲れるんだろ?
あすな、おうちかえりたい。
「……そういえば、さっきからアクセサリーアクセサリーって言っているけど、何のアクセサリーなのよ?」
最後に気になったことだけ聞く。
「言ってなかったな――ロザリオだ」
「そう……」
中二病の瑠維ちゃんにはピッタリですこと。
・ロザリオ:聖母マリアへの祈りを繰り返し唱える際に用いる数珠状の祈りの用具。大きめの十字架の形状。勘違いされがちだが、元々は首に掛けるものではない。瑠維は普通に掛けてる。




