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閑話 悪の組織、日本上陸

久しぶりの三人称です。


 『Heartギア』を使った異能が世に広まり、それに伴い技術力が年を追うごとに上がったことで、その煽りをモロに受けたのは一部の犯罪組織だった。

 日本ならばヤクザ、海外ならマフィアといった、銃刀法違反に真っ向からケンカを売る者たちの集まりが。


 そも数十年前まで、刀剣類や銃火器への取り締まりは年々厳しくなっていたが、そういった組織も対策をして警察や公的機関の目を掻い潜り、取引によって武器を自分たちの懐へ集め、隠し待ち、誰かを傷付けていた。

 いわゆる“イタチごっこ”というものである。

 それは武器を作る者たちも同じだ。取引相手からの後ろ盾を経て、日々人を容易く殺せるモノを日夜作り続けている。


 だが近年、そういった裏の世界の者たちでもどうしようもない問題が、世界各国の犯罪組織へとボディブローを決めた。


 今まで良くも悪くも“イタチごっこ”を続けることができた両者の均衡が、突然崩れるようになったのだ。

 そう。国が全力で潰しに掛かってきた。


 世界各国が合同で決めた犯罪を撲滅するための新しい法律に加え、刀剣類・銃火器をピンポイントで探し出す特殊な機械が広まったのだ。それも施設に備え付ける大型のモノから、持ち運びができる小型のモノまで幅広く。


 表向きの性能としては、大まかな武器の形や素材をスキャンして見つけ出すとある。中身はブラックボックスとなっているため、たまたま奪取することに成功した裏の人間は早々に匙を投げたらしいが。

 ちなみに、機械には発信器が内蔵されていたので、裏世界の名だたる技術者たちは何人も逮捕されることとなった。


 空港や国境へ行けば大型機械で自動スキャンされ、一気に銃刀法違反でお縄。要人を狙おうとすれば小型のソレで人海戦術駆使スキャンされ、スナイパーの弾丸が途中で見えない壁に阻まれる、奇跡的に全ての関門を潜って要人に武器を使用しても「痛いな~」だけで済んでしまい、結局もろもろの罪でお縄。

 それ以外の理由でも、それまで上手くいっていたことが失敗続きでたくさんの犯罪者がブタ箱行きとなった。



 

 ――何だコレは……? 夢だと言ってくれ。



 そんな世の中になり、犯罪組織は1周回って現実逃避しだした。

 犯罪がまるで機能しない。今まで手を変えて使っていた己の武器が何一つ通用しない。同業者がどんどん捕まり、様々なパイプが機能しなくなり、大きな組織ほど大打撃を受けることとなる。皮肉なことに、窃盗などの小さな犯罪の件数は今まで通りというから、組織の人間は笑っていいやら泣いていいやらの状態。


 当然のことだが、まともに武器が手に入らず公的機関の目が厳しくなったことで、世界中で犯罪組織の活動が減少する。

 大きな活動を行えなくなったから使える金が減り、同業者が減ったからパイプも減り、パイプも金も無いから後ろ盾も減り、そんな“落ち目”だから人員にも困る。そして、人員がいないから余計に活動が縮小する。まさに悪循環。


 結果、犯罪組織・・と言える存在は構成員が全て捕まるか、資金や信用が無くなって自然消滅でそのほとんどが歴史の中へと消えていった。


 しかし、元々持っていたパイプの強さや構成員の質の良さ、それに加えて運が良かったことで今も活動している犯罪組織はある。

 地下深くに潜って機を伺う者たちもいれば、普段は一般人として表向き犯罪に関わっていない体の者もいる。偽りの戸籍を使い、身を潜め、新たな方向からかつての栄光を取り戻そうと……




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「散々な言われようね」


 パタンッと、少女は本を閉じる。

 本の表紙には『「Heartギア」の登場から分かる技術のもたらした影響』とある。少女が読んでいたものだ。


 レイカ=氷道ひょうどう

 それが少女の名であり、ロシアを中心に活動する某マフィアで使われているコードネームでもあった。


 紺色の髪に金の瞳を持つ、冷たい印象の高校生ぐらいの年齢と思わしき少女は、閉じた本に興味を無くして午後ティーを飲む。

 どうでもいいが、今は午前中だ。


 レイカ=氷道は、元は喫茶店だと思われる廃墟にいた。それも地元ロシアではなく、日本の廃墟に。

 昨日の夜に日本へ到着し、朝になって指定された潜伏予定の場所に到着すれば、待っていたのはギリギリ雨が防げるだけのサビとホコリだらけの場所。年々犯罪組織の活動が難しくなっているとはいえ、この国は特に動き辛くて好きになれないと、心の中で愚痴を言う。


(ジャパンは他国と比べても警備が厳しい。銃火器の類いは持ち込めないし、こんな場所しか潜伏場所が無いなんて……)


 レイカ=氷道が所属しているのは、かなり古参の組織である。今の時代で生き残れているのも、それまで培ってきた信用とパイプの太さゆえ。ロシアで生き残っている組織も自分たちのを含めて、片手で数えられる程に少なくなった。


(1番力を持っている私たちですら、運が少し悪くなるだけで“落ち目”と言われるようになってしまう時代。ボスが言っていたように、今後10年以内にロシア系マフィアは私たちだけになるのかもしれないわね……)


 自分が生まれる前は、組織もまだ大きかったという。ロシアで最大を誇り、構成員も4桁に達していたと。


(それが今じゃ、正規の構成員はたった数十人で残りはパシリか使い捨て。私のような小娘でも幹部になれてしまう。組織全盛期の時代なら、今の自分たちは吹けば飛ぶような存在だと笑われるって、最古参の幹部が嘆いていたわね……)



 レイカ=氷道が組織に拾われた・・・・時には、すでに活動は縮小傾向にあった。自分が組織にいるのは、他にどう生きていいのか本気で分からないからだ。

 だから、自身の異能と同じように感情を冷たくした。

 そうすれば、何も悲しくないからと。

 そうすれば、いつか人を殺すことになっても辛くないからと。



「ダメね。考えが後ろ向きになっちゃう」


「そりゃいけねぇな。何事も前向きじゃなくっちゃ」


 突然聞こえた自分以外の声に、しかしレイカ=氷道は微塵も驚きはせず、むしろ呆れた雰囲気となっていた。


「アナタって、いつでもどこでも気配を殺して近づかないと気が済まないの? 幹部のマクシムさん?」


「おいおい。今日は一段と冷たいじゃないの」


 廃墟の影から現れたのは、サングラスに無精髭スタイルの男。

 見た目は40代程だが、ガタイが良くシンプルながら質のいい服を着ているので、地元では表向き女性からの人気が高い。顔も整っており、性格もフランクなため尚更。その実、根っからの仕事人で誰よりも人を殺している、ボスからの信頼が厚い幹部である。


「日本語の勉強にって、アナタが渡してきたのがコレ・・だったのよ? わざとでしょ? 内容分かってて私に渡したんでしょ?」


 レイカ=氷道は先程まで自分が見ていた本を持ち、バンバンと表紙を叩く。


 内容は至ってマジメだが、犯罪者を中心に技術の発展によって損を被った者たちに関する記述が多いように感じられた。

 知ってて渡してきたのなら、冷たい対応になるのは当然であった。


「そんなに怒るなって。せっかくだから、改めてオレらみたいなカタギじゃない奴らの現状ってのを勉強がてら認識してもらっただけさ。それに、日本語の勉強にもいいだろうって思ったのも事実だぜ? オメェさん、日系なのに日本語が若干怪しいじゃんか。そういう難しめの本を読めるに超したことねぇぜ」


 男――組織の幹部マクシムの言う通り、レイカ=氷道は日本人の血を引いている。祖父母か、はたまたそれより前かは今となっては分からないままだが、顔つきから日系であるのは間違いない。

 実際、レイカ=氷道の表向きの顔は、親の仕事の都合で外国を転々としている少女という設定だ。転々としすぎて友人ができてもすぐ別れることになるので、人と必要以上に仲良くなりたくないという裏設定まである。


「……ジャパンには2度と来たくないわね。入国するだけで下準備が必要だし、動きにくいったらありゃしない」


「気持ちは分かるがこれも仕事だ。今回の件以外にオレがボスから頼まれているのは、この国にオレらに取って有能なパイプとなる奴らがいるかどうかの確認だ。こればかりは、現地で調べねえと判断が付かないからな」


 マクシムはレイカ=氷道とは別に、組織のボスから直々に任された仕事がある。それがパイプ探し。利害一致の取引相手の有無を調べること。

 日本へやって来たのは2日前のため各所の下調べに時間を費やしたが、調べた限りどうやら数年前に人体実験などを行っていた大きな組織と、そいつらと繋がっていた公的機関の人間が同時に逮捕されたために、困っている連中がいるらしいという情報を手に入れた。

 後はパイプや取引相手として、有能かどうかを判断するだけだ。


「もっとも、日本に来てまでする取引相手がいるかは怪しいがな。準備段階で下手すりゃ赤字だ」


 危険を冒してまで頻繁に来たい国ではないというマクシムに、レイカ=氷道も同意する。

 様々な国と陸続きのロシアと違い、日本は島国なうえに銃火器への対処が特に厳しい。さすがサムライの国だと変に感心した。


 と、そこへ――



「いやー、やっと来てくれましたか!」



 目が細い、どこか胡散臭さもある痩せ型の男が現れた。


「キリルか。報告は受けているぜ」


「穏便な交渉は失敗だったようね」


「交渉? とんでもない! 件の少女をわたくしめの異能・・・・・・・・で孤立させたまでは良かったのですが、まぁ話が通じないと言いますか、住んでる世界が違うと言いますか……ぶっちゃけ疲れたんで国へ帰ってもいいです?」


「「何があった?」」


 滅多に無い2人のシンクロツッコミ。


 「ターゲットである少女との交渉に失敗した」という報告は受けているが、詳しい内容までは知らされていない。

 雰囲気や喋り方はともかくとして、このキリルという男は仕事を途中で投げ出す者ではない。

 そんな男を精神的に疲弊させる、某地獄の猟犬さんが持つ中二パワーよ。


「警察の方も動いてますから、2週間程は様子見ですな」


「穏便に済ませればソレで良かったんだが……まあ仕方ない」


 彼らもプロだ。策は二重三重に用意をしている。

 当然、交渉が決裂した後のことも想定して日本へ来ているのだ。


「ねえ? 今更だけど、本当にその“クロバ・ルイ”って子が持っているのは、組織が長年探してたモノなの?」


「あ? そりゃ間違いねえ。日本にいた秘密の構成員が見つけて裏取りまでしたんだ。間違いなく本物だろうよ」


「特殊な異能が封じ込められているというアクセサリー! 偶然がいくつも重なって流出した『Heartギア』を作った研究者たちの秘中の秘! 世界に散らばったとされるソレらは9割がニセモノですが、残りの1割を引き当てれば巨大な取引材料となり得る!! 資料のほとんどは紛失したために封じられた異能の種類こそ分かりませんが、巡り巡って日本の学生が身につけているとは!」


 キリルの興奮具合にレイカ=氷道は若干引き気味となるが、マクシムの方は「しかたねえなぁ」と微笑ましいものを見ている。

 黒羽瑠維が持つものは、世界が喉から手が出るほど欲しい代物なのだ。その存在がほとんど知られていないから今まで平和に暮らせていたというだけ。


 だが、そんな宝がすぐに手に入るなら……


(場合によってはおもしろい仕事になりそうだなぁ)


 久しぶりに人の命を奪う快感を味わえるかもしれない、そうマクシムは心の中で期待に胸を膨らませる。


「んー、それにしてもここは汚いですね。短い間とはいえ、我々の活動拠点になるのですから、ホコリぐらいは何とかしてもらいませんと」


「掃除でもしろって言うの? 気になるなら私たちがいない時に、適当な下っ端にさせればいいじゃない」


「ワタクシめ、これでも綺麗好きでして。掃除は他人に任せたくないのです。短い間だからこそ、自分たちのいる空間は大事ですよ?」


「急にめんどいわね……」


「諦めろレイカ=氷道。コイツは余裕さえありゃあ、自分で至る所を掃除する奴だ。ボスの部屋だって、コイツが担当している」


「ここでまさかの事実が……」


「さあさあ! 善は急げ! 今の自由な時間に最低限のホコリと目立つ汚れは、ワタクシめのクリーンテクニックで取り除かねば!」


 そう言い、キリルは近くにあったテーブルの上にある汚らしいカーテンか何かの布を片付け始める。

 すると、ホコリが辺りに散らばり……



「おやおや、想像してたよりずっとホコリが――はっ……ハックッション! ハックッション! ハック、げほ! ごほ!」


「? 何をそんなにむせ――クチュン!」


「おい、2人とも何が――ブエッッックショイッ!!」



 突然、鼻を刺激した何か・・が3人をしばらくクシャミ地獄に陥れ、数分後には酷い有様になった。



~おまけ~


明日奈(´・ω・)「そういえば、マフィアたちの行動をある程度知れるってことは、潜伏している場所も把握しているってわけ?」


友理(´・ω・)「うん。使い魔で今も監視しているよ。少し前にしかけたイタズラも成功したし、おおいに笑わせてもらいました」


明日奈(;´・ω・)「イタズラって……変に勘ぐられるとマズいんじゃ」


友理( ゜∀゜)「そこまで凝ったモノじゃないから心配無用。ただテーブルの上に汚いホコリだらけの布を置いただけ。強いて言うなら、嫌がらせに大量の胡椒を振りかけたんで、慎重に退けないと辺りに胡椒が舞ってクシャミ祭りが開催される程度さ♪」


明日奈(;゜Д゜)「後半の内容、地味にえげつないわね!?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 友理( ゜∀゜)「つまり、クシャミする奴は、ハードラック(ホコリやコショウ)とダンスっちまったんだよ……」 明日奈(;゜Д゜)「!!?」
[気になる点] この世界って全世界銃刀法違反かつ、銃製造から裏社会な設定? ムリヤリ感が…
[一言] 心因性ハウスダストアレルギーとかかな? 胡椒には、すぐ気が付かないだろうし、一種のPTSD?
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