第28話 生徒会と柚木家集合と……?
長めです。
そこは、お高いだろう備品がいくつもある部屋だった。
真ん中に置かれた円形のテーブルは、素人目でも高級だと分かる。壁にある大きな目立つ時計も、いくら金を掛けたら作って貰えるの?と真顔で聞きたいくらい独創性溢れた作品で絶対に高い。
そして、テーブルに座り、ジッとそこに設置された画面を真剣な表情で見つめる人物が発するピリピリした空気。それが部屋全体を静かにさせていた。
『アマテラス特殊総合学園』3年生、生徒会長・西園寺八千代。
彼女は先程から数分間にわたって、画面に映し出された映像を見る。
そのたった数分間が、ボクらには1時間にも2時間にも思えた。
そう。この部屋――生徒会室には現在4人がいる。
1人は、マイフェイバリットシスターであるお姉ちゃん。生徒会で会長補佐だから、居てもおかしくはないけど……
こちらと八千代さんを交互に見て、ハラハラした表情となっている。
で、残り2人は――ぶっちゃけ、ボクと明日奈です。
(何でこんなことに……)
(ボクと一緒に呼ばれたからじゃね?)
(それが謎だって言ってんのよ! 何で兄貴じゃなくてアタシなわけ!? これ絶対に昨日やったアンタと兄貴の解説の件よね!? 今、八千代さんはあの時の映像とか見てるのよね!? 流れてくる音からして!? アタシ、生徒会に呼ばれる理由が思い当たらないんだけど!?)
(この状況でボクから言えることは1つ……ドンマイ?)
(やかましい!! もっと他に言うことあるでしょが!?)
ボク&香坂拓也による解説ごっこの翌日。
事前に録画した解説映像を見せに来てくれと生徒会の先輩に呼び出されたかと思えば、なぜか同じく来るよう言われた明日奈。
廊下を爆走したわけでも備品を壊したわけでもない。異能で人様に迷惑を掛けたわけでもない。心当たりが無いから余計に「何でアタシ!?」と心配になってしまうという悪循環。香坂拓也も困惑していたな。
(昨日とは別の件で呼ばれた、とかないかしら?)
(明日奈の作ったアーティファクトが暴走とか?)
(むしろアンタの監督責任を問われるって理由の方が、アタシが何かしちゃったって可能性より高いんだけど……)
(おいおい。それじゃ、ボクが犯罪者予備軍みたいじゃないか)
(逆に質問するわ。個人的な理由で人様の義兄に、毎日のように異能フル活用で迷惑掛けてる奴が、犯罪者予備軍じゃないって、そう言うのかしら?)
(……何年も前からその義兄のスパイ兼、ボクの協力者である明日奈もある意味犯罪者予備軍なのd――)
(何か言ったかしら……!?)
(あ、すんません。全部ボクが悪いです)
明日奈の瞳孔が開いてきた気がしたので、速攻謝った。
友人間の問題で殺気を感じたら、その瞬間に非を認めて謝る。それが関係を長く続けるコツだと転生してから学んだ。
「………………ふむ」
何かを納得したような八千代さんの声が聞こえ、ボクと明日奈はビクッとしつつ、姿勢を正す。
「確かに。先日の1年時異能把握授業の映像を見せて貰いました」
「は、はい……!」
「コレを見た、私が言うことは1つ……」
え? 何を言われるの? ちゃんと許可取ったよね? 八千代さんも「おもしろそうだから♪」って、笑顔で送ってくれたよね?
何でゲン〇ウポーズになってるの!? 何で顔を伏せてるの!? この空気で主導権握っている人の顔が見えないのって、すごく怖いんですよ!? もしかしてドンデン返しな展開になるのか? ボク怒られるのか?
イヤァアアアアアッッッ! めっちゃ怖いぃいいいい! この人、原作じゃ本気で怒るとイラストだと分かっていても恐ろしい程に迫力ある笑顔(ただし、無理矢理貼り付けただけ)するから、“『ヴァルダン』で怒らせてはダメな人、第1位”でもあるんだぞ!? 原作ブレイクしたから大丈夫だと思っていたのにぃぃぃいいいいいいいいっ!
「それは……」
お願いだから溜めないで! 余計に怖いか――
「すっっっっっごくおもしろかったので、生徒会に入れる権限を友理ちゃんにプレゼントしちゃいまーっす!!」
――ガダァアアアアアアアアアンッッッ!!
明日奈が盛大にずっこけた。
勢い余って近くにあったイスへ頭部を強打し、痛がり呻いている。
そのイスも高いんだろうから、もっと大事に……じゃなくて!
「あの空気の中で! 溜めに溜めて! 言うのがそれってどういうことですかああああああああああああああああああああっっっ!!?」
「さすがですね友理ちゃん。100点満点のツッコミです。私もがんばって雰囲気を作った甲斐がありました。ドッキリ大成功ですね♪」
「成功しすぎて、明日奈がマンガみたいなずっこけを披露しましたが?」
「……念のため、あとで保健室に連れて行ってください」
「丸投げするなよ」
3年生の先輩とか、生徒会の会長だとか、そんなのどうでもいいわと言わんばかりに、自然と真顔で言い返してしまう。
ホントこの人、原作よりもノリが良いというか、人をからかうのが好きだよな……。良い変化ではあるんだろうけどさぁ。
「もう、八千代! ユウちゃんを弄りすぎだよ! 気に入ってるのは分かるけど、もう少しやり方があるでしょ!?」
「この茶番を黙認してくれたら、妹さんを生徒会に推薦してもいいって言ったら秋穂、ノリノリで協力を約束したじゃない?」
「………………ヘイ、マイシスター?」
「ちちちちち、違うのよユウちゃん!」
ブルータスよ、お前もか。
言いくるめられたんだろうけど、何がどう違うと?
「生徒会長には毎年1人、推薦枠として好きな1年生を生徒会に推薦することができるんだけど、去年初めて会った時から友理ちゃんは候補だったの。で、今回の件で正式に私の方から推薦しようかな~って思っていたんです。どう、生徒会に入ってみませんか?」
「なぜにボク?」
「行動力があって、何よりもおもしろいからです。生徒会は生徒と学園のために尽力する集まりですが、その学年に1人ぐらいはムードメイカーになれる人に入って欲しいと思っているのです。ちなみに、かつてムードメイカー役として当時の生徒会長に推薦されたのが、何を隠そうこの私」
「でしょうね。そんな予感してました」
しかし生徒会かぁ……
「あー、パスで」
「えぇー!? せっかくユウちゃんと一緒になれると思ったのにー!」
お姉ちゃん、それで八千代さんに言いくるめられたな。
悪くない話だけど、今はダメだ。
「そっかー、残念。……理由とか聞いていい?」
「ボクには、やらなければならないことがあるのです。それはすぐにできるものではなく、生徒会の仕事をしながらでは難しいと判断しました。お誘いはうれしいですけど……すみません」
そうだ。ボクにはこの学園で貞操観念の緩い香坂拓也の魔の手から、『ヴァルダン』のヒロインたちを護り抜くという大事な使命があるんだ。
原作は今後1年が舞台だけど、ここは現実。2年目、3年目になっても問題の解決――香坂拓也がヒロインたちをスッパリ諦める、もしくは関係ない彼女を作る――が成されなければ、ボクの戦いは続いていくんだ。転生を自覚してから早10年、ちょっとやそっとで揺らぐ覚悟ではない!!
(声が少し漏れていたからツッコませてもらうけど……どんなにカッコよく思おうが、やってることは超個人的な理由だって忘れてない?)
(やかましい)
復活した明日奈が耳打ちしてきたけど、無視だ無視。
「そういえば、結局アタシは何で呼ばれたんです?」
「推薦の第2候補だから。友理ちゃんとどこか似た雰囲気だし、他の生徒会所属の子で推薦の話題になった時、香坂さんとかいいんじゃ?って声が上がったから。それで、どうかな? 結構フレンドリーよ生徒会」
「あー…すみません。少し濁して言いますけど、アタシも友理と似たような理由で辞退させてもらいます」
明日奈は同じ転生者であり、協力者でもあるからな。
コイツはコイツで、『ヴァルダン』の主人公――自分の義兄がヒロインの子とイチャつくの見るの嫌だって理由で行動を共にしているから、生徒会に入るって選択肢は無いんだよな。
「う、うぅ……1日に2度も振られるなんて……生徒会長としてのプライドがズタズタです。私、私……このままじゃ泣いちゃいそう……!」
「「ウソ泣きを、ですよね?」」
「あ、バレちゃいました?」
確信した。確かに、ムードメイカー推薦で入ってるわこの人。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「にしても、変われば変わるものよねー」
生徒会室からの帰り、明日奈がポツリと呟いた。
今日は仲間内で集まりがあるので(地味に嫌だが香坂拓也もいる。仲間はずれは人として良くない)1度教室に戻ってからお姉ちゃんが来るのを待って、みんなで柚木家に行くことにしている。
最近の改革で、金曜日の授業が1限分減って時間があるおかげだ。
「何が?」
「八千代さんよ。アニメだと、もっと、こう……優しく見えて結構厳しいというか、冷徹な面があって、あんな良くも悪くも子供っぽい雰囲気じゃなかったなーってさ。アニメじゃ尺の問題とかもあって、準ヒロインの忍ちゃんと八千代さんの話が無かったのよ。だからアンタから原作のことを聞いて、八千代さんは自分自身に1番厳しい人なんだって納得したの」
「そうだな。原作じゃ、自分にストイックだった」
「……で、どんな原作ブレイクしたの? 聞いた話からして何となく予想は付くんだけど」
「そうだな、あれは5年ほど前になる」
『ヴァルダン』準ヒロイン、西園寺八千代。
原作で彼女の人生におけるターニングポイント、残酷な展開は彼女が中学に入ってしばらくすると起きる。
子供の頃から一見するとお淑やかそうだが、ちょいイタズラ好きだった神社の娘でもある八千代さん。
家族に恵まれ、友人に恵まれ、幸せな日々を送っていた。
それが崩れたのは、とある満月の夜。
八千代さんが住んでいる神社はかなり古くからあり、それこそ最初期ともなると文献がほとんど無い程であった。
そんな神社の境内には大きな社がある。一般人が入ることを固く禁じている区画にあり、代々の神主は「人が入らないよう見張れ」と言い伝えられている社が。
これで資料などが残っていれば、口伝で伝えてきたせいで1番重要な情報が伝言ゲームのように抜け落ちていなければ、もしかしたら悲劇は起こらなかったのかもしれない。そのくらい重要な秘密がその社――正確にはその地下にあった。
大昔に陰陽師が封印した、おぞましい妖怪だ。
ハッキリ言って「世界観が違くね?」とツッコみたいところだが、実際問題そうなのだし、マジメに考えていたら切りがないのでひとまず置いておく。とにかく、当時の人が封印するしかなかった強い妖怪が封じられているという事実があった。
本来は封印が完全に妖怪の力を押えていたけど……悲しいかな、ご神木を削られて作られた封印の杭も、陰陽師が命を削って作った封印を強固にするための特別なお札も、長い――永すぎる年月が原因で劣化していた。
そして件の妖怪は満月の夜だけ、ほんの僅かに力を発することができた。
だが足りなかった、封印を破るには。せめて、外部からの協力がなければ封印を完全に破壊することは不可能だったのだ。
だがその日、封印は破壊されてしまった。
他ならぬ八千代さんの手によって。
たまたま魔が差しただけだったのかもしれない。子供が親に「入っちゃダメだよ」と言われたら、逆に入りたくなる気持ちだったのかもしれない。中学生になって、ちょっぴり大人になったような気分で「少しくらいなら」平気だと、そう思ってしまったのかもしれない。
八千代さんは、その社の中へ入ってしまった。そして見た。妙な雰囲気がする地下と、妖怪を封印している場所を。
八千代さんは子供っぽいというだけで、バカではない。やっていいこと、悪いことの区別ぐらいはつく。本来なら地下と封印を見ただけで満足し、その場を去っていたはずだ。
ただし、その日は満月。妖怪の力が少しだけ戻る時であり、狡猾な妖怪がその一生に一度のチャンスを逃すはずが無かった。
――助けて
八千代さんは子供が助けを求めるような、か細い声を聞いてしまった。
助けてお姉ちゃんと、その杭を抜いてと、痛くて苦しいと、同情を誘うような声で八千代さんに囁いた。
その声は聞くだけで心が苦しくなるもので、けれどそれは妖怪の力によるもので……八千代さん耐えきれずに、封印の1番大事な要である杭を、劣化と妖怪の力によって中学生の少女でも簡単に抜けてしまえるようになってしまった杭を……抜いてしまった。
そこから先は、少々抽象的な文で進む。
解き放たれ、本性を現した大妖怪。事態に気付いて地下まで降りてきた八千代さんの両親。妖怪から放たれる呪い。それを受けてしまった2人。天井を破壊し、満月の光を浴びながら妖怪は言う。
――気分がいいから、オマエは見逃してやる
そう八千代さんに言って、夜空の奥へと消えていった。
それから、八千代さんの幸せは崩壊した。
呪いの影響でずっと目覚めなくなった両親を悲しみ、自分を騙して逃げた妖怪に憎悪を抱き、そんな妖怪に手を貸してしまった自分自身に怒りが沸く。
そんな日々を送ることとなった。
現代社会で妖怪どうこうなど信じられるはずもなく、逃げた妖怪の居場所も分からず、探し出したとしても自分には非戦闘系の異能しかなく、さりとて誰かに妖怪を倒してくれと頼むなどできるはずもない。自分が原因なんだから……と。
そう、誰にも助けを求めることもできずに学園に入り、気付けば生徒会長にまで上り詰めていた。全ては口では無理だと言いつつも、自分や両親を助ける人を求めて。ほんの僅かな希望に縋りついて。
そのような悲劇など、ボクは八千代さんに歩んでほしくなかった。
――なので、
「先に封印を解いて、件の妖怪を退治しました」
「んなこったろうと思ったわ」
ちゃんとゲームで行動パターンとか、性格とか知っていたからね。
社に侵入して、騙されたフリして封印を解いて、油断してる隙に速攻で勝負を終わらせたから。
たぶん「フハハハ! よくぞ我の封印を解いたな小娘!」とでも言いたかったんだろうけど、わざわざ聞く義理もないから、妖怪のセリフなんて「フハハハ! よくぞw――」までしか聞いてない。残りは断末魔ぐらいだ。
そもそも封印が解かれた時点じゃ完全に力を取り戻していないから、原作が始まる5、6年後まで身を隠していたらしいし。
それなら小学生のボクでも何とかなるでしょと挑み、実際何とかなった。相性などの問題からそれはそれはあっけなく。
「ゲームだったら炎上するわね」
「ここは現実だ。そして、ボクはリアリストだ」
「あーはいはい」
会話は終わり、お姉ちゃんの生徒会での仕事も終わったので、『友理と愉快な仲間たち(+α)』を引き連れて家に帰った。
案の定マヤが興奮したり、香坂拓也がマルコを見て仰天したり、アルカが未知との遭遇ごっこを始めたりと騒がしい日となった。
週末には掲示板をみんなで見ようぜと、集まる約束もしたんだ。
その週末の、柚木家からの帰りだった。
瑠維に不審な人物たちが接触したのは。
☆瑠維ルート突入!!☆
~おまけ1~
明日奈( ゜д゜)?「そういえば、その生徒会の人は何でアタシを?」
八千代(´・ω・)「友理ちゃんが学園生活で暴走した時に、生徒会で止められそうな人がいた方が安全そうだからって。秋穂じゃ、抑止力になるわけないし……」
明日奈(;゜Д゜)「あれ!? アタシ、もしかして貧乏くじを引き掛けてたの!?」
友理(#゜Д゜)「誰が貧乏くじだ!」
明日奈(#゜Д゜)「アンタ以外誰がいるってのよ!!」
~おまけ2~
友理(´・ω・)「いらっしゃい。ゆっくりしてって」
秋穂(*´∀`)「ここがユウちゃんと私の愛の巣だよ~」
八千代(― ―;)「秋穂、友理ちゃんが何とも言えない表情になっているから、少しは自重しましょうね。生徒会長からの警告です」
マヤ(*´▽`*)「ああ……! ついに友理さんのお宅へ来ることが……!! スーハー、友理さんの匂いが周囲に漂って……スーハースーハー!」
明日奈(つд;)「こんなマヤちゃん、見たくなかった……!」
拓也(´・ω・)「お邪魔しまーす。へぇ、ここが柚木さんの家か……」
友理( ゜言゜)「私室に入ったら、抹殺するからな。社会的に」
拓也(;゜Д゜)「物理的よりも恐い!!」
アルカ(´・ω・)「おかえり」
忍(´・ω・)「お待ちしてました、友理さん。そしてご友人の皆様方」
拓也(; Д ) ゜ ゜ 「? え? 誰? 柚木さんの家族ではなさそうだけぇどおおおおおおおおおおおぉぁぁああああああああああっっっ!! オ、オマエはぁああああああああああああああああ!!?」
マルコ「ワフッ(よう、昨日ぶりだな)」
~おまけ3~
美江(´・ω・)「へ~、居候さんにお隣さんも仲良しなんだぁ」
めぐみ(´・ω・)「改めて、友理の交友関係は深いと認識したよ。お隣の年下女子ならまだしも、居候の少女と上手く付き合えるか私には自信がないから」
瑠維:(;゛゜'ω゜'):「この少女、宇宙の力《コスモ・パワー》を感じる。さては宇宙より来たりし存在だな! ……で、実際どうなの友理? 同じ人間とはなぜか思えないんだけど? 私のキャラが薄れるぐらい変な存在感があるんだけど?」
友理(;´・ω・)「急に素に戻るなよ(大正解! 勘、良すぎぃっ!!)」
アルカ(´・ω・)「友理、部屋の電気消して?」
友理(゜д゜)?「え? いいけど……(パチッ)」
――暗闇中――
アルカm9(一∀一)「とーもーだーちー(ポワッ)」
みんなΣ(゜Д゜;)「「「「「いやぁああああああああああああああっ!!? 指先が光ったああああああああああああああ!!」」」」」
友理(― ―;)「アルカ、この前テレビでやったSF映画見たな? というか、その蛍光塗料ボクの部屋からくすねてきたのだろ? 早く手を洗いなさい」
アルカ(´・ω・)「はーい」
アルカの行動は前々から考えていたのに、なぜかタイミング良く金ローで放送する某SF映画。テレビ欄見て「このタイミングで!?」と驚いた。




