第27話 ヒロインたちの異能 後編
2022/12/04
・明日奈の異能の説明を一部修正。
「おーい、メイちゃんやーい。聞こえるかー?」
「………………」
「ダメだ。ただの屍のようだ」
「笑えないから。模擬戦で柚木さんに負けた直後のオレもこうだったのかと思うと、全然冗談じゃ済まない心境だから」
急遽決まった小谷凛子vs王芽依の戦いは、圧倒的な差を付けて凛子が勝利。
今回も見事な原作ブレイクに成功した。
で、負けてしまった王芽依は白目で気絶したままだった。
現在はボクと香坂拓也のいるテント、その中に急遽設置した体育用マット&タオルを重ねただけの簡易枕の上で寝かせている。
簡単に見た感じだけど『プロテクトフィールド』の効果もあって内臓関係に損傷は無さそうなので、ボクの異能『第5柱マルバス』による治癒の力を掛けた後は安静に寝かせることにしておいた。気絶した人は無理に起こさず、本人が自然に起きるのを待つのが最良だしね。
「というか柚木さん、治癒系の異能も使えるんだ……」
「凛子との修行では、自らサンドバックになるつもりで練習台になったからな。切り傷・打撲から始まり、関節が外れたり骨折った時も世話になった力だ。目立たずに練習できることもあって、ボクの異能の中でも効率よく扱える」
「そんなものまで治せるのか!?」
「あくまでも応急処置だよ。最終的には毎回、家に帰って不死鳥のごとく全回復できるからこその荒技だ」
『第37柱フェニックス』による1日1回だけ使える完全回復が無かったら、病院の先生と親戚レベルで親しくなれる頻度で会うことだろうし。
……皮肉にもアルカとの初遭遇で、ヤ〇チャ死一歩手前の状態からでも復活できるのが確認できたのも大きいけどなー。
ちなみに、あの件だけは未だに根に持っています。
本当の本当に死にかけました。
「まあ先生にも言ったが、王芽依に関してはそれほど心配しなくてもいいよ。気絶した原因は、凛子が力加減を間違えたのと、無意識に『気功術』で王芽依の体内の“気”を乱したのが主な理由だし」
凛子の異能『気功術』は見た目の派手さこそ無いが、『ヴァルダン』のヒロインたちの中でも攻撃性能は高い。
自身の身体能力の強化だけでなく、防御力の向上や五感の向上に加えて、直接触れた対象の“気”を乱すことで、ゲームでいうバッドステータスを確率で発生させることも可能になる。今回の場合は、“意識の混濁”かな?
しかも、毎回練習相手になっていたのはボクだしね。物理攻撃を受けまくって地味に体力と防御力が底上げされております。そんなボクが凛子の基準だから、王芽依に手加減したつもりでも過剰な攻撃になっていたわけだな。
今はまだ経験が足りないからできないけど、“気”使った自己治癒は半年以内にできるようになるだろうし、最終的には“気”で作った巨大な腕を出現させるまでに成長する。
尚、『ヴァルダン』の有料コンテンツで凛子のサービスに課金すると、その“気”がやたら進化する。具体的には王芽依の『白虎霊気』に対抗してか、“気”で全長5メートルの不動明王みたいなおっかない顔の巨人を作れるようになる。
……そして、解放されたストーリーでは大ケガをした主人公を治療するために、たびたびエロ作品に登場する『房中術』で主人公を――
おのれ。(奥歯ギシリ)
おのれ……。(血涙)
おのれディケ〇ドっ!!(関係ない)
「おのれ香坂拓也……っ!」
「何で親の敵でも見つけたような顔で睨まれてんのオレ!?」
「大ケガしたら、手遅れになる前にトドメを刺すべきか……」
「いろいろと言葉が矛盾してない!?」
目を点にしながら「さっきまで珍しく普通に話せてたよな!?」と驚く香坂拓也のことはひとまず置いておこう。
……別にオマエそのものが嫌いな訳じゃない。
ヒロインに関係したオマエが、親の敵レベルで大嫌いなだけだ。
「では、場も暖まったことですので、解説に戻りましょう」
「すぐ隣に真夏になったり真冬になったりする人がいるので、正直言って解説したくねぇでーす」
グラウンドでは異能を見るための準備を終えたらしく、早速やりたい人から順に、自身の異能を対象となるモノや的で試している。
「いやー、こう見ると本当にいろんな異能がありますねー」
「B組にいるオレの友人が『電撃鞭』で的を破壊したり、C組の女子がお札で式神っぽいのを召喚すれば、D組の男子は土からゴーレムを作り出しています。他にも体の一部を変化させたり、対象となる空間に作用したりする異能があったりと、コピー系異能の使い手としては組み合わせが良い異能がないかなどを注目していますが、柚木さんは?」
「複合系異能の使い手としては、直接攻撃系よりも搦め手系の異能などに注意を向けています。香坂さんが模擬戦で使ったような空間系などは対処が難しいので、攻略手順を間違うと時間が掛かったり、最悪の場合はそのまま詰みます」
この“攻略手順を間違えると詰む”というのはゲーム『ヴァルダン』の自由時間で可能な、フリーバトルでの話だ。
主人公や味方の能力上げで放課後や休みに、学園の生徒や異能使用施設にいる人を相手にバトルできるんだけど、中には攻撃パターンを覚えないと勝てない奴もいたから、そういうのとは極力戦わないようにしていた。
あれだよ。一昔前のゲームであった“中央のコアが光った数秒しかダメージを与えられません”とかだよ。前世で小学生の頃にやったロック〇ンのラスボスがそれで、勝てないからって匙を投げたんだ。あのタイプは滅びていい。
「お、柚木さんの友達も始めるみたいだな」
「何!? 個別に解説せねば!!」
「贔屓かっ!?」
どこかの誰かがそれを望んでる気がするんだよ!
『ヴァルダン』のヒロインたちの異能を早く教えろと!
最初に出てきたのは、高森美江だった。
「いっくよー! 種マシンガン!」
美江が手を振るえば、地面から人と同じサイズの、赤い花飾りを付けた砲台のような複数の蕾が出てくる。
その複数の蕾部分が、地面に設置された棒の先にターゲットマークの付いた的に照準を合わせ――弾ける。
――ズガガガガガガガガッッッ!!
まるで本物のマシンガンのように蕾から発射された種は、的を粉々に破壊した。
そして、植物は役目を終えたかのように光となって消える。
「すごいな。今の植物って……?」
「鳳仙花だ。時期になると蕾部分が弾け飛んで、周囲に種を撒き散らす性質を持つ花。本来はあんな指向性を持って種を飛ばすものではないけど、美江の『植物魔法』ならあれくらいできる。ようはイメージの問題だからな。現存する植物が元ならそれも簡単になる」
「へぇー、巨大なツルを出せるだけじゃなかったんだ」
美江の『植物魔法』は応用の幅がかなり広い。
“魔法”というだけあって現存する植物そのままでなくていいから、さっきの鳳仙花みたいに固定砲台のような魔改造もできる。
……本人は「品種改良って言ってよ!」とどうでもいいことを主張していたけど。人が手を加えているって面じゃ同じだろうに……
「これでいいかしらね?」
続いては柊小夜。
手には5個の小石が握られており、クレー射撃用の的が発射される装置を見ていた。ブザー音と共に複数個の的が発射される仕組みだ。
ブー!という音と共に5つの的が発射され、同時に小夜は的を睨み付けたまま、手に持っていた小石を無造作に放り投げる。
普通ならそのまま地面に落ちるだろう小石は、しかし物理法則を無視したかのような不自然な動きで的に向かっていき――当たった。
その後も小夜は何回か同じことをするが、どの小石も百発百中で的に当たりに行く。まるで最初からルートが決まっているかのように。
「何だろ柊さんの異能? 磁石とかか?」
「ちょっと違う。小夜の異能は『針示』というものだ。簡単に言えば、狙った場所に必ず攻撃が当たるようになる。その性質から飛び道具と相性が良いし、近接戦なら鞭なんかオススメだよ」
「うわっ、それバスケットボールとかで異能ありなら無敵じゃんか」
ボールを放てば必ずシュートに成功するからな。ある程度ならターゲットに当たるまでの軌道を操作できるようにもなるし。
原作通りなら、武器として実際に鞭を使い始めるはず。
軌道も操作できて、当てたい所にピンポイントで当てられる鞭使い(ときどき飛び道具あり)とか、地味に強いんだよ。
ちなみに、ゲームでは『小夜ルート』に入ってしばらくすると、他のヒロインと仲良くしていた主人公に嫉妬した小夜が、主人公の股間目掛けて拳大の石を異能使ってぶつけるイベントがある。当然、主人公――香坂拓也は瀕死だ。
……うおっ。想像したら今は無きボクの息子がヒュンってする感覚が!?
例え転生しようと、忘れられる痛みじゃないんだよねー。
「次は私か……装着!」
続きましては鬼島めぐみ選手。
出番と同時に異能を発動して、大剣を背負った騎士になる。
「鬼島さんの鎧カッコイイ……」
「めぐみの異能は『勇敢なる騎士』。見ての通り近接戦主体の騎士になる異能で、重厚な見た目と違って鎧も大剣も羽のように軽いよ」
1番の特徴が、大剣の“異能を切り裂く”って力なんだ。
異能による現象だったら、一部の例外を除いてバターみたいに防御を無視して斬ってしまう。ボクも自分の異能で創造したものを使って試し斬りして貰ったけど、ほんの少し抵抗があっただけで普通に斬れました。
原作でも、強敵相手に防御無視攻撃ができるから重宝されるキャラだった。ステータス全体のバランスも良かったんで初心者向きだ。
今は的代わりの案山子をバッサバッサ斬っているだけだから大剣のすごさが分かりづらいけど、今後の成長次第じゃボクでも油断したら倒されちゃうスペックの持ち主です。そんなめぐみの異能は条件を達成すれば主人公はコピー可能だから、それを成したら手に負えない強さになる。
原作では選択肢しだいで異能を打ち消す大盾も顕現できるようになるんだけど、条件が厳しいからこの世界のめぐみができるかは正直分からん。
「さあ、ようやくワタクシの出番ですね! 友理さーん! がんばりますので見ていてくださいねー!」
「もちろん見るぞー!」
「解説が受け答えするなって……」
続いてはどうしてこうなった?その1、聖華院マヤ。
ジャージ姿なのにお嬢様オーラが出ております。
マヤはクレー射撃用の的を発射するエリアに行き――
「すぅ――……~♪~♪♪~♪~~~♪」
その美しい歌声を披露する。
「??? 何で突然歌い出したんだ?」
「“音”さえ出れば何でもいいからだよ。ほら良く見ろ。歌声が形となって宙を踊り始めてるぞ。」
「あ! ホントだ。あれは……音符か」
マヤの歌声が形となって空へと舞っていく。
音の美しさがそのまま表れたような音符が何十も。
そこへ発射されるクレー射撃用の的。それは美しい旋律を作り出している音符の群へとまっすぐ飛んでいき――
――チュドォォォオオオオオオオオオオオオオン!
爆発した。
しかも連鎖して他の音符まで共鳴するように爆発したから、バカみたいな威力となってテントにいるボクらの方にまで衝撃が来ている。
「………………ナニアレ?」
「『爆発する音符』。歌声や楽器の音色を衝撃波を放つ爆弾にする異能だ。メロディーの繋がりや曲のデキがいいと音符同士に“繋がり”ができて、あんな風に連鎖爆発する。マヤはピアニストだけど、音楽全般に教養があるからなぁ。歌声だけでもあの威力になる」
さらに言えば、その採用する曲によって爆発の仕方や範囲に差が出るから、マヤの技名ってそのまま曲の名前だったりするんだ。
マヤの場合、ピアノの演奏が1番効果高いんだけど……現実的じゃない上に本人も「やったらマズいと、頭の中で警告音がします。やめましょう」と真顔で言っていたから基本禁止となっている。
(しかも残酷な運命をへし折った影響か、どう考えても原作の傲慢お嬢様だったマヤよりも、威力も精度も上なんだよな)
マヤのいる場所とこのテントって割と離れているんだぞ? それでもビリビリした衝撃が来るって……間近の生徒は心臓バクバクだろうな。
マヤが終われば、そのマヤ以上の頭痛の種が無駄に格好良く登場した。
どうしてこうなった?その2、黒羽瑠維こと地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》さんである。どうでもいいけど、ジャージの上にマントはダサいよ。
「フハハハハッ! ようやく我の出番か! 観客《オーディエンス》たちよ、とくと見よ! これが我が必殺の一撃! 『追尾する――」
「はーい、テントからのお知らせでーす。……そこの中二病患者に告ぐ。今回の授業はそれぞれの異能の現状確認だっつってんだろ。解説はしてやんから、さっさと普通に異能を使わんかい」
「グフッ。永遠たる同胞《エターナル・シスターズ》の対応が最近手厳しい」
じゃあ、手厳しい対応させない努力してって。
「……柚木さん、黒羽さんへの対応がどんどん雑になってないか?」
「友達だけど……ボクにも許容範囲があるんだよ。見ろ、後ろに控えてるオマエの義妹を。こっからでも分かるぐらい目が死んでるぞ?」
「明日奈―! 大丈夫かー!」
大丈夫じゃないぞ。スーパーで見る魚の目そっくりだ。
いや、そろそろ慣れてよって思うけど。
「くっ、ならば本来の仕事をするのみ。案山子ごときにならすぐ終わる! 焼却せよ黒炎《ブラック・フレア》!」
瑠維が腕を振るえば、そこから放たれるのは黒い炎の渦。
その炎は宣言通り、案山子を数秒で燃やし尽くした。
「黒い炎か……柚木さん、あれって特別な特製とかあるのか?」
「あるぞ。瑠維の異能『黒炎』は “対象に纏わり付く”って性質もあるんだ。結果、中々鎮火せずに燃やし続ける」
普通の炎は風や対象の動きなんかで、火が飛び散ったりして燃やすのにムラがあるけど、『黒炎』は飛び散らずに張り付く。
燃焼って“炎の温度”だけでなく“炎に当たる時間”も重要なんだ。数千度の炎だって当たるのが一瞬なら人間は火傷しないことだってある。逆にガスコンロぐらいの火だろうが、数秒でも触れ続ければ病院直行の火傷をする。
そういった理由からか、原作では攻撃を当ててから継続的にダメージを対象に与える、という戦い方だった瑠維。
その性質上、ゲームではなく現実で使用するとなると危険度も跳ね上がるから、『黒炎』を使うにあたっての注意事項は何度も瑠維の頭に叩き込んだ。中二病になってからは特に、だ。調子に乗っている時は注意が必要だけど、普段使う分には問題ないはず。
「最後はアタシね」
前の瑠維が原因で、すでにお疲れ気味の明日奈。
……ボクの栄養剤を何本かあげるべきか。
明日奈は両手を胸の前に持っていくと、淡い光を発し始める。
それは徐々に形を作り、光が収まったあと明日奈が両手に持っていたのは、ファンタジー系作品などで目にしそうな木の弓だった。
「ふーん、今回は弓か……」
「あ、さすがに明日奈の異能は知ってる感じか」
「柚木さん? 一応オレ、明日奈の義兄なんだよ?」
明日奈が弓を構え、弦を引く。
すると、いつの間にか弓には光の矢が装填されており、
「シッ!」
明日奈の声と共に矢が放たれる。
放たれた矢は直後こそ通常の矢と同じように飛んだが、的である案山子との距離が半分程に迫った場所で――6本に増えた。
次の瞬間には案山子の脳天・四肢・胸に矢は突き刺さる。
明日奈は上手くいったからか、深く息を吐いた。
「相変わらず便利な異能だな」
「解説の仕事として説明すると、明日奈の異能は『異能物質作成』。精神や体力を消費して特殊な力を持った物質を想像し、創造する力だ。いろんなモノが作れるけど、制限も多い」
「明日奈の作った“雨水を美味しい水に変える”アーティファクトは家で重宝しているよ。本人には『しばらく作りたくない』って言われたけど。……ご近所さんで欲しいって言ってる人もいるんだけどなぁ」
「条件次第じゃバカみたいに疲れるんだから、やめてあげろっての」
そう、これこそ、『異能物質作成』こそ、原作で香坂明日奈が使用できる有料コンテンツの異能なんだ。
アーティファクト。つまり、異能の力を宿した武器や道具を作り出す力。
物質そのものを作る際は体力を、付与する異能を作る際は精神を、それぞれ大きさや異能の強さに比例して消耗する。
そして使い捨てならそれほどではないが、恒久的に残るモノを作ろうとすると体力・精神が限界まで疲弊する上に、かなりの時間を掛けなければ完成しない。さっき香坂拓也が言った、“雨水を美味しい水に変える”アーティファクトがいい例だ。
――明日奈は分かってるよな、自分の抱える爆弾を。
――“価値”という意味じゃボクや香坂拓也以上なのを。
原作の香坂明日奈の異能は普通の武器や道具を作り出す『物質作成』のはず。異能の初お披露目でも、作ったのは『100トンハンマー(中身スカスカ)』で他のヒロインと話していた義兄に突っ掛かる時に創造するというものだった。
どうしてボクがずっと続けた努力(悪魔の像に向かってパスワードを言い続ける)をしていない明日奈の異能が、有料コンテンツの異能に変化したかは不明のままだ。もしかしたら、何もしなくてもボクたち転生者の異能は有料コンテンツのモノに変わる仕様だったのかもしれないけど――その場合、ボクのやったことが無駄だったみたいに思えて悲しくなるから深く考えないようにしている。
やらなかったらやらなかったで、アルカと出会えなかったから過去に戻れても結局はやるんだけどさ。
アイツはもう、家族の一員だからね。
前々話からそうですけど、今後のためにどこかで入れなきゃいけない説明回って、どうしてこんなに執筆が遅くなるんでしょうね?
~おまけ1~
授業が終わって――
王(;゜Д゜)「はっ!? わ、私は――!?(ガバッ)」
友理( 一∀一)「おぉ、王芽依よ。死んでしまうとは情けない」
王Σ(゜Д゜;)「え、ええええええええぇぇぇぇぇっっっ!!?」
拓也(― ―;)「こらこら」
~おまけ2~
・第5柱マルバス:治癒




