第26話 ヒロインたちの異能 前編
混沌極まる歴史の授業が終わり、今日の午後は夕方まで本格的な『Heartギア』を使った授業となる。
当たり前の話だけど、『Heartギア』によって目覚める異能は戦闘系異能以外にも非戦闘系異能があるし、戦闘系異能の異能を持っていても「自分、荒っぽいのは無理っすわ~」という人もいる。
なので『Heartギア』を使う授業では基本的に戦闘系と非戦闘系の人とで授業をする場所が分かれるし、事前の面接でも荒事が苦手かどうかの確認はする。
学園の方針は『安全に異能を扱えるようにすること・その心構えを持たせること・成長が可能ならその道を切り開いてあげること』だから、マジメに授業を受けていれば異能の力に関係なく単位は貰える。
実際、授業前に聞いた担任である野々上先生も学生時代は模擬戦など1度もしていないし、たまに出る個人課題を達成できなくても単位は貰えたという。
ようは生徒1人1人の“やる気”があるかどうかが大切となる。
なので、その“やる気”を入学式当日の模擬戦で見せつけた人は今日の授業は見学で構わないと言われた。今日は個々の異能がどのようなものか、ちょっとした道具などを使って確認をするだけだからだ。
ボクも香坂拓也も見学でいいとのことだったんで、大人しくしておくと野々上先生にも言ってある。
今日は暴れたりせず、日陰でみんなの授業風景を眺める予定。1年の全クラス合同での授業になるから人数も多い。楽しみだ。
「――と、いうわけで! 急遽ですが実況席を作って解説なんかをしてみたいと思います! 解説はこのボク、柚木友理とーーーっ!?」
「……模擬戦で対戦相手だったオレ、香坂拓也――」
「――がお送りしたいと思います! 1年の皆さん夜露死苦ぅっっっ!!」
「「「「「いや、“よろしく”じゃないだろ(でしょ)!?」」」」」
見事なツッコミを疲労してくれた『アマテラス特殊総合学園』1年生の約半数(残りの非戦闘系組は体育館)に拍手を送る。
現在、ボクと香坂拓也は運動会とかで使う簡易テントの中で実況者ごっこをしている。マイク片手に大きく声を張るのが意外と楽しいです。
「あー……柚木さん? これはどういうことですか?」
こめかみを押えた、疲れた感じの野々上先生が面倒そうに聞いてくる。
「はい先生! 午前の歴史の授業が苦痛でテンション駄々下がりだったので、午後ではせっかくの戦闘系異能の初お披露目する人たちのために、テンションが上がりそうなことをしてみたいとセッティングしました!」
「自己満足ですね」
「あと、お昼ご飯に飲んだ初めて飲むタイプの栄養ドリンクが、思った以上にボクの体質的に合ったようでエネルギーが溢れているんですよ! 効果を確かめるため、試しにと5本も飲んだのが仇となりましたね!」
「自業自得ですね」
ぐうの音も出ないな。
スーパーで『新成分配合!』って大きく書かれた栄養ドリンクがあったから買ってみたけど、ヤバい成分が入ってたんじゃ?ってぐらい効き目がある。
「はぁ……とにかく、勝手にこんなことされても困りますから、午後の間に撤去してください。今なら反省文なども書かなくて良いので」
「あ、それなら大丈夫です! そう言われるだろうと思って、昼休みの内に根回しをしておきました!」
「根回し?」
ボクはジャージのポケットから綺麗に折り畳まれたハンコ付きの紙を出し、そこに書かれた内容を全員に聞こえるようマイクに向かって言う。
「ごほんっ、『柚木友理さんの提示した内容について、おもしろそうだからOKします♪ アマテラス特殊総合学園、生徒会長、西園寺八千代』……以上です!」
「「「「「何してんの、あの生徒会長さん!?」」」」」
言い出しっぺのボクが思うのはアレだけど、本当に何してんだろうね八千代さん? お姉ちゃんの友達ということで去年から数回だけ会ったけど、原作と違い変な部分でアバウトな性格になっている。
……まあ、ボクが1番の原因だけど。
西園寺八千代に関しての暗躍は本人の知らないうち――5年ぐらい前かな?――に終わらせたから、向こうからしてみれば初対面なのは去年になる。
その時点でちょっとお茶目だけど怒ると怖そうな人、という印象だった。原作のようなピリピリした雰囲気が無くなるだけで結構変わるもんだよなぁ……と、しみじみした。
「……ちなみに、香坂拓也さんは?」
「脅されました。……先生、オレ泣いていいですか?」
「生徒会長に許可を貰う際の条件として、解説の相棒代わりにコイツを指名されたんですよ。模擬戦の相手だったんでしょうって」
「……柚木さんは、もう少し香坂拓也さんに優しくしてもいいと思いますが」
「不可能です!」
「断言された!? 本当に泣くぞおいっ!」
優しくされたいんなら、もう少し貞操観念を強くして出直せ。
野々上先生はまだ言いたいことがあるといった雰囲気だったが、こっちには生徒会長公認という伝家の宝刀があるのだ。
別に、一昔前の王道学園モノみたいに“生徒会の力は教師よりも上だ!”“生徒会長が学園の支配者なのだよ”なんてことはないけど、多少のことは先生方の許可を取らなくても実行できる権限が生徒会長にはある。
権限の乱発は反感を持たれやすいのものだが、八千代さんは“ここまでなら許される”という線引きが上手いから大丈夫だろう。
と、ここで野々上先生に区切りが付いたかと思えば、別の珍入者が。
「ちょっと柚木友理! 何で今日の授業受けないの!? せっかく入学式の日の屈辱を晴らせると思っていたのに!」
ムキーッ! と威嚇するようにやって来たのは、桃色の髪をお団子ヘヤーにした小柄な女の子。隣のクラスにいる中国人の『ヴァルダン』準レギュラーであり、“凛子ルート”におけるライバル枠。
Bクラス所属、王 芽依。
愛称は「メイちゃん」だ。
両親は中国人だけど日本生まれの日本育ちで、芽依自身も日本生まれの日本育ちという「中国要素いらなくね?」なキャラである。当然のことながら中国語は喋れない。中国に行ったことすらない。家も普通の2階建てで中国要素皆無。
どうでもいいけど、「メイちゃん」ってジ〇リが懐かしく思える名前だな。
「テンションが異常に上がってるんなら、私と模擬戦でもゲーム風でもいいから勝負しなさいよ! 私の初陣を微妙なモノにした罪は重いわ!」
「まあまあ芽依さん、落ち着いて。オレも気持ちは分k――」
「黙りなさい敗北者!」
「ぐふっ!? は、敗北者……何だろ、心にくる……」
初対面だと面を喰らいそうな程ケンカ腰な性格だが、入学式の翌日から何度も突っかかってくるといい加減慣れてくる。
どうやら入学式の日に行った、ボクvs香坂拓也の試合がお気に召さないらしい。曰く「アンタらのせいで私の試合がコース料理の前菜扱いよ!」とのこと。
ハッキリ言う――んなもん知らんがな。
(『ヴァルダン』でもめんどくさいキャラ扱いだったからなー。悪い子ではないんだけど、脳筋が過ぎてサブヒロインにもなれなかった子だし)
原作では、いくつかのイベントを挟んで凛子をライバル視。ついでに主人公が凛子と付き合いだしたら、そっちもライバル視。
バトルジャンキーなので、イベントの選択肢によっては主人公は凛子と恋愛する余裕も無く、最後は2人との戦いを求めて地の果てまで追いかけてくるという、傍迷惑なトゥルーエンドまで存在している。
尚、このトゥルーエンドになる選択肢、普通だったらまず選ばないような芽依に構ってあげてからの放置プレイを何度もすることで発生するので、別名『主人公&凛子ドSルート』と呼ばれたりもしている。
「………………」
「な、何よ柚木友理! その哀れんだような目は!?」
「……強く生きてください」
「どういう意味なの!?」
「柚木さん? 何で芽依さんに同情的な目を――」
「……ついでにオマエも、強く生きろよな」
「何でオレも哀れみの目で見られるの!?」
最初はいつものように適当に巻こうとしたけど、今日はいつも以上に食いついてくる。絶好の機会を逃してなるものか!って感じだ。
……仕方ない。
ボク自身が持っている伝家の宝刀をここで切るか。
「そんなにボクと戦いたいの?」
「そう! 勝負事ならこの際、何でもいいから白黒ハッキリさせる!!」
「……いいだろう」
ボクは席から立ち上がり、王芽依の前で仁王立ちし――叫ぶ!
「そんなに戦いたいなら正々堂々、相手になってやるよ!!
――凛子がっ!!」
「私ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっ!!!??」
A組のいる場所から、学園中に響きそうな大きさの驚愕の声が上がる。
見れば、最前列でこちらの様子を伺っていたらしい凛子が、目玉が飛び出そうな程の衝撃を受けた顔で固まっていた。
これぞボクの持つ伝家の宝刀『凛子、キミに決めた!(半ば強制)』である。
幼なじみだからこそできる押しつけとも言うが。
「ちょっと待って、ゆゆっち! 何で私!? 何で少し貯めてから『凛子がっ!!』って言ったの!? 私の意思は!?」
おもしろいぐらい慌てふためく凛子。
何でって聞かれたら、香坂拓也とセットで変な因縁を付けられるぐらいなら、ボクと凛子のセットで因縁を付けさせようという行き当たりばったりな作戦を、今この場で思いついたからだよ。似たようなことは遅かれ早かれする予定だったし、フラグ折るのに丁度いいかなって。
仮にもライバルキャラなんだし、相手ぐらいしてやりなよ。
「凛子とボクは幼なじみであり、共に切磋琢磨してきた。特にボクは凛子の練習相手として、何度も組み手をして、何度も強くなれるように指導してきた。大げさに言うならば、凛子はボクの弟子と言っていい。つまり! 弟子にも勝てぬようでは、師匠であるボクに挑もうなど100年早いわっ!ということだ。理解したか?」
「私、ゆゆっちの弟子扱いだったの!? いつの間に!?」
「なるほど一理ある。つまり、その弟子を倒すことが柚木友理への挑戦権という訳か……なら話は早い! 私と勝負しろ弟子ぃ!!」
「何でメイちゃんはメイちゃんで、納得してんの!?」
王芽依が割と脳筋で助かった。
そこからは「少しおもしろそうかも?」と2人の勝負が気になりだした1年たちを煽動し、あれよあれよという間に小谷凛子vs王芽依の勝負が決定された。
野々上先生を含んだ他の先生方の反応?
もうどうにでもなれよ、って雰囲気でしたが?
「……柚木さん、めんどくさいからって小谷さんに押しつけたでしょ?」
「ゆゆっち、何の話かさっぱり分からな~い」
イベントフラグ折るのが優先だよ? 本当だよ? 7割はフラグブレイクが理由だ。残りの3割が「ただでさえ忙しいんだし、凛子に丸投げしちゃおう」となっているだけなんだ。
凛子と王芽依が、直径50メートル程の白線が引かれた円の中で対峙する。
そろそろボクも実況らしいことをしよう。
「さあ、準備が整いました! 勝負内容は単純! 制限時間10分の間で、先に相手へクリーンヒットを与えた方が勝ちとなります! 『プロテクトフィールド』はすでに展開しているので、思いっきり暴れても平気です! 周りの観客(生徒&先生)は自己責任で勝負の行方を見守ってくださあああいっ!!」
「テンション高いなー柚木さん。ズズッ」
マイクを握りしめ声を張り上げるボクと、落ち着いた雰囲気でお茶をすする香坂拓也。シュールな光景だな。
てか、そのお茶どこから持ってきた?
「テンションが低い実況とか誰が得するんだよ? では場も暖まってきたので、両者はそれぞれ構え!」
ボクの声に反応して、凛子と王芽依はそれぞれ得意な武術の構えを取る。それと同時に2人の異能も発動する。
片や、闘気のようなものを薄らと体から発する凛子。
片や、体から溢れ出たオーラが2メートルはあるかという虎となり、まるでスタ〇ドのように背後に控えさせた王芽依。
「小谷さんの方は分かりづらいけど、芽依さんの方はいかにも強そうだな……アレって、ホワイトタイガー?」
「白虎って言えボケ。……説明すると、凛子は『気功術』という“気”を操る異能! 王芽依は『白虎霊気』という、背後に守護霊のごとく半実体化させた白虎を操る異能! どちらも接近戦を得意とするものです! さあ、この時点ではどちらが勝つと思われますか香坂さん!?」
「両方の実力を知らないんでハッキリとは言えませんが、芽依さんの異能の方がリーチが長いので、有利なのでは?」
確かに見た目だけなら王芽依の異能は派手で、逆に凛子の異能は地味に思えるかもしれない。王芽依の方は早くも勝利を確信している。
原作では、この時点の実力は王芽依の方が若干上回っていたし、間違った評価ではない。ただし、あくまでも原作の話だ。
「それでは……勝負、開始!」
「ヤァアアアアアアアアアアアアアッ!」
審判の合図と共に飛び出す王芽依。
対して凛子は、構えを解かずに落ち着いた様子でいる。
ス〇ンド的な異能である白虎が、その大きな爪を凛子に振るう――直前、
「覇ァッ!!」
「ゴブウッ!!?」
『気功術』によって身体能力が極限まで高められた凛子が一瞬で王芽依の懐へ入り、強烈な掌底を突き出した。
消える白虎。静まりかえる観客。白目を剥いて倒れる王芽依。拍子抜けしたような表情の凛子。驚いて目を見開く隣の香坂拓也。そして、「ま、こうなるだろうな」と予想していたので平常運転のボク。
「あー……勝者、凛子」
とりあえず、動かない審判の代わりに勝者を告げておく。
数年前から、実際に骨が折れるほど特訓に付き合ってたんだぞ? 凛子の異能のノウハウは当時の時点で本人よりも詳しかったんだし、丁寧に教えてきたから本当に師弟関係なんだよボクと凛子って。当然、原作よりも強くなっています。
そりゃこうなるわな。
【原作の初戦】
凛子 LV.5 vs 芽依 LV.7
【本作の初戦】
凛子 LV.38 vs 芽依 LV.7
そりゃ勝てんわ。




