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第23話 この世界が何であろうと

 2022/12/4

 明日奈のセリフ回しを一部修正。


 今日も今日とて、『ヴァルダン』のフラグへし折りタイムスタートだ!

 ――と言っても、今日に限っては気が楽だけど……


「ねえ、聖華院マヤってアンタに百合の花咲かせてるじゃない。原作から随分かけ離れた存在になってるけど、フラグって立つものなの?」


「直視したくない現実、わざわざ説明ありがとう」


 先程、駅のホームで合流した明日奈がボクの緩みをへし折った。




 ボクの名前は柚木友理。

 事故によって死んだと思ったら、前世で好きだったエロゲ『ヴァルダン』の世界にTS転生――それも、ヒロインの妹という微妙なポジションに生まれ変わってしまった転生者だ。だが、それさえ除けばごく普通の現役JKである。

 主人公とヒロインのニャンニャン展開阻止のために暗躍していたら、同じ転生者に会ったり、なぜか実姉が重度のシスコンに変わったり、悪魔と契約(?)したり、ヒロインを百合属性に目覚めさせちゃったり、SFな存在と邂逅したり、ヒロインを中二病に目覚めさせちゃったりとかしたが、それさえ除けばどこにでもいる普通の女子高生だ。




「本当に普通の女子高生は、自分のことを“普通”とは言わない。ついでに、現実逃避してプロローグ的なことを考えたりもしないわ」


「当たり前のように、心を読まないでくれませんかねぇ明日奈さん……!」


「読まなくても顔に出てるのよバカ。どんな奴でも重要なことを全部除いたら、そりゃ“普通”のカテゴリーに入るでしょ。いい加減に現実を見なさい」


「……いや、まだ間に合うかもしれn」


「とっくに手遅れよ」


 明日奈はボクと同じ転生者であり、利害の一致(自分の義兄がヒロインとイチャつくのとか嫌だ)によって協力関係を結んでいるが、ここ最近は少しボクに対して扱いが雑だと思っている。


 いや、全部ボクの責任なんですけどね!

 瑠維の一件以来、結構厳しい対応を取られております!


 実際、原作通りだと今日のフラグが1番多い“聖華院マヤ”という子は、原作乖離が瑠維ほどではないにしろ激しい。何でそうなったのか本気で分からない。

 ぶっちゃけ、同性愛者(対象はボク)になっている。

 ついでに、お姉ちゃんと火花を散らす関係となった。



 ボクが何したってんだよ神様?



「それで? マヤに関する最初のイベントって通学路で起こるの?」


「原作ではな。原作の――傲慢なお嬢様になってたマヤが、通学路でぶつかった生徒に詰め寄っている所に主人公が登場。案の定ギスギスした雰囲気で1日を過ごすことになるんだけど、ここでマヤに突っ込んだ質問をすると早期に“マヤルート”が開拓できる。逆にここで踏み込まないとフラグが発生せず、次のイベントまで待たないと開拓できない。そうすると“マヤルート”の難易度が上がる仕様だった」


 聖華院マヤはゲームでも珍しい、好感度がマイナスからスタートするヒロインだった。ちなみに、プラスからのスタートは原作の香坂明日奈。さすが義妹だ。

 ヒロインの中でも攻略が難しい一方で、ルート開拓の仕方が複数存在し、やりこみ要素の強いキャラクターでもあった。


 当然、ボクは前世で全てのルート開拓を行った。有料コンテンツも含めて“マヤルート”のCG回収率は100%。他のヒロイン同様等しく愛したし、今は遠い過去の思い出となった下半身の息子も世話になっている。



 ……何とか戻らないかなー我が息子?

 いや、今更戻られても逆に困るか。



 話を戻そう。


 そんな“マヤルート”だが明日奈の言ったとおり、本人が原作と違いすぎてもう予想が立てられない。というか、すでに消滅してる可能性大だ。



 だって――



「キャッ!」


「あら? 大丈夫ですか?」


「すすすすみません! よそ見しちゃってて!」


「特にケガもありませんし、気にしないでください」



 ……目の前で原作のイベントっぽいのが起こったんだけど、大事にもならず普通の対応をするマヤの姿が。

 これでは主人公も関われないだろう。

 だって、ただの心の広い(広すぎて百合に目覚めたけど)お嬢様だもん。


「そもそも、この数日で分かったけど、マヤって友理しか恋愛対象に入ってないじゃない。同性なのに……。正直ここからどういう展開になっても、兄貴とそういう関係になるとは思えないんだけどねぇ。異性のはずなのに」


 明日奈が呆れるのも分かるんだ。

 だってお嬢様系ヒロインが主人公じゃなくて、同じヒロインのつまりボクにアタックしてるから。


 言い訳させてもらうなら、たぶんマヤって最初から百合の才能があったと思うよ? 瑠維が中二病の才能を開花させちゃったように……


「ごもっともな意見だけど、もう1つこの数日で分かったのは、オマエの義兄である主人公が関わると原作に近い展開になりやすいってこと。世界の修正力だか何だか知らんけど、偶然で済ませるには頻度が高すぎる。なら、ボクたちもイベントが起こることを前提に動くべきだ」


「ごもっともな意見ね」


「「ハァ……、めんどくさい」」


 ボクと明日奈は2人同時に息を吐く。

 めんどくさい理由だが、どちらも個人的なワガママを押し通したいからこそがんばることができる。でなければ、とっくに匙を投げてるところだ。


 ほら、そうこうしてる内に面倒な案件がやって来た。


「見ろ明日奈。若干のズレこそあるが、オマエの兄貴が数十秒後にマヤと接触しそうなポイントに足を運んでいるぞ?」


「うっわ~……兄貴、タイミングの神様に愛されてるわね~」


 この世界の主人公である香坂拓也が、通学路をごく普通に歩いてる。それだけなら、気にすることもないだろう。

 問題はそろそろ主人公を止めないと、マヤの存在に気付く位置まで来てしまうところにある。当のマヤもぶつかってきた女子が未だにペコペコしており、通行の邪魔にならない位置に移動しただけで立ち止まっている。


 明日奈はタイミングが良いと言うべきか、悪いと言うべきか分からない自分の義兄に対してドン引きしていたが、すぐに目でボクに「どうにかしなさいよ。てか、もう用意してんでしょ?」と訴えた。




 ――なので、




「あー、テステス。……聞こえるか忍?」


『はい。聞こえますよ友理さん』


 無線機を使って、近くに待機する『ヴァルダン』のヒロインの1人であり、ボクの従者ということになっている忍に連絡を入れる。




「やれ」


『了解。マルコ、Go!』


『ワゥンッ!!』




 無線機越しにマルコの鳴き声が聞こえ、



「ガルルルルルッ!」


「うわっ!? また出たー!!」



 香坂拓也の悲鳴が響く。



「……良し、成功」


「もっと他に方法が無かったの?」


 突然現れたマルコにビビって学園とは反対方向へ走る香坂拓也、それを追いかけるマルコを見ながらガッツポーズを取るボクと、どこか遠い目になりながら走り去る義兄を見る明日奈。


「同じ方法が使える内は使った方がいいからね。どうせ近い内に、マルコがボクの家で飼われている犬ってこともバレるだろうし。……うーん、同じ手が使えるのもあと1回が限度かな? どこでマルコを投入しよう?」


「そこじゃないっての。アタシが言いたいのは……もっと、こう、穏便な方法はなかったのかってことよ」



 穏便な方法ねー……



「作戦が失敗した時の保険で、①突如襲いかかるカラス作戦や、②突然襲ってくるハチの大群作戦、③ボクが腰の曲がったお婆ちゃんに変装して駅までおぶってもらう作戦、④たまたま会ったボクに主人公がマンガみたいなハレンチ行為をして周りから白い目を向けられる作戦と、いくつか用意しているけど……できれば後半の作戦はしたくないんだよなー」


「そこまで用意できることがおかしいでしょ」


 ボクの異能なら不可能じゃないんだよ。

 ただ最後の作戦はボクへの精神的ダメージが大きいから、本当にどうしようもなくなった時の手段にしたい。

 じゃないと心が死ぬ。


「それじゃ、人気が少なくなったらボクらも学園に……」


「ねえ、1ついい?」


 明日奈は、香坂拓也が走り去った方を向きながら問いかけてきた。


「ここ数日の兄貴とか、アニメでも見たことあるイベントとかを見て思うようになったんだけど……そもそも、この世界って何なのかしら?」


「本当に今更だな」


 考え出したらキリがないだろうに。


「いえ、この世界がアニメにもなったゲーム『ヴァルキリーダンス~2つの月と英傑の乙女たち~』の世界だってことは分かってんのよ。今日までの人生でアニメに登場していた兄貴や、魅力のあるヒロインたちがいることからも、それだけは確かだって……」


 だけど……と、明日奈はボクを見る。


「アタシたち何で原作がゲームの世界に転生したのかしら? 兄貴の行動も本人は無自覚のはずだっていうのに、まるでアンタが言った“世界の修正力”や“世界の意思”ってのが働いてるみたいで……何というか、気になっちゃって」


「気にするだけ無駄だよ」


 制服に付いたホコリを落としながら立ち上がる。


「どう考えたって答えなんか出ないし、出してもボクらがやることは変わらない。この世界がファンタジーで『ヒロインと結ばれなきゃ魔王は倒せないぞ!』って事実があるならともかく、香坂拓也が誰と結ばれても結ばれなくても、世界にはこれっぽちも影響は無い。なら、今まで通りにやるだけさ」


「……ポジティブねぇ友理は」


 本当にこればかりは答えが出ない。

 卵が先か、鶏が先か……

 ゲームを元にこの世界が創られたのか、この世界を元にゲームが作られたのか、それこそ神のみぞ知るってやつだ。



 案外、物語が進行したら自称神様が現れたりするかもしれない。


 ボクと明日奈を転生させた存在が。



「ほら、今度こそ行こう」


 ボクは自分と明日奈を包んでいたを取り外す。


 外から見ていた人がいれば、さぞ驚いただろう。

 何せ通学路に生えている大きい木の上に突然、女子高生2人が現れたように見えるんだから。


 ボクが取り払った布は、某魔法作品にも登場する透明マ〇ト。

 変化した明日奈の異能で創造された品だ。


 一応この『ヴァルダン』の世界そのものが何か? については設定として決めてあります。公開するのは当分先になるでしょうが……



~おまけ~


A.友理「ボクが何したってんだよ神様?」

Q.神様「原作も主人公も、ボロボロにしたろうが」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 私にはわかるんです! 結局ヒロインズは友里に堕とされると [一言] 生やす技術とか、アルカに頼めばなんとかなる気が.....
[一言] おまけに便乗。 神様「お前がヒロインズのネコになれば、全て、何もかも、丸く収まるんだよ」 友理「ふざけんな」 SF設定「生やす技術、あるかもよ?」 友理「っ!!?Σ(゜Д゜)」 ヒ…
[一言] 確かにやりすぎなくらい色々やってるな これは言い逃れできない 主人公はほんとドンマイ エロゲの神に愛されたばかりに
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