SS 忍の過去(中編)
予想より遅れたのは全部『モンスト』のエヴァコラボ(4回目で恐らく最後)のせいなんや。無課金勢なのにシンジくん3種類を手に入れてテンション上がったせいなんだ……!
まあ遅れた分、長めです。でもってまた終わらなかった。
※後半でシリアスがシリアルに突然変異します!
その日も、いつものように過ぎていくのだと思い込んでいた。
最近何かを隠している顔色の悪くなった姉のことを気にしながら、少しずつハードルが上がっていく訓練をしていました。仲間内の話を聞く限り、私は潜入とかそっち方面で才能があったらしいです。大人たちは嬉しがっても私は嬉しくありませんでしたが。
そんな私の腕には黒に茶色のラインが入った『Heartギア』があります。
正直何なのか分からず気持ち悪いという印象でした。
大人たちは説明もせず「嵌めろ。肌身離さず付けていろ」としか言わないうえに、たまたま聞こえてきた「たったこれだけしか用意できないのか?」「最近は取り締まりが厳しい」「海外にあった横流しのルートが潰れたのが大きい」という会話が不穏に感じたのも原因です。
意味が理解できずとも、幼いながらに本当はここにあったらダメなモノなんだと腕にある『Heartギア』を見ながらため息を吐いたのを覚えています。
私を含め、訓練の成績がいい数人にしか渡されなかったことなどを踏まえて、その数人とは情報共有などもしていましたね。
そうして訓練が終われば『Heartギア』を調べたり変な機械で体を調べられたりといった、1ヶ月近くもしている検査も終了してみんなの集まる部屋に戻ります。
最初の違和感は部屋に戻った直後に分かりました。
姉と慕う少女がいなかったのです。
「あれ? お姉ちゃんは?」
「あの子、何でか帰りが遅いの。まだ戻っていないの」
「“けんさ”が遅れてるのかな? 部屋がいつもよりさびしいね」
『Heartギア』を持つ私を含めた数人は謎の検査などをやらされるため、他の子よりも部屋に戻るのが遅い。
なので、戻れば1番に姉と慕う少女が抱きついてくる。
笑いながら「おかえりー!」と言って。
それがないだけでキュッと胸が締め付けられた。
心臓がいつもより早くドキドキする。
暑くもないのに汗が出る。
それは当時の私が初めて感じた“焦燥感”でした。
「あ、あの……」
その時、私と同じくらいの男の子が近づいてきました。
気弱で線が細く、みんなの中で1番大人を怖がっている子。
「こっちに戻ってくる前にね、大人たちが怒ってる声が聞こえたんだ」
「怒ってる声って?」
「分かんない。でも、確か、キミと仲が良かった人のいる方向だったと思う」
「――っ!? それって……」
どういうこと? と聞こうとした瞬間でした。
乱暴に部屋のドアが開けられたのは。
姉と慕う少女が放り込まれたのは。
「お姉ちゃん!!」
「し、のぶ……ちゃん」
悲鳴のような声を上げて放り込まれた姉の元へ向かえば、顔色は今朝よりさらに悪くなり、何度も殴られ蹴られたような痣が体中にありました。
部屋にいた他の子も怯えたり泣きそうになっている様子でした。
姉を放り込んだ大人はいつも以上に冷めた目で姉を見下ろしていました。それは物を見る目ですらなく、汚物を見るような目でした。
それが、私の感情を逆なでした。
「お姉ちゃんに何したの!!」
ほとんど反射的に声を荒げた私は、
「うるっせぇんだよっ“モルモット”風情が!!」
「――あぐっ!?」
大人に顔を蹴られた。
左目の付近だったので余計に痛かった。
「このガキ、余計な手間をさせやがって! オレらも暇じゃねーんだ! 今度変なことすりゃあ、本当にぶっ殺すぞ!」
そう吐き捨て、大人は乱暴にドアを閉めて出て行きました。
正直、今までの人生の中で1番痛かったです。
当たり所が悪かったせいで後に左目の視力が著しく下がったのですから、当然のことでしたが。現在の私が左側を髪で隠しているのもオシャレではなく、焦点がイマイチ合わない左目を隠しておきたいからです。
……ちなみに数年後、そのことを知った友理さんが「ブッコロス」と言ってしばらく戻らず、帰ってきたらやけにスッキリした顔をしていましたね。
何をしてきたのか聞くのが怖いです。
話を戻しますと、その時の私は自分の痛みも周りの心配する声も気にせず、すぐに姉の元へ再び寄りました。
「お姉ちゃん! 一体どうしたの!?」
「あ、はは……ちょっと失敗しちゃった」
それから姉に無理をさせない範囲で話を聞けば、どれだけ姉が無茶をしたのかが窺えました。
結論から言うと姉はもう体がボロボロで、私たちがこの場所から逃れる方法がないかと密かに探っていたそうです。
先程の大人は姉の監視役だったそうですが、仕事がずさんで隙だらけだったために動ける範囲で脱出できそうな所を調べていたと。
ただ、今日はいつも以上に上手く動けたのが災いして、別の大人に見つかってしまったそうでした。
「何でそんな危ないことしたの!?」
「言ったでしょ? もう、体がダメなんだよ。最近はね、もうずっと体中痛いのが止まらないんだ。大人たちも『コイツはそろそろダメだな』って言ってたし。だから、最後にやれることだけしようと思ってたんだけど……上手くいかないなぁ」
そう言う姉は――いつものように笑っていた。
でも、限界が近いからか無理をした笑いなのは幼い私には分かってしまった。
その後、何とかベッド(囚人用のような硬いもの。フカフカ? 何ですかそれ?)に運び、みんなが持ち寄ったタオルケットで偽物フカフカベッドモドキを作りました。少しでも姉の負担を軽くしたくて。
「お姉ちゃん、もうこんなことしちゃダメだよ」
「……うん」
「朝食とか私が持ってくるから」
「……ぅん」
「お休みお姉ちゃん」
「……シノブちゃん」
「? なーに?」
「愛してるよ」
「え、う……わ、私も」
「うふふ、カワイイな~」
私は恥ずかしくなって急いで自分のベッドに入りました。いつも上に掛けているタオルケットは無く、目の痛みも引いてくれませんでしたが、姉の「愛してる」という言葉に胸が温かくなって、いつしか意識が沈んでいったのです。
今でも、愚かだったと思います。
“体がボロボロ”、“限界が近い”という意味をもっと考えるべきでした。そんな状態の人間が暴力を振るわれたらどうなるか想像するべきでした。
“朝食を持ってくる”と言った時だけ返事が小さかった理由に気付けていたら、“最後”の時まで姉のベッドに潜り込んでいられたかもしれないのに。
翌日の朝、姉は――冷たくなっていた。
それは、みんなが目の当たりする初めての“死”という概念。
大人たちは冷たく言った。「とうとう死んだか」と。
私の耳には姉の「愛してるよ」という言葉が何度も聞こえて、
私の中の大事な何かが――音を立てて砕けた。
正直に言って、それからのことはほとんど覚えていません。
目の治療を最低限してもらったことや、ロボットのように言われた通りのことをしたのだけ記憶にあります。
他の子供たちは姉のように死にたくないと、それまで以上に大人たちの言うことを怯えながら聞いていたそうですが、全く気付けませんでした。
何もかもが……どうでもよかったのです。
姉のいない世界に、価値を見い出せませんでした。
それこそ、いっそ死んでしまえば姉の元へ向かえるのではと考えてしまうほど。
姉が亡くなってどれだけ経った頃だったでしょうか?
多少なり悲しみが薄まって、ある程度自分のことを考えるようになった時です。
その場所で、見慣れないものをよく見かけるようになったのは。
(……今日も、いるなぁ)
ネズミ。
私たちが見られる数少ない本の中にあった生物。
それ自体は特に気にするようなものではなかったのですが……
(まるで……見られているみたい……)
そのネズミは私たち子供や大人をジッと見ていました。
私以外にもネズミの存在に気がついている人はいましたが、気にもとめませんでしたし、気付いても絶妙に手を出せない半端な位置からこちらを見ていたからです。隠れやすい廊下の曲がり角や天井にある隙間など。
私が気付きやすかったのは、ネズミが私を1番見ているようだったから。ネズミ越しに妙な視線を感じると言いますか……
ある日、ベッドで眠ろうとしている私の側に例のネズミがやって来ました。
本当、どうやって侵入したのか謎だった覚えがあります。
先に種を明かすと、それは友理さんが持つ悪魔の異能で作り上げた“下級使い魔“と呼ばれる存在だったのですが。
曰く、カメラ機能付きの生きたラジコンカーが近いとか。
まあ、当時の私はそんなこと微塵も知らなくて、ただどこからか来たのであろう不思議なネズミにいつぶりかの興味を持ったのです。
「アナタは……何? どうして……私を見るの?」
反応は期待していませんでしたが、そのネズミは数秒ほど何かを考えるそぶりを見せると、壁に爪を立てて傷付け始めました。
「え? ちょっと……」
まさかの行動にどうすればいいのか分からないまま、ネズミを見ていました。
しばらくすると、ネズミはどこかへ去って行きます。
そして、去った後の壁に残っていた傷は――
『 3 か ご 、 よ る 』
「み、3日後の夜……?」
そんな、謎めいた文字だったのです。
それから3日後。
いつものように訓練を無心で終えた私は、落ち着かない気持ちで夕食のドロドロした物体を食べていました。
(今が……3日後の夜、だよね)
外の景色が全く分からないうえに時計も私たちの生活空間には設置されていなかったので、“夜”と言えるのが今の時間帯なのか自信はありませんでしたが、就寝時間から考えるとそろそろかなーとボンヤリ思っていました。
(何が……起きるんだろう……)
さすがの私でも、例のネズミが普通じゃないのは分かっていました。
だからこそ今日は何が起きるのだろうと気になったのです。
そして――“その時”は突然やって来ました。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』
突如として響く謎の音、そして直後に来る地震のような衝撃。
部屋の中にいた子たちは一瞬でパニックになります。
「キャーーー!!」
「何だ!? 何が起こってるの!?」
「い、今の何の音なんだよ! 動物の声?」
「こんな恐くて大きい声の動物なんかいないわよー!」
何かが起こるとは思っていましたが……どうやら事は当時の私の想像力程度ではかれるものではなかったのだと理解しました。
しばらくすると、銃を持った大人2人組が部屋に入って来たのです。
「ガキども! こっちに来い! 今すぐにだ!!」
「手間ぁ掛けさせんじゃねえぞ!!」
拒否を許さないほどの迫力――そして焦りの感情。人を殺せる道具を持っているのに、それでも足りないと引きつった顔が物語っていました。
振動が近づく度に顔から余裕が無くなっていく様は、年上の子たちからすれば見ていて気分のいいものだったと後に語っています。
私たちは言われるがままに部屋を出ました。
いつも通りの廊下を走り、いつもなら鍵が掛かって開けられないドアが開かれ――そこで全員が止まりました。
「「「「「 わ あ ぁ 」」」」」
それは生まれて初めて自分の目で見た――外。
暗いはずなのに星と建物の光が周囲を照らし、眩しく光輝いている満月の金月・銀月に目を奪われました。
「……綺麗」
もう、それしか言葉が出ません。
それ程までに衝撃的だったのです――周囲の崩れた建物と慌てふためく大人たち、そして現在進行形で蹂躙するワニ助が目に入らないくらい。
まあ、ワニ助を気にしなかったのは私だけのようでしたが。
今思うと全長100メートルに達しそうな大きさのワニが建物を破壊し、銃を持った大人が応戦しているのに、初めての外に感激していた私って……
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアッ!!?」」」」」
当然、私以外の人は大人も子供も関係なく悲鳴を上げます。
「何あれ!? おっきなワニさん!?」
「そんなわけあるかー!!」
「せっかく外に出られたのにコレって!」
「ゴジ〇だ! 昔、話に聞いたゴ〇ラだよ!!」
「え、あれが〇ジラ! 本当にいたの!?」
……みんなが言っているゴジ〇が何かは知りませんでしたが、とりあえず恐慌状態になっている大人よりかは余裕がありそうだと見ていて思いました。
――そして、ついに、あの人と出会ったのです。
「ちくしょう! 本当に何なんだよアレは!? 誰かの異能なのか!?」
「んなこと言ってる場合じゃないだろが!! ここまで騒ぎが大きくなったら、もうこの施設は利用できねえ! とにかくガキ共と最低限の研究資金、機器をトラックに積み込んでとんずらするしか――」
「必殺! 夢の国へ強制送りダブルキーーーック!!」
「「――ぎゃばべっ!?」」
突然でした。
前触れもなく上から人影が降ってきたかと思えば、私たちをどこかへ連れて行こうとした2人の大人の頭を踏んづけて地面にキスさせました。
すごい勢いでぶつかったので2人の意識は一瞬で刈り取られたでしょう。
「ふぅ、夜のパレードに無粋な輩はいらないんだよね」
その人はコミカルなネズミのマスクを被った、私たちとそう年が違わないだろう背丈の子供でした。
背中から生えたコウモリのような巨大な翼――第25柱グラシャラボラスの翼――を仕舞い込んで子供は言います。
「やあ! ボク、ネズミーマスクだよ! ハハッ!(裏声)」
どこまでが本気で、どこまでがふざけているのか分からない、そんな友理さんとの初めての出会いでした。
……もう少しロマンチックなのが良かったなーとは、今でも思っています。
夢の国違いwww
~とある日の会話~
忍(´・ω・)「――ということで、左目の視力が悪くなってしまいまして……」
友理(#・∀・)「へ~そうだったんだ~(ゲームでも明かされなかった衝撃の真実じゃないか! そいつ、メラットコロス。ザクットコロス。テッテイテキニコロス。コロスコロスコロス)………………ブッコロス」
忍(;゜ロ゜)「!!?」
~おまけ~
・第9柱パイモン:下級使い魔の召喚




