第21話 次のステップ
今回は視点が2回ほど変わりますのでご注意を。
ついに『ヴァルダン』の主人公、香坂拓也を倒したボク!
その華麗な勝利を我が女神な姉に祝福してもらうため早速観客席に向かえば、そこで待ち構えていたのは迫力のある笑みを浮かべる明日奈だった。
仁王立ちでこちらを睨む姿はまさに覇王!
――ちょっと面貸しなさい。
そんな有無を言わせない言葉に素直に従ったボクは偉いと思う。だって、あそこで断ったら本格的にマズいって本能が訴えていたから。
そして連れてこられた観客席のある場所の裏側。
まるで校舎裏に呼び出されてカツアゲされる人みたいな状況になった。
途中、アルカとマルコを連れた忍がやってきて「おめでとうございます。因縁の宿敵を倒されたこと、我が事のように自分も嬉しいです」と告げた。
入学式が終わったら帰ってもいいよって言っておいたのに、わざわざ模擬戦を見るために残って、隠れながら観戦していたらしい。
ついでにアルカも相変わらずの無表情ながらも健闘を称え、マルコは自分が活躍するシチュエーションを求めてきた。
とりあえずは、今度こそ見つからないように家まで帰るように言いつけ、ゆっくり休んでもらう。帰りにケーキを買ってくるよ、と言ったら忍は素直に礼を言い、アルカは「私、モンブラン」と希望を言ってきた。
最近は自分の意見を昔より言うようになってきたアルカの成長を祝うべきか、地味に図々しくなってきたことを悩むべきか……
そんなこんなで今度こそ忍たちと別れ、明日奈の要件を聞くことに。
ただし、ボクは……ジャージ姿のまま正座させられた。
「あの、明日奈……さん?」
「最初に、模擬戦の勝利おめでとう。まさか本当に兄貴を――この世界の主人公を倒すだなんて思ってみなかったわ。72体の悪魔の力だなんて……ゲームの『ヴァルダン』は随分ぶっ飛んだ有料サービスを提供してたのね」
実際は、本当に72種類の異能を使えるシステムじゃなかったんだけどね。
ゲームの悪魔従えし魔導王は“グラシャラボラスを中心に多種多様な攻撃や召喚術ができる”みたいな感じだったんだ。
この世界で『Heartギア』の力によって異能に目覚めて、本当に72種類の力が扱えると分かった時はやれることが多すぎて焦ったくらいだ。まあ、その内のいくつかは常時発動型だったり、すでに効果を発揮し終えて使う機会がなかったりするものもあるんだけどね。
マルコとか、召喚はできたのに送還ができなくてペット枠になったんだ。
――明日奈もさすがに気付いてるよな? マルコが――本物の大悪魔マルコシアスだって。戦闘時とか本来の姿に戻れるから激強だよ?
さすがに分かってるか。
さっきマルコを見る目がすごく微妙なものだったし……
「アタシもね、最後の巨大ワニによるプレスとかに関して言いたいことはあるけど……今日はもうツッコミ過ぎて疲れてるのよ」
「あ、はい。すんません」
本当に疲れた様子で息を吐く明日奈を見てると、精神ダメージが半端ない。いっそ、いつものように怒ってくれた方が安心するのに。
ちなみに、サレオスの力により呼び出され、最後のダメ押し“のしかかり”を見事果たした巨大なワニ――ワニ助は、大悪魔サレオス本人ではなく書物でサレオスが騎乗したとされるワニの方だ。最初はワニの上に乗るとか~(笑)って思ってたけど……そのワニが全長100メートル近いデカさなら問題ないよね。
「で、今後はどうするの? アタシにも教えてくれるんでしょうね?」
「今後って?」
「だ~か~ら! 最初の目的であった原作開始日のイベントは、さっきの模擬戦を最後に全部アンタがメチャクチャにして終わらせたでしょ? 兄貴も、今は保健室で寝ているはずだし。アタシが言っているのは明日以降よ。共通イベントもまだあるんでしょうけど、ここまで来るともう原作の知識とかほとんどアテにならないんじゃないの?」
明日奈の疑問はもっともだ。
細かい部分はこれから先もまだあるけど、ヒロインたちに大きく関わりそうな原作開始初日のイベントは潰せた。
では、これからどうするのか?
もちろん主人公の監視はあるけど、前々から企んでいた計画がある。
これについても、超個人的な理由だけれど。
「実は密かに進めていた計画があってな、それが次の大イベントになる予定なんだ。中心となるヒロインが変わりすぎて頓挫しかけたけど」
「……また碌でもない計画なんでしょ?」
「そこは否定しない。その大イベントは――」
次のボクの言葉に、明日奈は目を見開いた。
「――“瑠維ルート”だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どことも知れない暗い場所。
そこは異様なまでに静かであり、不気味さを感じずにはいられない。
――カツン……――カツン……
鳴り響く足音が、空間に反響する。
足音の主は何も感情を感じさせない足取りで目的の部屋の前に着く。
――コンコン
「ボス、失礼します」
その声は凜としながらも冷たさを感じさせる少女のものだった。
少女が部屋に入れば、壮年の男がハマキをふかしている。部屋中に煙が漂っていたが、少女は眉1つ動かさない。
「……来たか」
「ボス、仕事の話と聞きましたが」
「そうだ。現在、我が組織は不幸が重なり苦境に立たされている。一時的なものだろうが、他の連中が調子づくのを見るのは面白くない。状況を打破しようと情報を集めていれば、1つ気になるものがあってな……」
「それは?」
「以前、我が組織が所有していた例の“異能の品”がジャパンにある可能性が高い。オマエには、それの調査と回収を命じる」
「――っ!? ジャパンに……」
男は自分を落ち着かせるように煙を吐き出し、少女を見据える。
「レイカ=氷道よ、失敗は許されんぞ」
「はっ!」
レイカと呼ばれた少女は、自身の藍色に薄紫のラインが入った『Heartギア』に手を添え、どことも言えぬ場所を見つめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
広い部屋にカタカタとキーボードを打ち込む音だけが響く。
「ふう、最近は仕事も増えてきたわね」
その部屋の主――高級なイスに背を預けた、男性なら誰でも振り向きかねない豊満なボディを持った女性が大きく伸びをする。
と、そこで部屋にある自動ドアが開き、若い女性が入室する。
自動ドアは伸びをした女性の正面にあるので――
「所長、この書類にサインを――っち! モゲレバイイノニ……!」
「ちょっと、いきなりそれは酷くない? 何に対して言っているのか分かるけど、大きすぎると肩が凝っちゃうのよ?」
「わ、私だって、寄せればBカップはありますもん! それにここでなら重力の縛りが緩い分バストも……!」
「それ、アナタぐらいのサイズの子がみんな言って、みんな涙した話よ?」
「うわああああああああああああああんっ! 所長のバカァアアアアアアアアア! 仕事増やしてやるぅううううううううううううううう!!」
そんな捨て台詞と共に若い――スレンダーな体型の女性は書類を乱暴に所長と呼ばれた女性の机に置いて、逃げるように去って行った。
……一瞬だけ見えた、目に光るものの正体は深く問うまい。
「はぁ、ここに配属されたってことは優秀なんでしょうけど、無重力なのはあくまで外で、中は重力装置が働いているって分かっているのかしら?」
所長はパソコンの1つを操作して、外にある監視カメラの映像を見る。
そこには、岩のような肌の地面と青い空――ではなく、星々が煌めき様々な衛星が浮かぶ宇宙空間が映し出されていた。
監視カメラ映像の下には『第2月面基地、No.5カメラ映像』と表示されている。
ここは“銀月”に建設された宇宙施設。
宇宙開発を目的とした“金月”にある『第1月面基地』とは違い、『第2月面基地』は一般には知られていない。数十年前、トップシークレットの存在と共に、施設の材料を一気にロケットで宇宙に飛ばして作られたのである。
だからこそ、その“トップシークレット”関係でここ数年は慌ただしい。
所長はデスクの中から「極秘&重要」と赤くハンコが押された資料を取り出し、中身を見て頭を抱える。
「アナタは誰で、今……どこで何をしているの?」
資料には荒い画質の写真が載っている。
一見するとただの流れ星のように見えるソレは、拡大された写真では中心に人のような姿が写し出されていた。
知らない人が見れば首を傾げるだけのそれは、知っている人が見れば皆揃って同じ答えを言うだろう。
――何だかアルカに似ている、と。
~丁度そのころ柚木家~
アルカ(-ω-)「ムニャムニャ……地球は青かった」
友理(;― ―)「コイツ、人の気も知らないで気持ちよさそうにソフォーで眠りやがって。誰のおかげで無事に過ごせてきたと……」
マルコ「ワンッ!(まぁまぁ、オレのダチだしこれからも頼むぜ主?)」
というわけで、ようやく『エロゲ世界』1章終了です。
頭痛にも風邪にも咳にも負けず、ようやく宣言通りに毎日更新を果たせました。これも読者の皆様の応援があってこそです。
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作者のもう1つの連載作品『アルビノ少女の異世界旅行記』もよろしければご覧になってください。
今後の予定は後ほど活動報告にて。