第15話 入学式
というわけで、学園に向かうことになったボクら。
残念ながらお姉ちゃんは入学式の準備がまだ残っているそうで、泣く泣く一足先に学園へ戻った。
というか、本当に泣きながら戻っていった……
「ユウちゃーん! 約束通り来てね! 遅れちゃダメだよ! お姉ちゃん、いつまでも待っているから~!」って、大きな声で泣きながら分かれるもんだから通行人が何事だ?と驚いていたんだよ。
と言いますかねお姉ちゃん、アナタ気付いていなかったけど小さな子供とその親が「ママ~あれなに?」「しっ! 見ちゃいけません!」ってネタでしかあり得ないと思っていたやりとりしてたから、ちょっとでいいので自重してください。
さすがに恥ずかしい……
「アンタのお姉さんさ、アタシが知っている柚木秋穂よりもシスコンな気がするんだけど? どうしてああなったのよ?」
「さあ?」
瑠維の時と同じく、実際これは分からない。
気が付いたらお姉ちゃんのボクに対する愛が天元突破していたんだから。
思い当たるふしといえば、5歳の頃の吐血でアホみたいに心配させたことと、姉妹としてのスキンシップを多くしたぐらいで大した問題は無いはず。
「心の声が漏れているわよ。そんでもって間違いなくそれが原因だから。アンタ小さい頃に『お姉ちゃんと結婚する!』って言ったらしいわね。凛子と出会った頃に言われたって、秋穂さんから聞いたことあるわ」
「ん? 随分懐かしい話だな。あの頃はお姉ちゃんの相手をあまりしてやれなかったこともあって、泣かせちゃってさ。それから毎日のようにボクがどれだけお姉ちゃんを大切に思っているかを囁き続けたんだ」
「……秋穂さん、最近外国のことなんか調べてなかった?」
「将来ボクと行ってみたいんだってさ。ただ、どうにもマイナーな国みたいで。何で観光地とかある国にしないんだろ?」
「(そりゃ近親結婚や同性結婚が認められてる国だからでしょ)」
「何か言った?」
「何でもないわよ。あ、もう1つ気になったことがあったわ」
まだ気になることがあるのかよ。
「秋穂さん、本来よりも胸の大きさがワンカップ大きくなってないかしら? 今まで何度も会っていたから気付かなかったんだけど」
現実と二次元は違うとはいえアニメで見た柚木秋穂よりも胸がボリューミーだった気がすると、明日奈は首を傾げて聞いてくる。
「何だそんなことか」
その答え、満面の笑顔で答えてあげよう!
「健康管理とバストアップ体操勧めてみました!」
「………………」
――ヒュウウウウウウウウウウウウウウ……
すっごく寂しい音の風が、タイミングを見計らったかのように吹いた。
「……もう嫌だコイツ」
それ以上喋りたくないとばかり、学園に向かって歩き出した明日奈。
ボクのことを完全無視だと!?
「ちょっと待て! オマエにはボクのやった偉大さが分からないのか!? お姉ちゃんの、あの柚木秋穂の胸がワンカップ増大しているんだ! 母性の塊がレベルアップしたことで、お姉ちゃんの天使度がますます上昇したんだぞ!」
「それは『ヴァルダン』のヒロインたちの中で、2番目に胸が小さいアタシに対する挑戦状かしら?」
「そこまで言ってなくない!?」
公式設定資料でヒロインたちのスリーサイズが載っているんだけど、1位が柚木秋穂で最下位が波木忍だった。そして、香坂明日奈はワースト2位である。忍が中学生なことを考えると、実質の最下位は明日奈なのだ!
伝えた時にかなり動揺していたんだけど、気にしてたのか。
平均より少し慎ましいもんね……
と、ここで明日奈がアイアンクロー攻撃!
ボクの、というか柚木友理の顔が軋む!
「ギィヤアアアアアアアアアアッ!? ミシミシ鳴ってますよ明日奈さあああああああああああんっ!!」
「アンタ、今、忍ちゃんと比較したでしょ?」
「そうだけどぉおおおおおおおおおおおおおおおお! 中身はともかく外見は柚木友理なんだから手加減してぇええええええええええええ!!」
それからすぐに解放してもらったけど、学園に着くまでの間さんざん説教をされ続けた。主にオマエに言われたくないって。
――ワースト3位だもんね。柚木友理、てかボクは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『アマテラス特殊総合学園』は普通の高校と比べると、バカかってぐらいの敷地面積を持っている。
何せ、その県にいる『Heartギア』に適性を持つ高校生たちを全員受け入れなければならないんだ。いくら適性を持つ俗に言う“選ばれた子供たち”の人数が全体と比較すれば少ないとはいえ、県中から3学年分の人数が集るための学園を作ろうと思えば、必然的に十分な広さの校舎と施設が必要になってくるのである。
それぞれの学年のために用意した校舎から始まり、様々な施設を高水準で用意している。中でも特に広いのが第1グラウンドだ。これは異能を十全に使ってもらうため、安全を確保するために敷地内の中央にデーンッ!とある。もう、第1グラウンドだけで普通の高校の敷地面積を占めてるんじゃないかっていうぐらい広い。
野球やサッカーなどの野外で活動する部活のために第2、第3グラウンドもあるけど、相対的に小さく感じてしまう。
そして県中から高校生を集めるので、学生寮も存在する。しかも割と部屋が大きくて、通っている間は模様替えも自由という驚き。
『アマテラス特殊総合学園』はボクが住んでいる地域から電車と徒歩で十分行ける距離なので問題ないが、他の県も含めて『Heartギア』に適性を持つ高校生が通う学園はその県の中央に近い場所、もしくは交通の便が最もいい場所にある。
なので、住んでいる地域によっては半強制的に学生寮への入居が決められていたりする。それでも家から通いたい!と言う奴は……責任もって学園まで来い。交通費は自費だ。遅刻を何度もするようなら学生寮ね?と学園の偉い人とOHANASIすることに。
まあ学生寮に入れるのは家から学園に通うまでの時間が一定以上の人限定だし、半強制的に学生寮に入ることになった高校生は入居費が免除されるので、一概に善し悪しは言えないかな?
余談だが、敷地が広くて施設も充実している『アマテラス特殊総合学園』だけど、運営費の一部に国の税金が使われているので、普通の高校と卒業までに掛かる費用はそれほど変わらない。
閑話休題。
そんな『アマテラス特殊総合学園』に到着したボクと明日奈は、案内に従ってこれまた大きな講堂の中へ足を踏み入れた。
講堂の中は全学年の生徒たちでいっぱいになっている。
「何だかんだで入るの最後の方になったな」
「アンタが忍ちゃんにバカな頼みをするからでしょうが……!」
実は今この学園には忍&マルコ――と、連れてきてもらったアルカ――がいたりする。もちろん職員に見つからないよう隠れてだけど。
忍とマルコにはとある重要なミッションを前日に頼み込んだ。頼まれた忍はボクに頼られたのが随分と嬉しそうだったけど。
……あとで美味しいケーキを食べさせよう。
そして、忍に状況を確認しようとコッソリ会いにいこうとしたら、明日奈に不審がられて白状させられたのだ――すごく痛いチョップ付きで。
「いいじゃん。そのおかげでオマエの兄貴があのあとヒロインの誰とも会わずに、最初の選択肢フラグを折れたんだから」
18禁ゲームに限らずゲームなら形は違えど、ほぼ確実にある選択肢。
『ヴァルダン』も主人公の行動や、ヒロインとのフラグ建設に必要な選択肢。
その最初の1つを潰せたのは大きい。
――しっかしなぁ……
「ヒロイン全員と会いかけたってどういうことだよ?」
「アタシも聞けるものなら聞きたい」
最初の選択肢は主人公が広すぎる学園で迷ってしまい、たまたま見かけた1人でいるヒロインの誰かに道を聞くというものだった。
例えば『さっきぶつかった子じゃないか?』という選択肢を選べば凛子と微妙な雰囲気になりながらも一緒に講堂に向かうし、『綺麗で長い黒髪の先輩らしき人』を選べばお姉ちゃんに途中まで案内してもらう、といった感じだ。
――なので、
「ヒロインの誰かと会いそうになるたびに、忍によって放たれた凶暴な野良犬(という設定)のマルコをけしかけたボクは褒められるべきなんだ」
「兄貴が犬恐怖症になりかける程けしかけた黒幕は褒められないわ」
だって仕方がないだろ!
ボクも自分の異能で、ある程度の状況を入手してるから知っているけど、最初にお姉ちゃんに声掛けようとしたからマルコをGo!させ、その次に小夜の元へ向かおうとしたからマルコがGo!して、3人目は凛子だったからマルコを~っていうの、学校で会える明日奈以外のヒロイン全員分繰り返したんだ!
最後の瑠維の時なんて、マルコが現れた瞬間に「ああ、こうなるって知ってたよ」と悟った顔をしてたらしいぞ?
ざまぁないな!
「さっき講堂に入る時に見かけた兄貴が、某有名ボクシングマンガの主人公みたいに燃え尽きて座っていたんだけど……」
「ざまぁないな!」
スパーンッ!と頭を叩かれた。痛いっす。
「で、友理のニヤニヤが気持ち悪い件に関して……」
「おい、気持ち悪いとは柚木友理(原作)に失礼な」
「理由は、ヒロイン全員がこの講堂に集まったからかしら?」
「無視かよ。……まあ、正解だけど」
原作の忍が入学式の時にどこにいたのかは知らないが、今の忍はマルコとアルカの2人+1匹でどこかから入学式――というか、ボクを見ている。
忍は「アナタの晴れ姿をこの目で見たい」と言って。
そして、なぜか学園まで忍に付いてきてしまったアルカは「友理が言う運命の日に揃う少女たち、『Heartギア』の所持者、私も見たい」と滅多に言わない我が儘&長文でお願いされて、だ。
マルコは……ただの付き添いだろう。もしくは暇つぶし。
ちなみに、ヒロインたちのいる場所は全て把握している。
隣に座る主人公の義妹で転生者、香坂明日奈。
離れた位置で前後の席に座って談笑している小谷凛子、柊小夜。
天井の隙間からジッとボクを見つめる波木忍。
ニヒルな笑みを浮かべて周りから引かれている黒羽瑠維。
ボクに気付いて軽く手を振る鬼島めぐみ。
同じくボクを見つけて会釈する高森美江。
非っ常~に、熱い視線を向けてくる聖華院マヤ。
講堂の舞台袖で待機しているお姉ちゃん、柚木秋穂。
そして――
「新入生の皆さん、初めまして」
舞台の中央で挨拶する忍と同じサブヒロイン、
「この学園の生徒会長に就任しました、3年生の西園寺八千代です」
彼女はボクたち新入生が座る席を見渡して微笑む。
「長い挨拶はあとにして、まず新入生の皆さんに送る言葉を1つ」
その言葉はボクらの耳によく響いた。
「ようこそ! 『アマテラス特殊総合学園』へ!」
エロゲ『ヴァルキリーダンス~2つの月と英傑の乙女たち~』。
その物語が、本格的に始まった。
~おまけ~
忍|∀・)「ターゲットを補足。秋穂さんへ接近を確認。レディ――」
拓也( ゜д゜)?「ここどこら辺だ? 広すぎるんだよ敷地が。お? 何か綺麗な先輩らしき人発見。ちょっと聞いてみるか。すみませーん! あの――」
忍|∀・)「――GO! マルコ!」
マルコ「アッオッーーーーーン!」
拓也Σ(゜Д゜)「――って、うおっ!? 何だ野良犬か!? うわわ、こっち来るなああああああああああああああああ!!」
――しばらくして……
拓也(;´・ω・)「はぁ、はぁ……今度こそ、あのグレーの髪の子に――」
忍|∀・)「――GO! マルコ!」
マルコ「ガルルルルルルルッ!」
拓也(ノД`)・゜・。「ヘヘん。分かってたさこうなるってことぐらい……何度目だよもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?」