第10話 鍋パーティー(前編)
夜。今日は満月×2がとても綺麗だ。
玄関の外に出て見た2つの月の感想がそれだった。
「というわけで、鍋パーティーを開催する!!」
「どういうわけなの!?」
ボクの宣言に、扉の前で待っていた明日奈がツッコミを入れる。
元々、明日奈を呼んで鍋でも食べない?って話はあったんだけど、あるヒロインに関係して急遽本日開催の流れになった。
明日奈が来れない可能性も考えていたから、来てくれて素直に嬉しい。
「突拍子もない行動には慣れたけど、今回はまた随分と急じゃない」
「あーほら、そろそろ原作も始まるから徐々にネタバレをね……」
目の前で腕を組みながらため息を吐く明日奈もボクと同じように、原作の香坂明日奈の姿へと成長した。雰囲気は大分違うけど、それはボクも同じことだし、今更どうこう言うことではないだろう。
「ネタバレ……ね。つまり、よ~~~~~やく10年間の暗躍内容を教えてもらえるってことでいいのかしらぁ? ようやく!」
「お、怒るなよ。事情があるんだから」
ぶっちゃけ利害の一致から協力関係になった明日奈だが、ここ数年は暗躍が上手くいきすぎて内容を言うに言えないことが多くなっていた。
だって……確実に怒られるから!
「怒らないから正直に言いなさい」
「それ、有史以来守られた試しがない約束事だよね?」
前世の母さんに子供の頃、速攻で破られた約束だよ。
「全部を説明しろとは言わないから……理由だけでも吐け」
「暗躍をやらかしすぎて、原型留めていないヒロインが……!」
「んなこったろうと思ったわよ! このアンポンタン!!」
「ごめんなさい!」
やっぱり怒られた!
でも仕方ないじゃん。ボクだって予想外だったんだもん!
「今、家にいる子も詳しく教えて貰えるんでしょうねぇ……?」
「1人はいいけど、もう1人は堪忍して。明日奈だって分かってるだろ? あの子が普通の人間じゃないってことぐらい」
「分からないはずがないわねぇ。初めて会ったのが小4の時だったかしら? あの頃からまっっったく変化が無いんだから。いくら聞いてものらりくらりとはぐらかされ、こっちはあの子どころか他のヒロインたちがどうなったかも教えられずに数年間モヤモヤしていたのよ!」
そこは本当に申し訳ないと思う。
でも、あの子は事情が事情なんだ。簡単に話せたら苦労しない。
ボクがどんな暗躍をしてきたのか、それは徐々に話していくから許して欲しい。直接会わせないと説明のしようもないヒロインだっているんだから。
ていうかさぁ、
「そんなこと言ったら、明日奈だって小夜に一体何をしたんだよ!? 途中から何も教えてくれなくなったよね!? 中学に入った頃ぐらいから! それとなく聞いても、自殺しそうな人みたいな顔で『頼むから聞かないで……』とか言われたら、こっちだって聞けないじゃん! 小夜自身は変わった様子がないから余計気になるんだよ!」
「……ゴメン。ソノ話題、勘弁シテクダサイ」
カタコトじゃん! 目が死んでるじゃん! 本当、小夜に何をしちゃったの!? ここまで来ると聞くのがボクも怖いよ!
と、ボクらだけを狙ったかのような風が直撃する。
「「フェッッックシュン!」」
春なのにメッチャ寒い風が吹いた。
しばらく外にいたから身体も冷えてきたみたいだ。
「……とりあえず、中に入ろうよ。寒いでしょ」
「……鍋の最中でも聞かせてもらうからね」
ちょっとした言い争いは、冷たい風によって中断された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本日の鍋はみんな大好きスキヤキ。それも、和牛を大量に用意したもの。
この場にいる5人と1匹は卵をといてスタンバイ。
明日奈とボクとマルコ、2人と1匹の壮絶な肉争いが予想される。
「では、みんな一緒に……いただきま~す」
「「「いただきます!」」」 「……ます」 「アオン!」
お姉ちゃんから始まり、それぞれが食事を開始する。
そう、バトル勃発!
「和牛をよこせぇえええええええええええっ!」
「ちょっと、それアタシのよ!?」
「ボクは“半生で食べる派”に属しているんだ! 鍋に入れられて数秒経った肉はボクのだ! 取られたくなくば、箸でキチンと管理せい!」
「アタシは“味が染みこむのを待つ派”なのよ! 和牛なんて食べられる機会そうそうないんだし、お客様を優先させるべきでしょが!?」
ボクと明日奈。派閥が違う者同士が火花を散らせば、
「アゥ~アンッ!」
「ん、了解……はいマルコ、あーん」
「ワフッ! ムシャムシャ!!」
「私も、お肉………………おいし」
マルコ&アルカのペアが協力し、
「ハフハフ。お豆腐も美味しいですね。ネギも良いです」
「忍ちゃんはもっとお肉食べないの?」
「大丈夫です。自分はお肉より野菜の方が好きなので」
お姉ちゃんと忍が和やかな雰囲気を作り出す。
「偉いわね~。でも遠慮しなくてもいいのよ? ……ところで、ユウちゃん? お肉はたくさんあるんだから、明日奈ちゃんの分も残して。ね?」
「はい! 了解であります姉様! 愛しております!」
「はぁ、本当にユウちゃんはいい子ね。私もユウちゃんが愛しいよ」
お姉ちゃんの言葉は絶対だからね。
ところでお姉ちゃん? 今の“家族として愛している”って言ったんだけど、何でそんな蕩けそうな顔で目がハートなの?
最近感じることが増えた、妙な胸騒ぎが気のせいだと信じたい。
「ねぇ、友理ちょっと」
「モグモグ……あんだよ。肘で脇腹を突っつくな」
明日奈が声を潜めて話しかけてきたので、同じ音量で話す。
「1つ、最近アンタん家って金回り良くない? 最初は気にせず食べてたけど、これだけ和牛を用意できるって……」
「それについては何とも……。強いて言えば、両親のいる会社が事業に大成功したことと、ボクの買った宝くじが必ず当たるようになったことかな」
「ちょっと、前半は偶然にしても、後半がおかしいでしょ」
ボクの異能が関係してそうなんだよ。
まあ使えるお金が増えて暗躍も絶好調だったけど。
「それと、もう1つ」
隠すのは許さんとばかりに睨む明日奈。
「いい加減ネタバレしろって言ってんのよ。まず、何で『ヴァルダン』のサブヒロインであるはずの波木忍ちゃんがいるの? 結局アルカさんって何者?」
「やっぱり気になるか」
お姉ちゃんと和やかにスキヤキを食べる忍者っ娘、忍。
絶賛、肉を催促するマルコを手伝う謎の少女、アルカ。
片や『ヴァルダン』のサブヒロイン、片や『ヴァルダン』に登場しない謎少女。
何でかというと、複雑な事情があるとしか言えん。
次回、新キャラ波木忍のプロフィールと暗躍事情が明らかに!