君はまだ戦い続けているか
この手紙を読んでいるという事は、私はこの世にいないという事でしょう。そしてまだ、君達は戦っているのでしょう。そんな君達に俺達の事を覚えていて欲しいという理由で、この手紙を残しておく事にする。
君達と同じく、俺達も生まれた時から闘っていた。いつだって生き残る為に闘っていた。常に命の危険があった。奴らは俺達を殺す程に忌み嫌っているが、それは今も同じかい?
先週、俺の仲間が捕まって死んでしまった。足の速い奴で、よく一緒に飯を食った仲だった。用心深い奴だったが、一瞬の判断ミスで捕まり死んでしまった。そもそも何故に俺達が嫌われているのかは、俺には分からない。
そしてついに、その時がやってきた。俺達は捕まってしまった。俺は捕まった状況で以って、必死にこの手紙を書いている。それを待たずして、やつらは容赦なく俺達を殺すかもしれない。既に、一緒に捕まった仲間達が順番に潰されていっている。だが奴らは致命的なミスを犯している。俺達を潰す事で殺したと思っているようだ。笑えるぜ。
俺達の腹には子供がいる。俺達は潰される事で死んでしまうが、近いうち、俺達の腹からは子供達が生まれてくる。
俺の名前は、クラーク・ジャーミン・ヘンデントリチロン102世。しかし何故やつら全員、俺達みんなの事をゴキブリと呼んでいるんだろう。ゴキブリなんて名前の奴は、誰も知らないぜ?
そんな事が書かれた手紙を見つけた。手紙に書いてある「やつら」と言うのは恐らく人間の事だろう。この手紙は私の祖先が書いた物で、手紙が書かれたのは人間の暦で言う西暦2018年、今から凡そ500年前の事だ。
今から150年前、私達の祖先と人間の間で戦争が起こった。その結果、我々は多くの仲間を失いながらも勝利し、人間達がかつてアジアと呼んでいた地域を奪取する事に成功した。その後、人間達とは休戦協定が結ばれたと同時に、限定的ではあるが国交が結ばれ、それと共に民間レベルでの交易も始まり、そして現在に至っている。
協定の中には呼称問題も含まれた。手紙に書かれている我々に対する『ゴキブリ』という呼称についてであるが、現代に於いてその言葉は私達への侮蔑、差別用語と定義されており、そんな言葉を人間達が口にしたのならば、我々は即座に休戦協定を破棄し、戦いを挑む態勢を常にしている。人間達は十分に気を付けて欲しい物だ。
私の名前は、クラーク・ジャーミン・ヘンデントリチロン94024世。このジャーミン王国を治める王である。
2020年 04月28日 3版 ちょっと改稿
2019年 07月27日 2版 諸々改稿
2018年 11月25日 初版




