出会い
月の灯りが彼女を照らす。
白。
彼女への第一印象は白。ただそれだけだ。
髪は白。いや、白ではない。まばゆいばかりのその髪の色は白銀であった。
月の灯りがその髪の輝きを一層引き立てる。
ドドドドドド
橋の上が急に騒がしくなる。大人の男性が数人いるようだ。
「見つかったか?」
「すいません、まだ…」
「探すんだ!
この辺りにいるはずだ。」
「ハッ!!」
橋の上で敬礼のような声が聞こえる。
その後しばらくして、橋の上にいた人のほとんどが街へ向かっていった。
「くっそ、せっかくの大金が手に入るチャンスってのに…」
橋の上にはまだ人がいるようだ。
傭兵かなにかだろうか?
「一体どこにいやがるんだ。
ツァーリってガキは。」
ツァーリ??
僕はその名前を知っている。いや、その名前の持ち主は隣に座っている。
「君こと探しているみたい…」
「えぇ…」
その声から何も感じられず、彼女の表情からも何も読めない。
彼女は淡々と続ける。
「たぶん、お父様が私を探すために傭兵を雇ったの。でも、今は帰りたくない。だから、家出をしてきた。」
彼女の言葉に徐々に熱がこもる。
「明後日の結婚式までは必ず逃げ切る。」
「君の家は、たぶん裕福なんだろうね。」
???
僕の言葉に彼女は不思議がる。
「そもそも、君の格好だよ。」
彼女が身に着けていたものはパジャマだ。しかし、それは上下ともに白がベースとなった明らかに豪華なものだ。
「そして、女の子が夜に1人で出歩くなんておかしいだろ。」
「え?そうなの?」
彼女にふざけている様子はない。至って真面目だ。
常識を知らないにも程があるだろ。
「君は家出というものが何も分かっていない!」
「家出をする上で1番大切なことは、拠点の確保。ホテルや友達の家など、寝泊まりが快適にできる場所。そうしないと長く続かない。」
(僕は、友達なんていなかったからネカフェや満喫だったけれども…)
というのも、僕には家出の経験が何度かある。
高校の時、家に引きこもっていたら両親がうるさいので家出をした。期間は数日から2週間くらいだ。警察にも何回かお世話になっている。
「なのに、なんだよここは!」
このとき、ここで野宿しようとしていた自分へのブーメラン発言ということは理解していなかった。
理由は簡単だ。僕は自分より無知な彼女に対して優越感に浸っていたからだ。
「だって…」
彼女は泣きそうになる。
「ったく、」
「僕が本当の家出を教えてやるよ!!」
僕は、生まれて初めて現実世界の人間相手に教えるという立場にたった。つまり、初めて立場が平等。いや、それ以上という経験をする。
それに対して僕は調子に乗らないはずはなく、これが後々後悔する原因となる。