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少女

「貴方のお名前は?」


彼女は僕に問う。



「ご、ごめんなさい。」

「自分の名前も名乗らずにお名前を伺うのは失礼でしたね。」


「私の名前はツァーリ。」


彼女は名乗った。


「貴方のお名前はなんていうの?」


「…シン…」


??


彼女は聞こえていないみたいだ。

やっぱり会話は嫌いだ。


「神無 心」


かんむ しん。それが僕のなまえだ。


「カンム シン」


彼女は繰り返す。


「うん。」


「シン…」

「いい名前ね!!」


影で彼女の容姿は分からない。その表情も。でも、彼女の声からはこの会話にすらなっていない、やりとりを心の底から楽しんでいるような感じがする。


「ねぇ、シン」

「貴方はどうして家出をしたの?」



「私は、逃げてきたの…」

「お父様とお母様は、私にずっと期待していたわ。聖騎士になると…」


「聖騎士…?」


「えぇ、王の剣。魔王が復活したときにこの国を守るために戦う戦士。」

「でも、お父様とお母様は違った。

 欲しかったのは聖騎士という名誉じゃない。

 聖騎士である限り入ってくる財。

 何もしなくても入っくる財。

 それが、欲しいだけ…」


「魔王…?」


(この世界には魔王がいるのか。最悪だ。やっぱり日本は平和だったんだな。)



「でも、復活はしないとみんな言っているわ。」


「なんで?」


「この1万年間何も起こらなかったよ。」

「でも、1万年前の大予言者が魔王の復活を予言した。」

「だから、今も聖騎士がいる。4聖帝がいるの。」


「君は、聖騎士になりたいのかい?」


「えぇ、でも学校じゃ卒業できるか分からないわ。」


「学校?そんなものがあるの?」


「この国唯一の学校。聖グロリアス学園。

 期待していたお父様が入れてくださった。

 でも、成績も良くないから…」


「だから家出を?」


「いえ、違うわ。

 聖騎士になれそうにない私に結婚の話がきたの。彼はとてもすごい聖騎士…」

「彼と結婚したら私にも莫大な財がはいってくる。だから、お父様は私に結婚しろと言う。」

「でも、結婚したら私は聖騎士にはなれない。」

「それで、家いるのが辛くなって家出をしてきたわ。」

「自分勝手なのは、分かっている。」


彼女は淡々と話した。僕はほとんどは聞いているだけのはずだった。


「逃げることは悪くないと思うよ…」


僕は思ってもいないようなことを口にしていた。いや、思っていた。思っているだけで、口にするつもりじゃなかった。

いつもの無意識に口にする悪い癖だ。


一瞬の静寂が走る。


「…どうして、そう思うの?」


彼女の声から分かる。真剣な質問だ。


「いやぁ、」


影で彼女の目は見えない。でも、彼女の視線は確かに感じる。


「僕も、ずっと逃げてきた。何もせずに逃げるだけの人生だった。何もせず、何も生み出さないゴミのような人生を送ってきた。」 

「でも、それに対して不幸と感じたことはない。」

「僕を馬鹿にしてきた周りの人間の目は期待や責任に押し潰されて死んでいた。」

「逃げることが正しいことは思わない。でも、本当に辛くなったら逃げることありなんじゃないかな…」


静寂が訪れる。その静寂は一瞬にも感じられ、一生にも感じられた。


「ありがと、シン。」


静寂を破ったのは彼女だった。


「貴方に話を聞いてもらって楽になったわ。」


「こちらこそ…」


なぜか、会話が得意でない僕が彼女の前では喋れた。


橋の下にかかっていた影がなくなり、初めて僕は、彼女と目を合わせた。


その目は、空にある真っ白い月のような美しい瞳だった。










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