異世界
時刻は20時頃だろうか。日は完全に沈みきっている。辺りの建物にはまだ灯りが多く点いている。ポツンポツンとある街頭が道を照らしている。日が沈んでいるには辺りは明るい。
僕は、ふと空を見上げる。そして、僕は理解する。ここが異世界なのだと。地球ではないことを。
空には月が3つあった。いや、それらを月と呼ぶのかは分からない。しかし、確かに星が3つある。大きさは大小それぞれで、1番大きいものは空の2割ほどを覆っている。星の模様も様々だ。しましま模様、月と同じようなクレーターがある星、そして真っ白い星。その白い星は異様なほど明るく見えた。
言葉が出ない。頭の整理がつかない。日中に走った疲れも相まってその場に座りこんでしまう。
(流石に、道の真ん中はまずいか…)
夜といっても人は少ないが歩いている。
重たい足を引きずりながら寝れる場所を探す。もちろん、宿泊費なんどはもっていない。そもそも、この世界で日本の通貨は使えないみたいだ。
今日の日中は、寝ていたわけではない。走って疲れたから、ぼーと座っていた。
おかげで、分かったことも少しある。日本語は使えるみたいだ。店の看板や広告などは全部日本語だった。会話も聞いていてほとんどは理解できるものだった。
橋が見えてきた。橋は石のレンガでできている。入り口と出口には街頭が点いている。川幅は結構広い。30メートルくらいありそうだ。橋の先にほとんど灯りはついていない。この橋が街の端だろう。
(今日はここで休むか。)
川に沿って道が通っている。橋の下の道との間にいい感じにスペースがある。横になれるだけのスペースが。
人生初の野宿だ。全く楽しみじゃない。こんなことになるならまだニートをしていたほうが良かった。
そんなことを考えながら橋の下に行く。
最悪だ。先客がいる。橋の影になっていて容姿は分からない。僕がその場を後にしようとすると…
「貴方も家出ですか?」
!?
いきなり声をかけてきた。女性の声だ。透明で透き通った美しい声。
しかし、僕は答えることができない。ここ数年、他人とまともに会話した記憶がない。いわゆる、コミュ障だ。
僕が全力でコミュ障を発揮していると、
「よかったら、ここどうぞ。」
少し隣にズレて、スペースを空けてくれた。
自分でも、せっかく空けてくれたのに、ここを去るのはどうかと思う。しかし、知らない人の隣で寝ることなんてできない。どうするか悩んでいると、
「どうかしましたか?」
心配してくれる。
言葉使いもキレイだ。きっと優しい人なのだろう。
勇気なんてない僕が断れるはずもなく、そこへ座る。
「…ありがと…」
ボソッと言う。
まともに会話できないことが恥ずかしい。まぁ、いつものことだ。
でも僕は知らない。この出会いは僕を殺すことを。