表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

転生


「…」


声が聞こえる。


「…」


言ってることが、理解できない。


「…」


意識がまだ遠い。


バゴッ


脳みそが揺れる。何が起こっているのか理解できない。

直後、激痛が走る。初めて何が起こったか理解する。


蹴られた。


足が当たった程度ではない。意図的に、暴力的に蹴られた。決して手加減などはない。


余りの痛さに意識が覚醒する。


「寝すぎなんだけど!!」


突如聞こえたのは、女性の声。声の主は比較的に若いことが分かる。

声のした方へ振り向く。そこには天使が立っていた。


「ホント、ありえないんだけど!!」


天使は椅子へ座る。それはもはや椅子と呼ぶには豪華すぎる。玉座。それは玉座といっても過言ではない。天使は玉座に座る。


????


やはり、理解できない。意識が戻ったにも関わらず理解できない。


周囲を見渡す。


何も無い。本棚や机など天使の私物が玉座の周りにある。それだけだ。この空間には端が無い。地平線が無い。色が無い。何も無い。


「私はエール!

 熾天使エールよ!!」


天使は突然、自己紹介を始めた。

背後には機械的な翼が6つある。機械的であって機械ではない。水晶のような透明な翼だ。しかし、その翼は彼女から直接生えているわけではない。

彼女は人間と見た目は変わらない。髪は燃え上がる様な赤く長いストレート。瞳は奥深い真紅。肌は驚くほど白い。鎧のようなものを身に着けている。大理石のような白さである。しかし、鎧は全身を覆っているわけではない。肩や胸、腰などしか覆われておらず、決して覆われてるいる部分は多くない。むしろ、局部以外はほとんど覆われていない。


(うん、いいじゃん)


僕は彼女を見た目だけで判断してしまう。後々、後悔するとも知らずに。


「あんた、なんでここに居んのか分かってんの?」


僕は思い出す。事故にあったことを。


なら、なぜここに居るのか分からない。

ここがどこかすら分からない。


「わからない…」


こう答えるしかなかった。


「ハァ」


天使はため息をつく。


「あんた、自分が死んだことも覚えてないの?」


突然の死亡宣告。

分からない。理解できない。実感がない。

僕は言葉が出ない。


「何も分かって無さそうな間抜け面ね!!」


天使は続ける。


「なら、教えてあげるわ!

 ここは転生の間。死者のみがこれる場所よ!!

 つまり、あんたは死んだってことね!」


「死んだ?僕が?」


「えぇ、交通事故でね。でも、そこが問題ではないわ!

 1番の問題は、あなたが無職だったってこと よ!」


「無職は関係ないだろ」


死んでなお、無職に対して追求してる天使の性格の悪さが分かる。


「人間は生存の代償として、勤労という対価を払わなければならない。それが神から与えらた役割でもあるのよ!

 そんで、そうしなければ死んでも成仏できないってわけよ!!」


「あんたは、生きているのに何もしない。何も生み出さないゴミみたいな存在だから成仏できないってこと!!」


僕が、社会的敗者ということは十分に理解している。人間の屑というのも理解している。けど、他人にいわれるおぼえはない。

自分のことを馬鹿にする人間にロクなやつはいない。この天使もまた例外ではない。


僕は自分が嫌いだ。自信もないし、誇れることも何も無い。

それ以上に、他人が嫌いだ。僕は、特別優れているわけではない。また、特別劣っていることもない。しかし、他人と比べると誇れるものが何もない僕は劣って見えてしまう。劣っていると思ってしまう。

他人と競争する社会、そんな社会が嫌いだ。他人がいなければ競争もしなくていい。だから、僕は他人が嫌いだ。


「僕の何が分かる。

 お前に僕の何が分かる!!

 何も知らないお前が僕を馬鹿にするな!!」


自分でも思う。怒るなんて珍しい。

他人に馬鹿にされたから?

他人に自分を語られたから?


違う。


自分でも分かっている僕の弱さを、醜悪さを語られたからだ。つまり、彼女が言ったことは図星だった。


「なにをそんなに怒ってんだよ?

 もっと他に聞くことがあんでしょ?」


「…」


「あんた、このまんまじゃ成仏できないだよ?」


天使は、まだ僕に対して軽蔑の眼差しを向けてくる。


「なら、どうやったら成仏さしてくれるんだ?」


怒りはおさまらない。頭が回っていないことが分かる。


「ここは転生の間。

 つまり、あんたには転生してもう一度人生を送ってもらうってわけ!!」


天使の顔に笑みが浮かぶ。不敵な笑みが。


「どういうことだ!?」


頭がぼーっとしている。もはや、怒りが原因なのかどうかも分からない。


天使は空を見上げる。

そこには、砂時計があった。とてつもなく大きい砂時計だ。これまで気づかなかった。この空間には、影がない。だから、真上にあった巨大な砂時計に気づかなかったのだろう。

砂時計の砂はほとんど落ちている。残りは十数秒程度しかない。


「もう、ほとんど時間がないじゃん!!」


天使はわざとらしく焦る。


「転生先の世界はこっちで勝手に決めといたから、後はがんばってねぇ!!」


天使は笑顔で話す。


「…」


僕は、このときほとんど頭が回っていない。

また、意識が遠のいていく。


天使はまだ、笑顔だ。手もふってくれている。


僕が最後まで見ていたものは彼女の笑顔だった。


やっぱり、かわいいじゃん…









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ