7話 少女-3
またやっちゃった。
目の前の肉の塊、赤い血の池を見つけながらそう思う。
何でこんなにも簡単に死んじゃうの、私は遊びたいだけなのに。
大きな音に気づき従者が駆けつける。彼は竜人のニールだ。
扉を開けなにかを察した彼は彼女をお風呂に行く事を進める。
大事なオモチャを壊してしまった彼女の足取りは重い、何せ久々にとても楽しい時間を過ごしたのだから
竜人のニールはお嬢様が部屋からお風呂に向かわせたあと慣れた手つきで肉片を片付ける。
肉片は魔王様が飼っているペット餌へと変わる。
これが魔王城の日常、お嬢様がオモチャを持って帰ってきては壊し魔物餌へと、そしてまた新たなオモチャを探しにお嬢様が出かける。それの繰り返し
ただいつもと違ったのは、お嬢様が普段より笑われておりとても楽しそうであった。
・
・
・
・
・
・
・
・
「はぁ、またやっちゃった」
湯船に浸かりながらヴィネは呟く。彼女は後悔していた。
怯えてあまり遊び相手になってくれない人間。
遠慮するあまり太鼓持ちの様にこちらを持ち上げ遊べない人間。
ベタベタと触ってきて何か勘違いしてる鬱陶しい人間。
彼はそれらとは違って親しみやすい距離で遊びでも一喜一憂して本当の意味で遊び相手になってくれた。久々に本気で笑って楽しかったのだ
だからずっと遊びたかった。帰って欲しくなかった。あの時感情的になってあんな事やらなければと。
最初の頃はこんな力があるからと憎んだがそれは父と母に対して侮辱になる為そう考えるのは辞めた。
ただつい油断して普段通りの力で接すると人間は簡単に壊れてしまう。
それは魔物に対しても同じで彼女を見て逃げない魔物は少ない。魔王城に住む一部の者ぐらいだけが彼女と接する事が出来る
彼等に遊び相手を頼んでも、主従の関係である以上彼等は此方が勝つように何処かで手を抜くであろう。彼等にそういった事を強要するのも嫌だ。
魔王は娘の事が大好きで彼女のやる事全てを許している。それが魔王の娘であり自由に生きろという躾でもあると思いながら。
「あーあ、あの人間気に入ってたのになぁ」
髪を洗おうかと湯船から出ようとした時
「ギィエアアアァァーーッ!!」
耳に残るような断末魔が風呂場の外から聴こえてくる。
「もしかして、ペロッ!?」
彼女は一目散に声の元へ駆け出す。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「んっ…」
目を覚めるとそこは真っ暗で何か箱のような物に入れられてるようだ。
下からガラガラと荷台を転がす音が聴こえどうやら何処か運ばれてるようだ。
どこにドナドナされてんだろうな、もしかしてお掃除されて出荷されて奴隷になりBADエンド?何言ってんだお前
それよりもコントローラぶつけられて死ぬとか人類史上初めてだろうな、スペランカーでももうちょっと生きそうだな。
そう下らないことを考えてると荷台が止まったようだ。地味に荷台のタイヤのゴロゴロという感触が気持ちよかったのにな。
てかどうすっか。俺はさっき死んだのに神殿の蘇生儀式無しで生き返ってたら流石に魔王側もビビるだろうし出にくいな。向こうが開けてくれるのを待つか。
「おーい、お前たちご飯だぞー」
あ、これやばいやつだ
荷台から箱ごと降ろされ四方八方からグルルルと唸り声が聞こえカリカリと箱に爪を立てている。
マジでどうするか考えてたのもつかの間背中の方の箱が破け魔物の爪が刺さる
「ギィエアアアァァーーッ!!」
堪らず箱を突き破り逃げ出す。
狼の様な獣たちは最初絶叫に怯んだようだが餌としての認識は変わらず追いかけてくる。
逃げ出そうと扉に手をかけたが外側から鍵がかけられてるようで追い詰められる
流石に死なないといっても魔物に食われたらどうなるか分からん。下手すりゃ生きたまま魔物のアレになるかもしれない。
俺を追い詰めた魔物達はヨダレを垂らしながら此方を襲いかかる気を疑っている。直感だが次瞬きをした瞬間俺は魔物の牙に襲われるだろう、その前にどうにかせねば。
ただ遊び人である彼は戦闘力は皆無である為倒して突破する事はほぼ不可能、助けを呼ぼうにも敵地である為魔王側が助けてくれるのはほぼ無い
詰みである
諦めた瞬間を見逃す訳もなく魔物達は雄叫びと共に飛びかかってくる。