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ゴッドキャリバー~神の器なる者~  作者: SER
異世界レイアノール
7/80

邂逅

 俺は一面全て真っ白な世界に立っていた。

 つい先程まで周囲にいた面々は誰もいない。


「今度はなんなんだ・・・?結局夢オチだったとかか?笑えないなぁ」

『いいえ、夢ではありません』

「なっ!?」


 周りに人影はないのに急に女性の声が聞こえた。

 いや、聞こえたと言うより、直接頭に響いてきた様な感じだった。


「・・・誰かいらっしゃるんですね?貴女は誰でしょうか?そして此処は何処なんでしょうか?」

『少しお待ち下さい。今そちらに参ります』


 再び頭の中に声が響く。


 目の前の空間に金色の光を纏う女性のシルエットが浮かんできた。

 シルエットの輪郭がはっきりするにつれ、金色の光は消えていく。

 その代わり、その女性の持つ金色の髪、いや黄金の輝きを持つ髪が目に映える。

 宙に大きく広がるその長い髪は、さながら黄金の羽根の様だった。

 そして彼女が目を開くと、瞳の色もまた黄金の色。

 そのあまりの美しさと神々しさに声も出せずにいると、彼女が語りかけてきた。


「ああ、間に合って本当に良かった・・・。初めましてウスイ様。私はレイリティアと言います。そして此処は私の精神世界です」

「レイリティア?それでは貴女がこの世界の神のレイリティア様なのですか?」

「そうです。この世界の神として、管理と守護をする者です。そして貴方という存在を、この世界に召喚した者でもあります」


 神様・・・か。

 出来る事なら会いたいとは思っていたが、こうも早く会えるとはな。


「では、レイリティア様であるのならばお聞きしたい事があります。宜しいですか?」

「あまり時間がありませんが、可能な限りお答えします」


 あまり時間がない?どういう事だろうか。

 しかし絶対に聞いておきたいことがあるし、答えてくれるのなら答えて貰おうか。


「それでは、何故貴女様は私を召喚されたのですか?そして私は、いえ、召喚された私達は元の世界に戻ることはできるのでしょうか?」

「はい、それではまずウスイ様をお呼びした理由ですが、単刀直入に言うと、ウスイ様に私を救って頂きたい、という事なのです」

「私がレイリティア様を救う?それは一体どういう事ですか?」

「私は長年この世界を守る為に、異次元の侵略者達と闘ってきました。しかし、今から50年程前の大きな戦で私は、私自身では癒すことのできない傷を受けてしまいました」


 ふむ、世界と世界、神と神との戦いかな?成程、よくある様な話だな。


「私は、自分の存在の中核を成す箇所に傷をつけられてしまったのです。傷を癒すには、私の魂と波長が合い、且つ私という存在を内包できる器がある魂が必要でした。魂の波長だけならレイノース王家の者達が合致します。ですが私は仮にもこの世界の神。この世界には私の受け入れられる者はいなかったのです」


 なるほど、話が読めてきた。


「つまり、貴女様を受け入れることのできる者が私だったから、私を召喚したという事ですね?」

「その通りです。傷を負ってから今迄、ただひたすらに、私を受け入れる事が出来る魂の持ち主を探しておりました。そして、ようやく貴方という存在を見つけたのです」


 俺の魂が神様を癒す器なのか・・・にわかには信じられないが、ステータスにもそんな感じの表記があったな。

 『神の器なる者』だったっけか。

 神になれる器じゃなくて、神を受け入れる為の器って事なんだな。


「次に、元の世界に帰れるかという事ですが、残念ながらそれはできません。何故なら、貴方はあちらの世界で亡くなられているからです」


 そうか・・・やはり俺達は死んだのか。

 ではこの体はまがい物なんだろうか?20歳頃の自分の体と相違ない感じはする。

 それに誠二達も、髪の毛の色は変わってしまった以外に違いがあるとは言ってはいない。


「私が死んでいるという事は、私はこちらの世界に生まれ変わったのですか?」

「そうですね、私が魂の記憶から肉体を再構築し、そこに魂を入れさせて貰いました。転生したといって差し支えないでしょう。ちなみにウスイ様の体は特別に、最も健全であった頃の肉体を再現したのですよ」


 ・・・レイリティア様の顔が心なしかドヤ顔に見えるのは俺だけだろうか・・・。

 しかしまあ、それで若返ったんだな。

 しかし、俺だけ特別扱い。

 というか、レイリティア様の目的としては俺だけが必要なはず。

 では誠二達は何故俺と一緒にこっちの世界へ?

俺の様に何かしら理由があるのならば、ここで聞いておいて皆にも伝えるべきだろう。


「レイリティア様、私と一緒に来た5人は何故こちらの世界に?」


 俺がそう聞くと、彼女は気まずそうに視線を逸らした。


「はい・・・実は、本来であればウスイ様お一人だけに来て頂くつもりでした。他の方達は有り体に言ってしまえば、私のミスで巻き込んでしまったのです・・・・・」

「ミス・・・ですか?」

「はい、私はウスイ様の魂を見つけた時、歓喜に打ち震えました。そして絶対に失敗できないと思い、渾身の力を込めて魂を喚ぼうとしました。結果、その、少しばかり範囲が大きくなってしまいまして・・・ウスイ様の周囲にあった他の方々の魂をも巻き込んでしまったのです・・・」


 気合いを入れすぎて加減を間違えたって事か。

 だがお陰で、転生という形ではあるが、誠二達は生き永らえることができた訳だ。


「そうでしたか。しかし結果として、一緒に喚ばれた5人の命が救われた形になります。彼らは私の知り合いであり、部下でもあります。ありがとうございました」

「そう言って頂けると助かります。ですが私は、もう一つ貴方に謝らなければならないことがあります」


 もう一つ?何だろうか?とんでもない事でなければいいが。


「同時に召喚した弊害で、本来であればウスイ様の物であった能力の大半が、他の5人に分かたれてしまったのです。その為ウスイ様は、仮に私の存在を受け入れてくれた場合、その能力は一般人にも劣るものになると思われます」


 結構とんでもない事だったな。

 とんだ縛りプレイになりそうだが・・・。

 

 俺は難しい顔をしていたのだろう。俺の様子を見て、レイリティア様が本当に申し訳なさそうな顔をして頭を下げてきた。


「本当にごめんなさい・・・」

「いえいえ!神ともあろう者が、私などに頭を下げる事はありません。むしろ神であるならば『貴方の魂を依り代にするので私を受け入れなさい』、と命令してもいい位だと思いますよ」

「いいえ。もはや私は、ウスイ様に縋る事しかできない存在なのです。そんな私にどうしてその様な事が言えましょうか」


 ・・・俺に縋る事しかできない・・・か。

 

「・・・もし、私が貴方様を受け入れなければどうなるのでしょうか?」


 そう聞くと彼女は不安と悲しみと悔しさをないまぜにした様な表情で重々しく口を開く。


「・・・じきに私は、私という存在を維持する為のマナがなくなり消滅します。ただ、私という存在が消えても、この世界がなくなるという事はありません。ですが、私の存在が消えたことを感知すれば、この世界を狙う侵略者達は間違いなく攻めてきます。そうすればきっと、この世界の存在するものは、奴らにマナを奪われ滅んでしまうでしょう・・・・・」


 ふむ・・・どっちにしろ元の世界に帰ることはできない。

 レイリティア様が居なくなれば、この世界は異世界の侵略者とやらに攻め滅ぼされる・・・か。


「急に異世界に召喚した挙句、あまつさえその召喚すら満足に行う事ができませんでした。その上で貴方という存在を利用させて欲しいというお願いは、虫の良い話であると重々承知しています。もし断って頂いても私には文句は言えません。ですが、どうか、お願いします。ウスイ様。私を救っては下さいませんか?」

 

 神様にこうまで言われては断ることもできないか。

 だが俺はそんな事よりも、一個人として、この神の事が気に入っていた。


 俺は今迄の人生、立場が上の者に幾度となく理不尽な指示や命令を受けてきたことがある。

 下の者を省みないその自分本位な言動や扱いには、同じ人としての常識を疑った事もある。

 俺はそういう類の人間にはなりたくなくて、上の立場に立つ事になっても、部下に対し正面から向かい合い、守り、導いていく事を信念にやってきたつもりだ。


 遥か高次元の存在であるはずの神。

 しかしこの神様は、たかが人間であるこの俺に対して、真摯に向かいあってくれている。

 今も不安げにこちらを見つめるこの神様の行いは俺にとって、とても共感が持てるものだ。

 そしてこの神様は、自分が消滅するか否かという瀬戸際の状態の中ですら、ただ単に自分本位ではなく俺の理解を求め、そして俺の気持ちを優先してくれようとしている。

 

 俺はその心に答えてやりたいと思う。

 だから俺は、彼女の金色の双眸を真っ直ぐに見つめ、こう答える。


「わかりました。その役目、引き受けます」


レイリティア様のその表情が、不安一色から一転、安堵と喜びの物に変わる。


「ありがとうございます。本当にありがとうございます・・・これでまた、この世界の皆を、守っていくことが出来ます・・・」


その頬に光る物が一筋流れる。

 それは金の髪色を映しこみ、さながら黄金の涙の様だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、まだ喜ぶのは早いでしょう。それで私はどうすれば良いのでしょうか?レイリティア様を受け入れるだけで良いのですか?そもそも魂の受け入れだとかはどうすれば良いのでしょう?」

「はい、そうでしたね。これから私は傷を癒さなければならないのでしたね。では魂の受け入れに関してですが、すでに私とウスイ様はマナの繋がりができております。ウスイ様はただ『()()()()()()()()()()()()』という()()を持っていて下さっていれば大丈夫です」

「わかりました、貴女様を受け入れる、という想いを持っていればいいんですね?」

「・・・先程にも言いましたが、私を受け入れてしまえば、ウスイ様は良くて一般成人程度。下手をすれば子供よりも劣る能力しか振るえないかもしれません。それでも本当に宜しいのですか?」


 彼女は自分の失敗が後ろめたいのだろう、自らを受け入れる事になるデメリットを重ねて俺に問う。

 俺はその心配を少しでもなくしてやりたいと思い、彼女を真剣に見つめ、こう答える。


「大丈夫です。男に二言はありません。例えどの様な枷があろうとも、私は貴女を受け入れる。絶対に見捨てたりはしません。貴女と共にこれからを生きていきます」

「・・・・・私は、愛を司る神ではありませんが、今のお言葉は・・・・・その、きてしまいました」


 おや?愛?俺はただ、自らが発した言葉に、嘘偽りがない事を信じて貰おうと言葉を重ねたつもりだが、何か変なことを言っただろうか?


「貴方のお気持ちはわかりました。私も、その、ウスイ様と共に歩んで行きたいと思います。こんな気持ちになったのは生まれ出でてより初めてです。ウスイ様、私の事を、どうぞ宜しくお願いします」


 ええー?なんだこの展開は。

 人生の契りを交わしたみたいになってるんだが・・・まあ確かに魂の受け入れなんだから、契りと言っても間違いではないのかも知れないが・・・・


「私に残されたマナではもう、ウスイ様を強くすることはできません。ですが、私と魂が深く繋がり合えれば、ウスイ様にも神としての力を何かしら発現できるかもしれません。ウスイ様の為に私、心から貴方の事を想います!」


 しかも勝手に張り切りだしているぞ。

 いや、悪い事ではなさそうなんだけど・・・


「ウスイ様と共に歩んで行く為にも、傷を早く直さなければいけませんね。私は傷を癒す事に専念する為に、ウスイ様の中で眠りに就く事になります。そして傷を修復する為には大量のマナが必要になります。ですので、ウスイ様にはマナを集めて頂き、私に供給して貰いたいのです」

「マナを集める、ですか。具体的にはどうすれば?」

「普通にマナを取り込んで頂ければ大丈夫です。私に自動的に送り届けられるように術式を組んでおきます」


 いや、そのマナの取り込み方がわからないんだが・・・。

 ラルワさんに聞けばわかるだろうか?


「とにかく、マナを集めればいいんですね?何時迄に集めるのか、どれくらい集めるのか等の目安はありますか?」

「必要量のマナさえ集まれば、何時になろうとも構いません。できれば早く傷を癒したいとは思いますが、決して無理はなさらないで下さい。ウスイ様が死んでしまえば、私もまた死んでしまいますので。あと、必要なマナの量はおそらく、ランク100分程になるかと思います。」


 やはりというか、俺が死ねば彼女も死ぬか。

 一心同体、いや一体同心の方が正しいかな。


「効率・・にマナ・・・・る為・は、可能・・・・・王に協力を・・・・下さい。彼女・・必ず・・・・なってくれま・・」


 突然、レイリティア様の体が明滅するかの様に消えたり現れたりを繰り返し出した。

 それに伴って声も途切れ途切れにしか聞こえなくなる。


「ああ・・・も・限界が・・・・・たのですね。・・お伝え・・い事・・・・・・・・」


 限界?そうか、時間がないって言っていたのはこの事だったんだな。


「残念・・・時間・・・・・ん。ウス・・・・中・眠り・・・・・・・・・・・・思い・・・。そ・・は・・・致し・・」


 彼女は音もなく俺のすぐ目の前に移動してくる。

 そして俺の頬にその両手を添え、そのままくちづけしてきた。


「!?」


 俺が突然の事に驚いていると、体の中心あたりが急激に熱くなり始めた。


 ぐっ!何だこれは!?体、いや、心か?よくわからないがとにかく張り裂けてしまいそうだ!


『ウスイ様!私を受け入れて!』


 彼女の想いが直接伝わってくる。

 そうか、これが魂の受け入れか!

 ならば彼女を受け入れるという想いが必要なはず。


 俺は彼女を受け入れると言ったんだ。

 その言葉に嘘偽りはない!

 必ず有言実行して見せる!

 

『俺は()()()()()()()()()()()()!貴女を守り、そして必ず救って見せる!』


 そう心に強く念じた瞬間、先程までの苦しさはフッとなくなり、かわりに心地よい充足感の様な物に全身が満たされる。


『ありがとうございます。貴方様の想い、この心にしかと伝わりました。私の事、どうか宜しく頼みますね、ウスイ様・・・』


 これを最後に彼女は眠りに就いた様だ。これ以降俺に想いが伝わってくる事はなかった。


「必ず貴女を癒して見せますよ、レイリティア様。・・・・・俺が・・・なんとかしてみせる」


 自分自身への決意表明も込めて、わざと声に出して言う。



 こうして俺は我が魂の内に、神を宿す事になったのだった。

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