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ゴッドキャリバー~神の器なる者~  作者: SER
異世界レイアノール
5/80

夜空の下で

「・・・・・・・・・・と言う訳なんだ」



 俺は皆が目を覚ました報告を受けた後、他の5人には自分から状況の説明をしたいと申し出た。

 王女様は快く承諾してくれた上、大事をとってステータスカードの作成は明日にしようと言ってくれた。

 俺たちは王城の一角にそれぞれ部屋を与えられ、今は俺に割り当てられた部屋に6人集まっている。

 部屋は6人集まっても全然余裕がある広さだし、それぞれの部屋には専属のメイドが割り当てられる厚遇ぶり。

 流石王城、半端ない。


 そして今、俺は先程のこの国の重鎮であろう4人との会話の内容を、自分の見解を含めつつ、皆に説明をし終えたところだった。

 早速会話の途中で取ったメモが役に立ったぞ。



「今のお話についてはとりあえず理解しましたが・・・・本当に貴方が芹山課長なのですよね?似た誰かがドッキリをしている訳ではないんですよね?」

「こんな状況で君達を騙してどうするんだ?疑うのであれば、天草君が部長から受けたセクハラに対する武勇伝をこの場で語ってもいいぞ?」

「・・・・・・本当に芹山課長なんですね。ちょっと信じられないです。」

「俺にも信じ難い状況ではあるが、夢にしては現実味がありすぎる。俺自身違和感は拭えないが、とりあえずこの状況を受け入れるしかないだろう」


 天草君の気持ちもわかる。

 なんせ、俺の見た目は彼女よりも年下になってしまったのだからな。


「飲み会の時には8人だったのに、なんで私達6人だけ召喚されたんでしょう?後の2人はどうなったんでしょうか?」

「俺が気がついた時に周囲にいたのは君達5人だけだった。えーと、すまん、名前を思い出せないがあの2人はどうなったのかはわからないな」

「本条と水上っスよ、課長。多分っスけどあいつらはあの時に俺達の近くにいなかったからじゃないっスね?俺らは課長のすぐ後を追いかけてったんスけど、あの二人は逆方向に走ってったはずっス」

「という事は私達がいた周辺だけが召喚されたって事なのかしら?」

「そうかもしれないな。まああの二人もなんとか生きていてくれると良いな」


 希望的観測なのはわかっているが、やはり直前まで顔を合わせていたのだ。無事であることを祈ろう。


「はぁ・・・髪の色は変わっちゃってるし、芹山課長は若返ってるし、何なんですか一体。訳が分かりません。せめて私も16歳くらいにして欲しかったです。お肌の手入れとかめんどくさいんですよ。課長だけズルいです」


 えーと、小鳥遊君、君が気にするところはそこなのか・・・?


「まあまあ麗奈ちゃん、髪の色似合ってるから良いじゃん。綺麗だよ?」

「ほんと?誠二君が気に入ってくれたのなら良いんだけど・・・」


 流石誠二、女性の対する気配りは見事だ。というかこんな時にもブレないなコイツ。

 小鳥遊君は誠二に褒められて、顔を赤くして喜んでいる様だ。

 2人ともちゃんと状況理解してるのか?えらく余裕そうに見えるんだが。

 混乱してしまって話が通じないよりはいいか。


「しかし、召喚とか勇者とかゲームとか小説の話みたいっスね!こういうのってあれでしょ?神様にチートな能力貰って俺TUEEEEEE!ってやるんでしょ?ワクワクするっスね!」

「そう上手くいくといいんだが・・・・・いや、そうだな。悲観的に考えるより誠二の様に前向きに考えた方が断然いいな」


 誠二は普段軽い言動が目立つが、こういうムードメーカーなところがある。

 どんな時も前向きに捉えられるその考えは、こんな状況では特にみんなの救いになるだろう。


「でも・・・私達、死んじゃったんじゃないんですか?飛行機が落ちてきて、ビルが倒れてきたのは覚えてます。あんな状況で助かるなんて思えません・・・これからどうすれば良いんですか?もう戻れないんですか?ぐすっ、お父さん、お母さん・・・」

「俺達が死んでしまったのかどうかは分からない。飛行機が墜落に巻き込まれて、そこで死んでしまったのか、もしくはその直前で召喚されたのかは俺達には知る術はなさそうだ。しかし今現在、俺達はこうしてこの場にいる。なら俺達は生きているって事じゃないかな?」


 辻君は俺の説明を聞く以前からずっと泣いている。

 まあ無理もない。

 俺もビルの倒壊に巻き込まれた時の恐怖は鮮明に覚えている。

 そのショックからまだ立ち直れていないのだと思う。

 

「元の世界に戻れるかどうかはわからないが、召喚の張本人である神様であれば帰す事も出来るのかも知れない。会う事は難しいそうだが、希望がないわけじゃないさ。もしかしたら帰れるかも知れないぞ」

「地球に戻れるかどうかは置いておくとして、僕達の役目は魔王を倒す事なのですよね?しかし今迄に他の召喚者もいたにも関わらず、また召喚が行われたという事は、これまでの間ずっと倒せていない程の存在という事ではないのでしょうか?そんな魔王であれば、僕達が敵うようなものなのでしょうか?」

「そうか、そういえば魔王に関する事は碌に聞いていなかったな。また明日にでも王女様達に聞いてみよう」


 魔王討伐なんてベタな展開だな、と思っただけで全然情報聞いてなかったな。

 すまん、裕磨。


「大丈夫だって!魔王を倒せなかったって言うのは今迄1人しか召喚しなかったからだろ?神様もそれじゃあダメだって思ったから俺達6人を召喚したんだよ。1対6!楽勝に決まってるって!」

「そうだな。みんな、ポジティブに行こうポジティブに。そうだ、何か食事でも頼もう。メイドさんに頼めば部屋まで運んできてくれるらしいぞ。なんせ王城だ、美味いものが食べれそうじゃないか」

「いいっスね!俺肉が食いたいっス!酒とかもあるんスかねー?」

「頼めばあるだろうが、明日はステータスカードを作成した後に、国王様に謁見する予定だそうだ。酒は飲まない方が良いと思うぞ」


 この国の最高権力者に会うのだ。

 俺達の身分がどれだけ保証されているかはわからないが、悪い印象を与えないに越したことはないだろう。 

 しかし謁見の作法とか全く知らないが大丈夫だろうか?


「まあとりあえずみんなで食事にしよう。メニューは決まっているのかもしれないが、何か希望があれば伝えてみようか」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうして、皆で食事をとった後はそれぞれの部屋に戻って休む事とした。

 天草君は辻君が心配だとの事で一緒の部屋にいることにした様だ。

 

 俺も部屋で休んでいたが、どうにも色んな考えが頭に巡って寝付けない。

 外気にでも触れれば少しはスッキリするだろうかと思い、案内して貰おうとメイドさんを呼んだ。

 

「何か御用でしょうか?」

「ええ、すこし夜風に当たりたいと思いまして。できれば夜空でも見える場所がいいのですが」

「それでは3階のバルコニーにご案内致します。外は冷えると思いますので何か羽織るものをお持ち致します。少々お待ち下さいませ」


 おお、ありがたいな。

 メイドさんはすぐに上着を持ってきてくれて、道を案内してくれる。

 でも部屋の中はずいぶん温かい感じだが外はそんなに寒いのだろうか?

 そのことを先行くメイドさんに質問してみると


「はい、王城内は火と風の魔法により、快適な状態を維持するようにしております。ですが屋外に出られますと魔法の影響外となってしまいます。夜はかなり冷え込んでおりますので、お風邪など召されません様ご注意下さい」

「なるほど、魔法ですか。この廊下にある光も魔法なんでしょうか?」

「はい、これは光魔法の【光源(ライト)】です。この魔法が使える事が、私共王城に仕えるメイドの必須条件となっております」

「そうなんですね・・・魔法は誰にでも使えるようになるものなのですか?」

「必ずしも誰もが使えるというものでは御座いません。ですが余程素養のない方でなければ、しっかりと学べば初級魔法程度は使える様になるかと思います」


俺も魔法を使える様になれるのだろうか?学べば大丈夫らしいがそういう機関があるのかな?ラルワさんに聞いてみるか。

そんな事を考えているうちに目的の場所に着いた。


「では私はこちらに控えておりますので、お帰りの際はお声掛け下さいませ」

「ありがとうございます」


俺はメイドさんにお礼を言って、バルコニーに出てきた。

おお、言われた通りだいぶ冷え込んでいるな。

俺は早速メイドさんに渡された上着を羽織る。

王城3階のバルコニーから見る景色はとても素晴らしい物だった。

眼下には城下町の灯りが煌めき、空を見上げれば満天の星空を望む事が出来る。

元の世界では長年都会に住んでいた事もあり、まともに夜空を眺める事もなかったが、今迄にこんなに綺麗な星空なんて写真でも見た事がない。


しばらく何も考えず、ただひたすらに空を眺めて1人黄昏れていると、不意に声を掛けられた。


「綺麗な星空ですね」

「天草君じゃないか、どうしてここに?辻君は大丈夫なのか?」

「茜は泣き疲れた様で今は寝ています。扉が閉まる音と足音が聞こえたのでメイドの方に尋ねたら、課長が外に行ったと教えてくれたので私も案内して貰いました」


 ん?天草君御付きのメイドさんが何故俺の行き先を知ってるんだろうな?ああ、上着を取りに行った時に言付けがされていたのかな。

 誰が何処に行ったのか把握できていなければ何かあった時に困るだろうし当然の事か。


「そうか。特に何かしてるわけではなく、気分転換に夜空を見に来ただけだが天草君も付き合うかい?」

「はい、お邪魔します」


 そう言って、天草君は俺の隣に並ぶ。

 しばらくの間、言葉を交わすこともなくただ夜空を見つめ続ける。


「星がとても多いですね。星座を探してみましたが全然見つかりませんでした」

「星座か。星には詳しいのかい?」

「ある程度知ってるくらいです。ですがそれは地球の物なので、ここではやっぱり通用しないみたいです」

「そうか。俺にはこの星空はとても美しいという事くらいしかわからないが、やはり地球で見る物とは違っているか」

「はい。それに月の大きさも全然違いますね」

「ああ、流石にあれは俺にもわかるな」


 夜空の一角に目を向けると、そこには地球から見える物よりも倍は大きいであろう月がある。

 色も青白く、その大きさも相まってかなりの明るさがある。

 

「あれを見てしまうとやはり、地球とは違う所に来てしまったのだと認識してしまうな」

「・・・・・そうですね・・・・くちゅん!」


 可愛らしいクシャミが聞こえたので天草君を見やると、俺とは違い上着を羽織っていなかった。

 彼女は自らの体をかき抱くようにして身を縮こまらせていたので、俺は自分の上着を彼女にかけてやる。


「あ・・・すみません。ありがとうございます」

「いや、すぐに気付いてやれなくて申し訳なかったよ。寒かっただろう」

「・・・課長は相変わらず優しいんですね」

「うん?男なら当然の事じゃないか?普通だよ普通」

「そんなことありません。課長は優しいです」


 むう、天草君にこんな事面と向かって言われるとは。

 ちょっと、いや、かなり照れくさい。

 これはあれだな、退散するに限る。


「さあ、体も冷えてしまっただろう。そろそろ部屋に戻って明日に備えて休もうか!」


 妙な雰囲気になってしまった場を誤魔化すように、俺は努めて明るい口調でそう告げる。

 そして、城内に向けて歩き出した俺だったが、天草君に服の袖の捕まれた。


「天草君?どうしたんだ?」

「・・・・・私達はこれからどうなるんでしょう?どうすればいいんでしょう?」


 気丈な彼女らしからぬ弱気な言葉。

 だが、この異世界に召喚され、右も左もわからない状況では不安になるのも当然だろう。


 俺だって不安だらけだ。

 だが、そんな内心を皆に悟られる訳にはいかない。

 上司としての俺のプライドだ。


「そうだな、正直な所は俺にも何もわからない。だからまずは現状の把握からだ。この世界の事。俺たち自身の事。魔法の事やマナの事もあるな。知らなければいけない事はたくさんあるだろう。だが俺達は一人じゃない。6人で協力して情報を集めよう。そして情報を整理して、俺達に何ができるのか、何が最善なのかを皆でまた相談しようじゃないか」


 そう自分自身にも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 人は分かりやすい目標があればそれに向かって進みやすくなるからな。


「皆で・・・・そう、ですね」

「そう、皆でだ。そうすれば・・うん、まあ、なんとかなるさ」


 しまった、締まらない言葉になってしまった。

 恰好つけようとするもんじゃないな。

 しかし、励ますのに失敗したと思っていたら、天草君は緊張が解けた様に柔らかに微笑む。


「なんとかなる、ですか。それ、課長が人を励ます時によく使う言葉ですよね」

「おお?そうなのか?自分では気付かないものだな」

「はい、私達が失敗したり、迷惑をお掛けしたりして落ち込んでたりするといつも『まあなんとかなるから気にするな』って仰ってました」

「あー、そうだな。確かにそう言っていた気がする。流石天草君。良く覚えてるんだなぁ」


 うーむ、励まそうとしたのは間違いないが、なんというか、もっとスマートにしたかったな。

 まあ結果オーライか。


「さあ、そろそろ戻ろう。俺も大分寒くなってきてしまったよ。明日二人して風邪なんて曳いてたら、他の連中に何を言われるか分かったものじゃないぞ?」


 俺は肩をすくめ、苦笑を浮かべながらそう言うと、


「フフッ、はい、わかりました。戻りましょうか」


 彼女は俺に笑顔を返してくれた。

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