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 その頃、ライトマンとエネルはお使いのため街に出ていた。

 帝都というだけあって普段から人で賑わっている街は、エレノアが旅行から帰って来たという話題で持ち切りで、普段以上に賑わっていた。彼女のあの美しい容姿はこの街の人間だけではない、この国の人間、いや他国の男まで魅了する。その彼女が帰ってきたことで、一目その姿を見れたらと観光客も増え、気づけば帝都はちょっとしたお祭り気分になっていた。

「すごい賑わいだねえ、エレノア様はすごいね」

 改めて彼女の人気に感心して溢れかえる人々を眺めるライトマン。

「でもよく考えたら、そんな人に気軽に話しかけてもらえるなんてワシらはちょっと贅沢かもね。エネルなんて山ほどお土産貰っちゃったし」

「でも私の趣味ではないのでどうしたらいいのかわからないです」

「どうして? 着たらいいと思うよ、絶対にかわいいよ」

 その彼の表情には嘘も偽りもない、ただただ本心だけの笑顔があった。

 だから少し照れくさくて、でも嬉しくて、エネルはどう答えていいのかわからなくて、頬をほんのり赤らめて俯き加減に視線を逸らした。そして、ぽつりと言うのだった。

「似合わないから着たくない、です」

「ええ? そうかなあ、君はとても魅力的な女の子だと思うよ? エレノア様もそれをわかっているから、あんなにお洋服をくれるんじゃないのかな」

 こんなことを素で笑顔で言うのだから、エネルはますます恥ずかしくなってしまう。

 頬を赤らめたままいつもの無表情でじっとライトマンを見つめ、そして、彼女は言った。

「死神のような博士に言われても嬉しくはありません、です」

「えええ? うーん確かにワシの顔は人様に見せるのも申し訳ないくらい酷いけど」

 とほほ、と肩を落として最近ますますやつれて顔色の悪くなった自分の顔を両手で優しく包み込む。

「死神もびっくり、なのです」

「もうちょっと食べないといけないなぁ」

「痩せても太っても同じだと思います」

「ありがとう、心に深く突き刺さったよ」

 悪気なく吐かれる助手の一言にうっすら涙が滲んでしまったが、それは気付かれないように袖で拭っておいた。

「そんなことより早く買い物を済ませて帰りましょう、です」

「そ、そうだね。ええと、まずは林檎を………」

「博士。お菓子、欲しいです」

 エネルは近くにあるお菓子屋さんを指差した。

 ショーウインドウには色とりどりのお菓子が可愛らしく飾りつけされていて、そこに、でかでかと張り紙が貼られていた。『ライオネルフジタの新作スウィーツ発売! 誰も食べたことのないまったく新しい味、そして新食感! 君も感じてみないかい?』―――こんな煽り文句と共に描かれた謎の棒状のお菓子は、その色は溝か混沌を描く時にしか使わないだろう薄汚い色をしていた。なのに周りには星やらハートやらを散りばめており、妖しさ満点である。

「エ、エネル。あれ欲しいのかい? 確かライオネルフジタって、前に海鮮スウィーツ販売してたよね。すごい味だった気がするんだけど………うん、忘れられない味だったよね?」

「今度は大丈夫かも、です」

「なんで敢えて買おうとするんだい、もっと美味しいもの他にもあると思うんだけどなあ」

「最初から美味しいとわかっているものを買うことほど愚かなことはないのです」

「うーん、たまに君のことが理解できないなあ」

「スリルを楽しむのです」

「まあいいけど。夕方までに帰ればいいし、時間はまだあるから」

「仕事はまだ山ほど残っています」

「ううう、たまには忘れさせて欲しいよ」

 涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら、とぼとぼとお菓子屋に向って歩き出す。エネルは新作によほど期待しているのか、頬をほんのり赤らめじいっと真っ直ぐに店を見つめながら歩いた。

 そして二人が店に入ると―――

「うむ。なかなか美味いな、この菓子は。ライオネルフジタという会社の製品か。わかった、今度からチェックしておこう」

 ライオネルフジタの海鮮スウィーツコーナーでごっそり得体の知れないお菓子を抱えた男性が、タコをチョココーティングした何かにかじりつきながら、店の主人と話をしていた。男は歳は二十代前半か、色白の肌に映える青く美しい髪を持つ細身で背の高いその男性。一見すると女性に見えなくもないほどの美貌の持ち主だが,その体には女性の柔らかさはなく、鍛え上げて余分な脂肪を一切無くした筋肉で引き締まった美しさがある。その体を男は白と青を基調とした露出の多い衣服で包み、腰にはサーベルを携えている。

 

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