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人生なんてこんなものか、と思った今年の冬。
あることがきっかけになり、長年暮らした妻と子供に別れを告げた。子供とは別れたくなかったが、収入も少ない俺が引き取るわけにもいかない。
家は妻のものだったので、俺は昔一緒に暮らしていた同級生の家に居候させてもらうことになった。同級生も離婚歴のある一人暮らし。男二人の同居生活は、まぁ、楽なものだ。
勤め先は、小さな会社。俺はそこの営業をしている。
俺よりも若い専務と、専務より若い社長、地方に一つ営業所があるだけの業績そこそこの会社だ。
本社には俺と専務しかいない。たまに社長が打ち合わせ、契約のために来るくらいだ。
離婚して独り身になってしまっても、人生絶望には至らない。
悩むといっても、もうどうしようもないことだ。決めたのだから。
ただ、俺には離婚前からずっと悩みがあった。
誰にも打ち明けることのできない悩みが。
俺を悩ませているのは同じ本社で働く専務、その人。
仕事はしない、文句は言う、わがまま、女癖の悪さ、口の悪さ、悪知恵、とにかく何をとってもいいところが見つからない。
ただ一つ、自分の娘の面倒だけはきちんと見ていて、そこのみ人間としては認めているのだが、それ以外はとにかく外道そのもの。
チンピラのような外見で、チンピラのような口調と声をして、チンピラのように歩く。
金と女の話が大好きで、金と女が絡むと人が変わる。
とにかく扱いが厄介な子供のような男だ。
「あ、煙草きれた」
しかし、何が一番厄介かというと、
「買ってきて」
「…はいはい」
俺がこの男に惚れているということだろうが。