再会
「夜宵、おまえは今、何をした!?」
真っ赤に顔を赤らめる美雪。
可愛いな、おい。
「キスだ。」
俺が堂々と真実を述べると、美雪は刀の形をした魂器を俺に向けた。
もしかして御立腹?
「いくら夜宵と言えど赦さん。」
いきなり切りかかってくる美雪。美雪の刀は鞘に入ったままだから切られはしないが、もし当たったら打撲ではすまないような攻撃を無数に繰り出してくる。
もちろん、全て避ける。
「初めてだったんだぞ!!」
「安心しろ、俺も初めてだから。」
「ふざけるな!!」
刀を振り回し続ける美雪。それを避け続ける俺。
怒っている美雪には悪いけど、楽しい。まるで子供の頃に戻ったみたいだ。
「貴崎さん、大丈夫ですか!?」
どうやら美雪にお迎えが来てしまったらしい。
無視してもいいけど、やっぱり美雪とは二人で遊びたい。
今日は美雪と会えただけでも満足しておくか。キスもできたし。
俺の腹を狙った美雪の刀を素手で掴み刀ごと美雪を引き寄せる。
「また明日、美雪。」
耳もとで囁く。
「ふ〜〜。」
更に息を吹きかけてみる。
「貴様、いい加減にしろ!!」
激昂した美雪の刀が俺を捉える前に俺は近くにあった家の屋根に飛び移った。
赤面した美雪、萌え〜。
寮に戻った俺はクリア目前のゲームをしながら、今日の美雪との一時を思い返して過ごした。
明日から美雪との学園生活が始まる。実に楽しみだ。
◆◇◆◇◆
夜宵が生きていた。それは喜ばしいことだ。
夜宵は私の初めての友達だった。だが、夜宵はある日突然いなくなってしまった。
私は夜宵の名前しか知らなかったから、夜宵がなんでいなくなってしまったのかは分からなかった。
(なんで今更になって。)
きっと事情があるのだろう。思い出の中の夜宵はやんちゃで活発で無鉄砲だが、約束は必ず守るやつだったから。
(だが、昔からふざけた奴でもあった。)
思い出しただけでもイライラする。いきなりキスしてくるなんてありえないだろう。いくら私が幼なじみだったとしてもだ。
次にあったら確実に天誅を下してやる。私の唇を奪った罪は果てしなく重い。
「みなさん、おはようございます。」
いけない、いけない。今は朝のホームルームの途中なのだから、こんな余計なことを考えていては駄目だ。私はアルカナ魔法学園の生徒会長なのだから模範的な生徒でなければならない。
「今日は転校生を紹介します。」
転校生?
この学園のクラスは実力で分けられている。そしてこのクラスは最高のAクラスだ。そこに編入してこれるなら相当な実力者でなければならない。
……嫌な予感がする。
なぜだろう、昨日の夜宵の『また明日。』という言葉が思い出される。
夜宵は昨日、B級悪魔をどんな方法かは分からないが一撃で倒していた。ならばこのAクラスに編入するには充分な実力を持っていることになる。
これは杞憂かもしれない。
昨日あんなことをされたから私は必要以上に夜宵を意識してしまっている。ただそれだけなのかもしれない。
いや、きっとそうだ。夜宵が転校してくるなんて有り得ない。
「入ってきて下さい。」
教室のドアが開かれる。
そして、転校生が教室に入ってきた。
「美雪、遊びに来たぜ!!」
思わず机に突っ伏した。生徒の模範とは到底思えない行為だが、今回ばかりは仕方ないと思う。
教室の空気が張り詰めている。おそらく、夜宵の口から私の名前が出たからだ。
私はこの学園初の二年生での生徒会長であり、不本意ながら生徒には畏れられている存在だ。
生徒からは《氷の女王》なんて渾名で呼ばれていることも知っている。
夜宵はそんな私のことをまるで礼儀を無視して呼び捨てにしたのだ、周りからしたらきがきではないのであろう。
「あの〜、貴崎さん?」
挙げ句、先生まで私の気を伺う始末だ。
「続けて下さい。」
いつまでも突っ伏してはいられない。とりあえず現状では夜宵は無視。
昨日のことも含めて後でいろいろと話をしなければならないが、今それをしてしまうと場の収集がつかなくなってしまう。
「わ、わかりました。
では十六夜くん、自己紹介を………
ってどこに行くんですか!?」
先生の制止をまるっきり無視してこちらに歩いてくる夜宵。
再び空気が緊張していくのが分かる。
私の目の前に立った夜宵はクラスメイトが冷や冷やしながら見守る中、おもむろに手を伸ばし……
「ぐい〜〜。」
私の頬を引っ張った。
「きはまはなにをひている?(貴様は何をしている?)」
「アハハハ、面白い顔。
それにプニプニ。」
私の頬を弄ぶ夜宵。
私の中で何かが切れる音がした気がした。
私の魂器である刀を鞘は付けたままで振り抜く。
しかし、昨日と同じように簡単に避けられてしまう。
「いい加減にしろ!!」
私が叫んだ瞬間に夜宵が視界から消えた。
「ごめんごめん、そんなに怒るなって。」
気付いた時には夜宵に頭を撫でられていた。
―ありえない。
私はこれでも学年最強の魔法使いなのだ。そんな私をいとも簡単に出し抜くなんて普通はありえない。
いったい夜宵は何者なんだ?
「十六夜くん!!」
先生の怒鳴り声が響く。
「なに?」
しかし、夜宵はまったく懲りた様子も見せず、平然と返事をしてみせた。
「貴崎さんを怒らせてはいけません!!」
先生、そんなに怯えながら言わないで下さい。
まるで私が怒ると手が着けられないみたいじゃないですか。
「別に怒らせる気は無いんだけどなぁ。
それに俺と美雪は仲良しだし。」
「とにかく、こっちに戻って自己紹介をしなさい。」
「え〜。」
「先生の言うことを聞け、夜宵。」
「美雪が言うなら仕方ないな。」
やっと前に戻った夜宵。あいつ、精神年齢が私と別れた頃からまったく変わっていない。
「十六夜 夜宵だ。人となれあう気はない。
美雪以外の人間は名前を呼ぶな。」
いや、そんなことも無いようだ。
今の夜宵はまるで人を見下すような冷たい目をしている。昔はそんな目は決してしなかった。
夜宵はこの十年、何をしていたのだろうか?