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孤独な悪魔  作者: 海王神
2/3

帰還


「戻ってきたなぁ。」


俺がこのコロニー《鳳凰》を追放されてから十年が経った。


「懐かしい。」


俺がいた頃から比べると《鳳凰》は随分と変わっている。


「いや、一番変わったのは俺か。」


俺は約束を果たしにこのコロニーに帰ってきた。

それが俺に残された最後の人間らしさだから。


人を無くした俺が今更って感じだけどな。


「まずは《アルカナ魔法学園》に行くか。」


美雪は多分、そこにいるはず。



アルカナ学園には既に話を通してある。

こういう時、魔法使いのライセンスは役に立つ。これを見せただけで、簡単に入学の手続きが済むのだから便利なものだ。

因みに俺は学園では途中編入という扱いになるらしい。


「ここが寮か。」


アルカナ魔法学園の敷地内にある寮。この学園は全寮制なので、その規模もかなり大きい。


荷物を自分の部屋に置く。といっても、俺の荷物なんてバック一つ分だから大したことはない。

部屋は学園に頼んで二人部屋を一人で使わせてもらうことになっている。


「さて、美雪はどこだろう?」


この学園にいることは確認済みだから、どこかにはいるはずだ。


「まぁ、気長に行きますかね。」


そんなに焦っても仕方ないし。


とりあえず、散歩に出掛けることにした。もしかしたら偶然、美雪に会えるかもしれない。


「そういや俺、美雪の顔を知らないじゃん。」


俺が最後に美雪を見たのは六歳の時だ。さすがに十年も経てば人相も変わってしまうだろう。


「その辺は明日調べればいっかね。」


とりあえず今は散歩を楽しむことにしよう。





いくら昔とは変わったといっても変わらないものも勿論あるわけで、そんな《鳳凰》の街並みを見ながらの散歩はとても楽しい。

そして、俺の思い出には必ずと言っていいほど美雪の笑顔が一緒だった。


「俺はここで幸せだったんだな。」


公園のベンチに座ってそんなことを考える。

ここは美雪とよく遊んでいた公園。美雪との思い出が詰まった場所。


「随分と無くしちまったな。」


人として大切なものを。

しかし、それが悲しいとは思わない。いや、思えない。

俺はもう、化け物だから。



ブーーー ブーーー


しばらく、公園で黄昏ているとサイレンが鳴り響いた。これは悪魔が襲来した時の警戒音だったはず。


悪魔は空からやってきた。数は二、ランクはBってところか。


「ふぁ〜、帰るか。」


大きな欠伸をしてから俺は寮に帰る。

公園にはまだ子供がたくさんいるが、俺には関係ない。


悪魔の侵入により辺りは騒がしくなっているが、パニックにはなっていない。

慣れている、そんな感じだ。最近は魔界の動きが活発しているから、こんなことも珍しくはないのだろう。



「え〜、ガルボエルの手下かよ。」


風にのって流れてきた悪魔の臭い。知っている臭いだ。

ガルボエル、公爵級の悪魔で、俺が半殺しにした悪魔。


ガルボエルの手下なのだとしたら、こいつらが狙うのは俺だろう。


「俺に勝てないからって嫌がらせはやめてほしいな。」


ガルボエルの目的は俺を殺すことではない。B級の悪魔ごときで俺を殺せるとはいくらガルボエルでも思っていないだろうから。

となると、ガルボエルの目的は俺の周りにいる人間を害すること。

悪魔の考えそうなことだ。


「無駄だってのに。」


俺がそれを見て憤ったり不快に思ったりする事はない。




数分ほど待っていると二匹の、頭が羊で体は人型の悪魔が死体を担いでやってきた。

死体を突き出す悪魔。

『こいつらは、おまえのせいで死んだ』とでも言いたいのだろう。


更に近付いてくるもう一つの気配。


「人間か?」


おそらくは魔法使い。それも、それなりの力を持つ者。


「懐かしい?」


なんでかは分からない。だけれど、この感覚はとても懐かしく感じられた。


「そこの人、逃げなさい!!」


現れたのは銀色の髪を持つ綺麗な女性だった。

一目で美雪だと分かった。


「邪魔。」


今回ばかりはガルボエルの思惑に嵌ってしまったらしい。

確かに俺は今、美雪と俺の間に立ちふさがるこの悪魔達が邪魔でしょうがなく不快に思っていた。

いや、この悪魔がいなければ美雪とは会えなかったのだから、寧ろ感謝するべきか。


そんなことはどうでもいい。


「消えろ。」

「凍てつけ!!」


俺が悪魔の頭を払うのと、美雪がもう一匹の悪魔を氷付けにしたのはほぼ同時だった。


B級悪魔と言っても、一撃で倒すのはかなり難しい。つまり美雪は少なくとも、Aランク魔法使いくらいの実力はあるのだろう。

まぁ、美雪はあの『貴崎家』の長女なんだからそれくらいは当たり前か。


「貴様、何者だ?」


さすがに美雪は俺が夜宵だとは気がつかない。

十年も経っているのだから仕方ないだろう。


「久しぶり、美雪。」


「私に貴様のような知り合いはいない。」


美雪が若干、臨戦態勢に入った。明らかに俺を警戒している。


「昔はあんなに可愛かったのにな。」


「…何を言っている?」


「橋の下の秘密基地。」


橋の下の秘密基地は俺と美雪が作った遊び場。俺達はそこでよく会って遊んだ。思い出の場所だ。


「……夜宵なのか?」


やっと気付いてもらえた。


「ただいま。」


「おまえ、今までどこに行っていたんだ!?

心配したんだぞ!!」


さっきまでの警戒をもうどこにもない。

美雪は嬉しさ半分、憤り半分といった感じに俺に迫ってきた。


――愛しい。


それは俺がまだ失っていない感情。失いたくない感情。


「聞いているのか?」


俺はこの瞬間を十年間待っていた。


「私の質問に答え……ん……」


美雪の唇を俺の唇で塞ぐ。


ファーストキスは十年越しの恋の味がした。










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