第91話 小さな証
広場の片隅。
夕陽に照らされた露店の前で四人は足を止めていた。
木製の台には様々な装飾品が並んでいる。
指輪。
腕輪。
首飾り。
銀細工。
魔石を加工した装飾品まであった。
夕陽を受けて小さく輝いている。
「アクセサリーか」
ガルドが棚を覗き込む。
「意外と色々あるな」
「興味あるの?」
リゼアが聞く。
「そうでもないな」
ガルドは答えた。
「じゃあ何で見てるのよ」
「何となく気になってな」
意味不明だった。
リゼアが呆れたようにため息を吐く。
だが。
そのやり取りを見ていた店主が笑った。
「どうぞ見ていってください」
年配の男性だった。
柔らかな笑みを浮かべている。
「見るだけでも歓迎ですよ」
四人は並べられた装飾品へ視線を向けた。
どれも丁寧に作られている。
王都らしい品揃えだった。
だが。
数分後。
ガルドは微妙な顔になっていた。
「どうしたの?」
カナトが聞く。
「いや」
ガルドは腕を組む。
「戦う時に邪魔そうだなと思って」
リゼアは小さくため息を吐いた。
「そこなの?」
「そこだろ」
ガルドは真顔だった。
アイリスが苦笑する。
「実用品以外に興味がないのですね」
「実用品は大事だろ」
「そうですね」
「だろ?」
何故か勝ち誇った顔だった。
そんなやり取りを聞いていた店主が小さく笑う。
「でしたら」
店主は露店の奥から小箱を取り出した。
「こちらはいかがでしょう」
蓋が開く。
中には小さな銀のチャームが並んでいた。
「これは?」
カナトが聞く。
「鞄や剣帯などに付ける小型の飾りです」
店主は一つを手に取る。
銀色の小さなプレートだった。
大きさは親指ほど。
派手さはない。
だが。
表面には花が刻まれている。
五枚の花弁。
そして中央には。
小粒の青い宝石が埋め込まれていた。
夕陽を受けて静かに輝いている。
「綺麗ね」
リゼアが小さく呟く。
店主は微笑んだ。
「名前は知りませんが、古くから親しまれている花の意匠のようです」
花の名前は分からない。
だが。
どこか優しい印象があった。
「軽いですし」
店主は続ける。
「冒険者や騎士の方にも人気ですよ」
ガルドはチャームを手に取った。
軽い。
思っていたよりずっと軽かった。
「へぇ」
銀のプレートを指先で転がす。
「これなら確かに問題なさそうだ」
珍しく興味を示す。
その様子を見て。
カナト達も自然とチャームへ視線を向けた。
何故だろう。
不思議と目を引く品だった。
◇
店主は穏やかに口を開いた。
「仲の良い方同士で買われることも多いですよ」
カナトが顔を上げる。
「そうなんですか?」
「ええ」
店主は頷いた。
「この花には友情や信頼を象徴する意味があると言われていましてね」
友情。
信頼。
その言葉に。
四人の間へ僅かな沈黙が落ちた。
夕陽が銀細工を照らしている。
青い宝石が静かに輝いた。
「なるほど」
アイリスが小さく呟く。
「だからお揃いで買われる方がいるのですね」
リゼアはチャームを手に取った。
銀のプレート。
花の刻印。
中央の青い宝石。
派手ではない。
けれど。
不思議と目が離せなかった。
今日という一日を思い出す。
本屋で消えたアイリス。
医療用具店で目を輝かせていたカナト。
肉を求めて露店を巡っていたガルド。
くだらないことで笑った時間。
少し前の自分なら。
知らなかった時間だった。
気付けば。
小さく笑みが零れていた。
そんなリゼアの様子に気付いたカナトが口を開く。
「これ」
三人が顔を上げる。
「皆で買わない?」
一瞬だけ静かになる。
「記念ってことですか?」
アイリスが聞く。
「うん」
カナトは頷いた。
「せっかく皆で来たんだし」
「いいんじゃねぇか」
ガルドが笑う。
手の中のチャームを見ながら続けた。
「こういうのも悪くねぇ」
「私も賛成です」
アイリスが微笑む。
リゼアも頷いた。
「そうね」
悪くないと思った。
その時だった。
「あ」
リゼアが小さく声を上げる。
「レオンさん」
全員が気付く。
今日ここにいなかったもう一人のことを。
「確かに」
カナトが苦笑する。
「僕達だけっていうのも変かな」
「じゃあレオンさんの分も買っとこうぜ」
ガルドが言う。
その言葉に。
誰も反対しなかった。
むしろそれが当たり前のように思えた。
店主はそんな四人を見ながら静かに笑う。
「良い仲間をお持ちですね」
その言葉に。
リゼアの視線が僅かに揺れた。
仲間。
少し前まで。
その言葉を素直に受け取ることが出来なかった。
けれど今は違う。
手の中の銀細工を見る。
銀のプレート。
花の刻印。
中央の青い宝石。
不思議と。
大切にしたいと思った。




