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【完結】エメヴィベール伯爵夫人の魔法庭園  作者: 礼三


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アシルの後悔

 アシルはラースとの約束を守っていた。


「シルヴィア嬢の体調を見守り、何かあればすぐ魔塔へ連絡をくださるというのなら…。シルヴィア嬢に何事もなければ…。このまま…。二度と彼女には会わない…」


 シルヴィアに対する自分の勝手な恋心はどこまでも隠し通すつもりであったが、ラースはアシルへ警戒心を抱いている。アシルは些細な(ひず)みでシルヴィアの幸せを壊したくなかった。

 シルヴィアはラースを愛しているのだ。

 

 その後、アシルはしばらく魔塔主に付き合い、魔塔で様々な研究に取り組んでいたが…。

 ある朝、窓を開け放ったときに、仰いだ空の青さ、瑞々しい草原の風の匂いへ誘われて、旅に出ることにした。

 アシルは異国地を長く放浪した。

 大樹の恩恵に護られる森、鍾乳洞の奥に佇む古城、岸壁に造られた集落、砂漠の果てにあるオアシス。夕日の美しい水辺の町、光の差さない深海の酒場…。吹雪く北の大地、空へ幻想的な虹色のカーテンが浮かぶ氷の街…。

 どこへ行っても、アシルの胸の奥にはシルヴィアが息づく。決して忘れられない愛しい人…。


『彼女にもこの景色を見せてあげたい…』

 

 アシルが旅を始めてから15年以上の月日が過ぎていた。

 アシルは魔塔へ戻ることにした。そろそろ、魔塔主へご機嫌伺いに行かねば、後々面倒な事になる…。

 だが、風の便りにシルヴィアの状況を聞いて、居ても立っても居られなくなり、そのままエメヴィベール伯爵庭園を訪れた。

 年齢を重ねても、アシルは以前の姿のままだ。最高位精霊に加護された魔法師は若さを保ったまま長く生きる。

 だから、アシルは自身へ認識阻害の魔法をかけた。例え、古い知人に会ったとしてもアシルだと判断できないように…。


『一目、遠くから見るぐらいは許されるだろう…』


 バルコニーでお茶を嗜んでいるシルヴィアをアシルは人知れず見上げた。

 アシルは震えた声で呟く。

 

「何故…。こんなになるまで放っておいたのだ…」


 洗練された美しさは変わっていないが、以前とは違い、肌は衰え身体は痩せ細っていた。

 同じ年頃の夫人よりもずっと年老いて見えた。

 シルヴィアは庭園へ膨大な魔力を送り続け、魔力が枯渇していた。それでも、花々はシルヴィアから魔力を吸収し生命力さえも蝕んでいった。

 今すぐにアシルの魔力を分け与えることもできるが、ボロボロになったシルヴィアの身体がそれに耐えられるか…。

 

『どうみても…。おかしいだろう…。ラース卿…』


 ラースが愛人と王都で暮らしていることはアシルも聞き及んでいた。

 だが、ラースはアシルと約束したのだ…。アシルの代わりにシルヴィアの症状を注意深く観察すると…。

 しかし、ラースは何年もエメヴィベール伯爵領の邸宅に帰っておらず、シルヴィアの近況を使用人へ確認することも怠っていた。

 フルールを愛人にした事実をシルヴィアへ知られてしまったラース…。

 シルヴィアによってフルールとの仲を引き離されるのではないかと恐れていた。

 元々、フルールはシルヴィアが慈しんで育ててきた少女だ。それを無理を言ってラースが手元へ引き取った。

 愛するフルールを奪われれば、ラースは正気でいられなくなる…。ラースはその不安からいつしかシルヴィアへ憎しみを抱くようになった。

 シルヴィアの著しい減量は侍従たちも心配をしていたが、ラースの浅はかな行為で胸を痛め食が細くなったのが原因だと誤認していた。

 人よりも老けて見えるのも、心労が祟ったのだろうと…。

 アシルの視界がぼやける…。頬へ冷たいものが流れていく。


「何度も手紙で尋ねたではないか?なのに…。君は変わりはない…。大丈夫だからと…。そう書いてあったではないか…」


 アシルは旅先からシルヴィアへ幾度か文を綴った。ラースに託したものの不安が拭えなかったからだ。

 手紙にはいつも返信用の封筒を同封していた。封筒には魔法をかけており、アシルがどこへいても飛んでくるようになっていた。


『先生お元気ですか?私は元気に暮らしております。先生の旅が素晴らしいものでありますように…。いつかお話を聞かせてくださいませ…』


 シルヴィアの抱えたものはどれほどのものだっただろう…。だが、アシルへ弱音を吐くような手紙を送ることはなかった。


「何故…。私はあの男を信じようなどと思ったのか…」


 アシルは急ぎ魔塔へ戻り治療方法を考えた。

 長年にわたってシルヴィアが魔力を庭園へ供給したことにより、シルヴィアと植物は複雑な回路で繋がっていた。強引に切り離せば花々だけでなく、シルヴィアの命も枯れる。

 だが、その方法を見出す時間もない。

 そこで、アシルは別の視点でシルヴィアの命を繋ぎ止めようとした。

 それが若返りの薬だ。人間にとってとても魅惑的な薬である。人類の長年の夢、その研究は実用に至っていない。

 だが、魔塔主の愛し子アシルにとって、新薬の開発は簡単なことだった。興味がなかったので作らなかっただけなのだ。

 アシルはシルヴィアを少女の頃へ戻し、自分の魔力を注ぐことで延命しようとした。その上で、庭園との繋がりを断ち切れば良い。

 何度も試行錯誤して出来上がった薬の治験は自身の身体で行った。

 アシルは10才前後の少年へ戻った。

 更に、シルヴィアの現在の魔力量を庭園の植物の魔力残渣から測定して微調整したものをシルヴィアへ渡したのだった。

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