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第35話:勇者の堕天と、2.5次元アイドルの熱狂

 「リバ可」の精神によって解釈違い戦争が終結し、オークの村に再び平和と萌えが訪れた頃。

 ルルネのコンサート用に作った特設ステージ周辺は、広場とはまた違った種類の、異様な熱気に包まれていた。


 そこには、急造された看板が掲げられていた。

 『特別企画:リアル再現コーナー ~貴方の目の前で、あの名シーンが蘇る~』。


 ステージの上には、かつて俺を追放した勇者アレックスと、戦士ガイルの姿があった。

 だが、彼らは剣も鎧も身につけていない。

 アレックスが着ているのは、胸元が大きく開いた、薄手の白いシルクシャツ(カーミラ私物・フリル付き)。下半身は身体のラインがくっきりと出る革のパンツだ。

 ガイルは、野獣のような毛皮のマントを羽織り、半裸に近い状態で仁王立ちしている。



「くっ……! 殺せ……! いっそ殺してくれぇぇ!」


 勇者アレックスは叫んでいた。演技ではない。魂の慟哭だ。

 彼は今、魔物たちの前で、カーミラの著書『聖騎士団長の憂鬱』の騎士団長になりきり、ポーズを取らされていたのだ。


「なんでだ……! なんで俺様たちがこんな目に……! しかも、昨日の晩飯の『マンドラゴラ・ハンバーグ』が、王都の高級店より美味いのが腹立つ……!」


 ガイルも涙目だ。屈辱と美食の板挟みで情緒が不安定になっている。


 彼らはカーミラとの契約により、金貨500枚の借金を返すための労働に従事していた。

 ただし、俺が労働基準法(村ルール)を適用したため、彼らの生活環境は保証されている。

 十分な睡眠(8時間)、栄養満点のマンドラゴラ定食(デザート付き)、適度な休憩、そして仕事終わりの天然温泉への入浴。

 肉体的な虐待は一切ない。むしろ、過酷な冒険者時代よりも健康的で、肌ツヤが良くなっているくらいだ。

 

 ただ一つ、「精神的尊厳」がすり潰されていることを除けば。


「ほら、アレックス! 泣いてる暇があったら視線を上げなさい! 顎の角度が違うわよ! もっとこう、憂いを帯びた瞳で!」

「ガイル、もっと優しく! 騎士様の顎をクイッと持ち上げるのよ! 指先が震えてるわよ、しっかりなさい!」


 彼らにビシバシと指示を出しているのは、すっかりカーミラのアシスタントとして覚醒した、聖女マリアと魔導師リナだ。


「マ、マリア……お前、楽しんでないか? 俺たちは幼馴染だぞ……?」

「黙りなさいアレックス! 私語は慎んで! 貴方は今、誇り高き騎士団長なのです! そのプライドがへし折られる瞬間の『美しさ』を表現しなさい!」

「ひぃぃっ! 目が据わってる!」


 そして、ステージの前には、多くの魔物たちが群がっていた。

 人間は敵だ。憎き勇者だ。

 ……本来ならば、罵声を浴びせ、石を投げつけるのが魔物としての正しい反応だろう。

 だが、今の彼らの瞳に宿っているのは、殺意でも憎悪でもない。

 ――熱狂的な「萌え」と「尊さ」への渇望だった。


『キ、キャァァァァァッ!! 本物よ! 本物の『騎士団長』様がいるわ!』

『見てみぃあの表情! 「屈辱に耐える騎士」そのものやんけ! 涙目が再現度高すぎやろ!』

『将軍役の肉体美もヤバイ! あの胸板になら抱かれてもええ! ガイル推しになるわ!』


 地響きのような歓声。いや、黄色い悲鳴。

 魔物たちは、アレックスとガイルを「憎き人間」として見ているのではない。カーミラが描いた聖典(BL漫画)の登場人物が、三次元に顕現した「2.5次元アイドル」として崇めていたのだ。

 原作の再現度の高さ(本人の嫌がる顔)が、ファンの心を鷲掴みにしていた。


『騎士様ー! こっち向いてー! 流し目してー!』

『将軍! もっと強引に騎士様の腰を引き寄せて! そう、そこ! 筋肉見せて!』


 客席の最前列では、ダークエルフたちが鼻血を出しながらスケッチブックを広げ、高速でデッサンしている。


「くっ……! 貴様……俺の……太い腕に……抱かれろ……!」


 ガイルがマリアに脅され、震える声で棒読みのセリフを吐くと、会場が爆発した。


『ギャァァァァァッ!! 言うた! 名台詞キタコレ!!』

『アカン、鼓膜が妊娠する! 低音ボイス最高!』

『チップや! 今日の給料全部やるから、今のもう一回言うてくれ!』


 バラバラバラッ!

 ステージ上に、銀貨や花束、差し入れの菓子が雨あられと投げ込まれる。

 中には、アラクネが編んだ手編みのマフラーや、リザードマンが狩ってきた新鮮な魚なども混じっている。

 皮肉にも、勇者としての名声を失った彼らは、この魔物の村で、真の「スター」になってしまったのだ。


「な、なんだこれは……! 俺たちは見世物じゃないぞ! 誇り高き勇者だぞ!」


 アレックスが涙ながらに叫ぶが、その悲痛な叫びすらも、ファンたちには「役に入り込んでいる」と解釈された。


『見てあの抵抗する姿……! なんて健気なの……! 役者魂を感じるわ!』

『プライドが高いほど、堕ちた時が美しいんや……! 解釈一致! 一生推すわ!』


 そこへ、マリアが満面の笑みで、刷り上がったばかりの本の束を持って前に出た。


「はーい、皆さん! 興奮しないでください! お静かに!」


 聖女マリアは敏腕プロデューサーのように叫んだ。


「彼らの『尊い関係』をもっと間近で見たいですよね? 製本ほやほやの販売コーナーはこちらでーす! そしてなんと! 購入者限定で、こちらの『騎士団長&将軍との握手会』に参加できまーす!」


 握手会。

 その単語が、魔物たちの理性を吹き飛ばした。


『うおぉぉぉ! 買うでぇぇ!』

『実質タダやんけ! 保存用と観賞用と布教用で3冊くれ!』

『騎士様の手を握れるなんて……! 一生手ェ洗わん!』

『将軍の胸筋に触ってもええですか!? 追加料金払います!』


 殺到する魔物たち。長蛇の列が一瞬で形成された。

 アレックスとガイルは、かつて剣を交えた宿敵たちから、キラキラした瞳で見つめられ、おずおずと手を差し出された。


『き、騎士様……応援してます……! 将軍とお幸せに……! これ、差し入れの回復薬です!』


 先頭のコボルトの少女が、真っ赤な顔でアレックスの手を握る。


『あ、握手してください……! ッハァァ! 手ぇ冷たい! 緊張してはる! 可愛い!』


 次はオークの巨女だ。アレックスの手がメリメリと音を立てるほどの握力で握りしめられる。


「ひぃっ……! い、痛い! 俺の手が!」

『照れ屋さんやなぁ! そんなとこも好きやで!』


 ガイルもまた、オークの女子ファンに囲まれてガタガタと震えていた。

『ええ筋肉や……。これぞワシらの理想の攻め様やで』と太い指で二の腕をプニプニされている。


 俺はその光景を眺めながら、満足げに頷いた。

 この人気なら、借金を返す日は早いかもしれない。

 しかしそれまで、カーミラが続編を描くたびに、新たな羞恥プレイネタは増えていくことだろう。


 俺はゴウダに目配せをした。


「ゴウダはん、警備を頼むぞ。彼らは村の『ドル箱』だ。怪我をさせないようにな」


『任しとき! しかしレン兄ちゃん、あんたも人が悪いなぁ。あいつら、魔物討伐で死ぬより、よっぽど酷い目に遭ってるんちゃうか?』

「そうか? 衣食住は保証されてるし、多くのファンに愛されている。ある意味、勇者として成功したと言えるんじゃないか?」


『……人気なのは間違いないなぁ』


 俺は肩をすくめた。

 こうして、オークの村は多様な種族と、堕ちた勇者たちが織りなす、カオスでホワイト、そして少しピンク色な文化圏として、さらなる発展を遂げていくのだった。



―――――

「ざまぁ」も終わり、ここまでが第一章です!

お読みいただき、ありがとうございます。

気に入りましたら、このタイミングで☆やフォローをよろしくお願いします!

第二章や今後の展開は検討中です。。

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