第31話:勇者の逆恨みと、流れてきた呪いのチラシ
勇者アレックス、聖女マリア、戦士ガイル、魔導師リナ。
かつて「最強の勇者パーティ」を自称していた彼らは今、見るも無残な姿になっていた。
アレックスの白銀の鎧は錆びて黒ずみ、ガイルは折れた大剣を買い換えたにもかかわらず、既に刃こぼれしてノコギリのようになっていた。マリアとリナの法衣は泥と煤で汚れ、かつての輝きはどこにもない。
度重なるダンジョン攻略の失敗、装備の破損、そして資金難。
全ては「レンがいないから」起きたことだが、彼らの脳内では「レンが呪いをかけて逃げたせい」に変換されていた。
「くそっ……腹減った……。なんで勇者様が野宿しなきゃならないんだ」
アレックスが腹をさすりながら悪態をつく。
「これも全部、あの役立たずのレンのせいだ。あいつ、俺たちの共有財産だった金を横領して逃げたに違いない」
「そうですわね。あんな陰湿な男、きっと今頃、私たちの金を元手にどこかでぬくぬくと暮らしていますわ。許せませんわ!」
マリアがヒステリックに叫ぶ。もちろん事実無根だが、彼らはそう信じ込むことでプライドを保っていた。
「おい、見ろよアレックス。この先、魔物の気配がするぜ」
ガイルが鼻を鳴らした。
「オークの集落か? へっ、ちょうどいい。鬱憤ばらしに魔物を皆殺しにして、村の食料と財宝を奪ってやろうぜ」
「そうね! 魔物なんて殺して当然だもん! レンへの恨みを晴らす練習台にしてやるわ!」
その時、森の奥から風に乗って、一枚の紙きれがヒラヒラと舞ってきた。
それは、先日のコミケ用に配布されたチラシだった。
「ん? なんだこれ」
アレックスが、その紙を乱暴に掴み取った。
そこに描かれていたイラストを見て、彼の動きが凍りついた。
そこには、繊細かつ美麗なタッチで、一人の「騎士」が描かれていた。
白銀の鎧、整った顔立ち、オールバックの金髪。
どう見ても、アレックス本人(を最大限に美化し、色気を3割増しにしたもの)だった。
だが、問題はその構図だ。
騎士は頬を赤らめ、涙目で、筋骨隆々のオークに壁ドンされているのだ。
添えられたセリフ。
『「くっ……貴様の太い腕に抱かれると……抗えない……!」』
「……は?」
アレックスの脳が処理落ちした。
横から覗き込んだガイルも絶句する。
「お、おいアレックス……これ、お前じゃねぇか? なんでオークとイチャついてんだ?」
「ち、ちがう! 俺じゃない! なんだこれは!?」
マリアとリナも紙を奪い取る。
「まあ! なんて破廉恥な……! でも……」
マリアがゴクリと唾を飲み込んだ。
「この騎士の表情……今の落ちぶれたアレックスより、何倍も輝いていますわ。この、屈辱に耐えながらも、どこか期待しているような潤んだ瞳……」
「うんうん、なんかこの絵のアレックス、すごい『守ってあげたい』感があるよね。ていうか、このオークの包容力、すごくない? ガイルより強そう」
「おいリナ! 俺と比較すんな!」
女性陣の反応は少しズレていたが、アレックスの怒りは頂点に達した。
「ふざけるな! これは……これはレンの仕業だ! あいつ、俺に呪いをかけるために、こんな『呪いの似顔絵』をばら撒いているんだ! 俺の権威を失墜させるための、卑劣な精神攻撃だ!」
「な、なるほど! 俺たちが弱くなったのは、この絵のせいで呪われたからか!」
ガイルも都合よく解釈して激怒する。
「場所は……この森の奥か」
アレックスは剣を抜き、チラシを握りつぶした。
「行くぞお前ら! レンの野郎を八つ裂きにして、俺の描かれた呪いの絵を全て回収し、焼却処分する! そして、あいつが貯め込んだ金で、俺たちの名誉と装備を取り戻すんだ!」
「おう! やってやるぜ!」
「ええ、天罰を下してやりますわ!」
アレックスは怒り狂って村の方角へと走り出した。
ガイルも続く。
マリアとリナは顔を見合わせ、少し頬を染めて囁き合った。
「ねえ、リナ。この絵……なんか凄く『クる』わよね?」
「うん。アレックスには内緒だけど、続きが気になるかも……」
それぞれ異なるモチベーションを抱き、勇者一行はオークの村へと侵攻を開始した。




