episode6 救世主という組織
Messiahという組織の発端は日本だ。
そのあまりの技術力、対応力に敬意を示し今では対ウイルス機関を「Messiah」と表現する国も少なくない。そんな救済組織の本部があるのは、僕たちが住む愛知県。
本来であればそのような大切な組織の本部は首都である東京にあるべきだが、あえて日本の地理的中央に位置する愛知県に配置することで全国への隊員の派遣がしやすく、よりスムーズな救済を行なえるのだという。
日本各地に支部を置くMessiahだが、その本部たる建物に入ることができるのは、隊員の中でも限られたものだけだ。
僕たち一般人など本来であれば一生関わることなく終わる。
しかし、その『本部』に、今。
「確認が終了しました。中へどうぞ」
一高校生、しかもMessiahという存在を避け続けてきた僕が、足を踏み入れようとしていた。
〜〜
「お、お邪魔します……。えっと…」
にしても、その入り口は思ったより質素なものだった。以前テレビで見た時はもう少し厳つい見た目だった気がするが。
僕の疑問を感じ取ったのか、轟音さんが説明する。
前から思っていたけれど、この人空気を読む力がすごい……
「ここはね、Messiahの関係者だけが通れる裏口なの。私たちはまだ子供だし、表の入り口から入ると目立っちゃうからね」
子供。
高校生にもなると、自分をそんなふうに表現することはなくなるが、轟音さんがあえてその言葉を使った意味もわかる。
というのも、Messiahの隊員になるためには20歳を迎えていなければならない。
救世主についての知識がほぼゼロな僕でも知っていることなので、よほど重要な規則なのだろう。
そして恐らくだけれど、僕たちは今、その規則の「例外」として迎え入れられている。
迂闊な行動をとって、迷惑にならないようにしなければ。
それから、疑問はもう一つあった。
人と全くすれ違わないのだ。
入り口で受付をしていた女性以外の隊員に、僕たちはまだ一人も遭遇していない。
裏口から入ったからだろうか。
気になった僕は、今度は正直にその疑問を轟音さんにぶつけてみることにした。
「あの、さっきから全然人に会わないですけど、これってどこに向かってるんですか…?」
「たしかに、言ってなかったね。実は、陽斗くんに合わせたい人がいるの。今向かっているのはその人のところ。救世主についての詳しい説明も、彼がしてくれると思うから」
「合わせたい人……?」
「そうだよ。悪い人じゃないから、楽しみに待っててね」
「は、はあ……」
悪い人のところに連れて行かれたら、たまったもんじゃない。
なんてことを考えていると、その時は案外すぐに訪れた。
轟音さんはとある扉の前で足を止める。
そして、礼儀正しくノックをした。
「準備はいい…?」
もう扉叩いてるじゃないかという言葉を言いかけて、すんでのところで飲み込んだ。
もう後戻りはできないのだ。
「………………いえ、すみません、行きましょう」
緊張をほぐすように深く深呼吸する。
この先にいるのは、一体どんな人物なのか。
轟音さんが会わせたいと言うならもしかして………僕らと同じ覚醒者だったりするのだろうか。
「失礼します。轟音和良です。報告書と、新たな覚醒者を一名を連れて参りました」
「入ってくれ」
低めの声だ。男性のものだろう。
にしてもなんだか、聞き覚えがあるような…
「失礼します。ほら、月ヶ峰くんも」
「あ、失礼します」
部屋に入ると中にいたのは、返事をしたであろう男性一人だけだった。
そしてその美しい髪は、整った顔立ちは、僕の記憶の中のとある人物と一致する。話したことはなくても、ほとんどの国民が知っている人。
………………どうやら、轟音さんの目指す救世主は、僕の想像よりはるかに大規模な挑戦なのかもしれない。
そうでなければ、この組織が、この英雄が、関わっているはずがないのだから。
「久しぶりだな轟音姉弟。それから十六夜も、元気そうでよかった。……それで、君が新しい覚醒者かな?」
「はい、月ヶ峰陽斗と言います」
「よろしく月ヶ峰。とりあえず座ってくれ。お茶も出そう」
彼のすらっとした体型に合うように作られた、救世主の隊服。
普通の隊員ならば、決して身につけることはない、マントが彼の立場を主張する。
動きに合わせてひらりと揺れるそれは、今朝のニュースでの姿と一致した。
「さてと……はじめましてだから、自己紹介をしようか。俺は橘刹那。Messiah第3部隊隊長を務めているものだ」
読み方紹介
橘 刹那→たちばな せつな




