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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
7/20

episode5 花の導くまま


「おいおい李鶴、あいつらいきなり手を繋ぎ出したぞ。やはり告白というあたしの読みは間違っていなかったのかもしれない」

「お前、今絶対そういう空気じゃないだろ。アホなのか?」

「どうするべき?あたしら別室に行くべき?二人っきりにしたほうがいいんじゃないのこれ」

「……少し様子をみよう。確かに今の二人の自分たちだけの世界に入った感は否めない」




 ヒソヒソコソコソ。

 だんだんと戻ってくる感覚が最初に捉えたのは二人の話し声だった。



 そして、遅れてやってきたのは、まずい、という焦りの感情。

 冷静になってみたら僕は、とんでもないことをしたのではないか?

 だって今、初対面の女の子の手を、許可なく、繋いでしまっている。

 そんなことが許される世界線など、多分きっとおそらくメイビー…………ない。


 今まで数々の試練を乗り越えてきた僕の頭が警告した。これは速攻に手を打たねばならないと。


「あ、あの………轟音さん、そろそろ手を離してもいいですか……?」


 思い切って本人に打診してみる。

 しかし、声をかけても轟音さんは俯いてばかりでこちらをみようとしない。無反応だ。

 感覚的に僕達のアザはもう消えている。それに握手にしては随分と長い。繋がれたこの手に、今、いったい何の意味があるのだろうか。

 


「………やだ」


 少し遅れて轟音さんは僕の問いに答えた。

 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だった。

 おそらく近くにいる僕くらいにしか聞き取れない大きさだろう。

 でも……ちょっと僕にも何言ってるかわからないかも知らない。


「もうちょっと繋いでいようよ」


「はいっ?!」


 女子と仲良くする経験がない僕はあからさまに一歩下がる。頭の中の警告音が一回り大きくなった。救急車やパトカーが何台も脳裏を走り去る。

 一歩、また一歩と後ずさる僕。適切な距離に戻ろうと試みた。


 女の子に触って後ずさるなんて最高にダサいとは思いつつも仕方ない。

 今はこれが最善手なのだから。


 しかし、僕の努力も虚しく、相変わらず手は繋がれたままだ。

 時間が経つにつれて体温がさっきと違う意味で上昇していく。ついでに焦りも増す。


 どうしようどうしようどうしよう。

 僕なにか変なこと言ったのか?!

 とりあえず今すぐこの手を離さないとまずい!

 あぁ、李鶴さんお願い二人にしないで行かないで!


 いよいよ限界が近づき手を振り解こうと……したが、先に手を離したのは僕じゃなかった。 

「ふふ、ふふ、あはははは。月ヶ峰君、本当に面白い。こんなに揶揄いがいがある人は初めて」

「揶揄い…?」


 【揶揄う】

 冗談言ったりいたずらをしたりして、相手を困らせたり、怒らせたりして楽しむこと。揶揄すること。


 オーバーヒートした頭をフル回転させて、僕は今の状況を整理した。

 つまり、これが彼女のスキンシップ。距離感。

 どうやら焦る必要はない。

 もとより、人付き合いが下手すぎることで有名な僕のコミュニケーション物差しで測ってはいけなかったのだ。

 もしこのまま相手のペースに乗せられれば、たとえ彼女の能力に耐えられても、別の意味で死に直結するところだった。危機一髪、命綱は繋がったまま。ありがとう神様。


 そんなことを考えながら冷や汗を流したみっともない僕を、轟音さんはぽかんと見つめている。しかしすぐに、ハッとした表情に変わった。

 なんだか少し嬉しそうだ。

 からかいが成功したからか?

 

「あ、ごめんね。嬉しくて思わず。だって月ヶ峰くん、救世主にようやく興味を持ってくれたから。君、あざの説明だけ聞いて帰るつもりだったでしょ」

「ゔ」

 図星だった。

「どんな心境の変化なのかな〜?」

「そ、それは……」


 思わず言い淀む。

 次の言葉が出てこないのは、僕の中にはっきりとした理由がないから。

 救世主についての話を聞こうと思ったのは、正体不明の責任を感じたからというだけで、心から、やりたい!などの感情が湧き上がったわけではない。

 それに、あんなすごいこと話されたら誰だって興味は湧くだろう。

 ましてやそれが、自分がずっと知りたかったことなら尚更だ。

 一体何て答えるのが正解か……。


「ま、難しいことは後にしようぜ!」

「…………十六夜さん?!」

「わからないことは後回しにするのが吉だ。考えたって時間を奪われるだけだからな。その時が来ればきっと心は晴れる!」

「アホの理論だな」

「おいおい李鶴さんよ、どこの天才捕まえて言ってんだボケ」

 

 歪み合う二人に苦笑しながらも、僕は十六夜さんの言葉を心の中で反芻した。

 ………その時が来れば、か。

 どうしてだろう。

 少しだけ心が軽くなる。

 ただのアドバイスだけではこんな気持ちにならない。

 きっと、経験者の言葉だからだ。

 能天気に明るく振る舞うこの人でも、覚醒者である以上、大きな何かを抱えてきたのだろう。

 十六夜さんは、そんな正体不明の感情に、答えを出せたのだろうか。


「はいはいーい。くいなちゃんはそこまで。まったく、せっかく月ヶ峰君と二人だけの世界だったのに割り込んでくれちゃって。私、ちょっと拗ねてるんだから」 

 そう言いながら轟音さんが十六夜さんの頭を何かで殴った。

 …………え、殴った?

 結構鈍い音がしたので手元を見てみると、分厚い紙の束のようなものを持っている。

「痛っ………ぁぁぁあー!!!!和良、私の徹夜3日分の資料をそんなふうに丸めて!鬼か!鬼なのか!?」

「惜しい!死神でしたー!」

「惜しいのかそれは」

「どう考えても惜しいでしょ?!」

「そんなバカな!!」


 言い争う2人を横目に、李鶴さんが僕は歩み寄る。

 またか、とでも言わんとする表情がこれが彼女たちの日常であることを語っている。

「うるさくしてすまない。あと数秒したら十六夜の方が負けるはずだから。」

「ちょ、ギブギブギブ!!やめて、叩くのやめて!ベテラン自宅警備員に暴力はきついって分かるだろ和良さん?!」

 本当だった。

 どうやら物理的攻撃によって勝敗をつけたらしい轟音さんは何食わぬ顔で笑っている。

 その足元で、散らばった資料を十六夜さんが拾っているけれど…。

 十六夜さん、頑張れ。





「ってことで月ヶ峰くん、行こっか」

 しばらくして差し出されたのは先程凶器となっていた(そして十六夜さんによって回収された)紙の束。

『報告書』とかかれたそれは、何やら堅苦しい言葉で文章が連ねられていた。

 一体なんの報告書なんだ…?

 なんとなく開いていたページから読み進める。 





 










 ……………………………これって。




 少し進んで、僕の目はとあるマークを認識した。

 蓮の花をモチーフにしたそれは、誰もが当たり前のように知っている今や国民の希望の星。

 その意味を知らない人など、いるはずもない。

 もちろん僕だって知っている。

 だから分かった。

 分かってしまった。


 僕たちがこれから向かうのは。



 この国で一番、僕が苦手とする場所だということを。


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