表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
4/20

episode2 魅惑のお誘い

「…………えっと」


 

 意味がわからなかった。

 彼女の発する言葉の全てが脳を素通りしていく。

 困惑した僕の鼓動はかつてないほど早く脈撃ち、息も荒い。

 これは恐怖か、それとも…


 


 なんて思考は、オーバーヒートした脳には少々難題すぎたようで、僕の中の生存本能だけが働く。

 とにかく今すぐにでも逃げ出してしまいたかった。

 逃げ出してしまいたかった、のに。



 それでも彼女……轟音さんが、あまりにも真剣な表情だから、僕はここから離れられない。

 差し出された手を見つめて硬直するばかりだ。


「ふふっふふふ」

 そんな地獄みたいな空気の中で、彼女は笑っていた。口元に手をあて、肩を振るわせ、目元にはうっすらと涙を浮かべている。誰がなんと言おうと、爆笑していた。全くもって意味不明だったけれど、同時に僕は安堵を覚える。

 とりあえず通報はしなさそうだ。



 身体中の力が抜けたことで、僕からは乾いた笑い声がこぼれる。

 こんなに焦ったのはいつぶりだろうか。

 掴まれていたように痛んだ心臓はやがて正常に働き始め、僕たちの頬にあったはずの印もいつの間にか消えていた。

 それでもしばらく、彼女の笑いが止まることはなかったけれど。


「ふふ、……っはぁ…。ごめんね、あまりにも固まって動かないから…面白くて…ふふ。あ、もしかして嫌な気持ちになった……?だとしたらごめんなさい」

「いや、別に気にしてないよ」

 ようやく笑いを止めたと思ったら、丁寧に腰を曲げて謝罪する彼女。

 真面目な子だな……と思いつつ、しかしそこで僕ははじめて、自分がどういう状況だったのかを思い出す。



 途端に、聞きたいことが山ほど浮かんできた。

 頬にあるあざについて。

 それから、先ほどの言葉の真意について。


「……あ、あのさ……………っ」


 冷静ではなかった。

 だからこそ言おうと思っていた言葉が、喉の奥につかえる。言い淀んではまた考えを繰り返す僕の様子を見て、なんとなく察したらしい彼女は


「分かってるよ。月ヶ峰君は聞きたいんだよね、これについて」

 そう言って自分の左頬を指差し、にやりと微笑んだ。

 これ、というのは十中八九あざのことだろう。

「轟音さん……だったよね。君も持ってるのか?その、なんていうか、僕みたいな非現実的な能力」 

「うん、もってるよ」


 心臓がドクン、と再び大きく脈打った。

 あまりにあっさりと答えるものだから、勢いのままずかずかと踏み込んでいってしまいそうになる。

 肩をガクガク揺らしてでも話を聞きたい気持ちを抑えて、僕は声を絞り出した。

「それじゃあ、一体どんな…………ん。」

 唇にかさりとした何かが触れた。

 数秒遅れてそれが轟音さんから渡された紙切れだと気づく。


「しぃーっ。ちょっと場所を変えようよ、それに月ヶ峰君はどうやらここに大切な用があるみたいだから」

 轟音さんは僕の持つ花束をそっと指指す。

 オレンジ色のリボンをみて、ハッとした。

 そうだ。僕が今日ここにきた理由は……


「花束、早く渡してあげないと」


 自分で自分に驚気を隠せない。

 あの日から、リリアを忘れたことなんて一度もなかったのに。でもまあ………こんなに衝撃的な出来事が起きたこともなかったか。

 リリア、怒るだろうな……ごめん。ほんと。

 かつての幼馴染に心の中謝罪すると、僕は先ほど渡されたメモを開く。

 そこには、ここから近い場所にある街の名とともに住所らしきものが書かれていた。

 これは……


「今日午後3時、このメモに書いてある場所に来てほしいの。都合が悪かったりする?」

「予定的には空いてる……………けど………」

 その続きを言わず僕は口をつぐむ。

 この力について、もし彼女が何か知っているのであれば全て聞きたい。

 でも、まだ完全に信頼することはできない。

 疑いを隠しきれていなかったのか、顔を上げると全てを分かったような轟音さんがいた。


「もちろん私の誘いを無視することも自由だけど………月ヶ峰君にはそんなことできないんじゃないかな」

 轟音さんは悪い顔をしていた。

 私はお前の秘密を知っているんだぞ、という顔。

 どうやら僕に選択肢はないらしい。

「………そうだね」

 返事に満足したのか、轟音さんはニコリと微笑んだ。

 さっきと打って変わってあまりに完璧な笑みだったから、その姿に少し見惚れてしまう。 

 


「それじゃあ、またあとでね」 

 彼女はくるりとターンをする。

 その動きに合わせて白いスカートが揺れる。


 いつしかその場には、呆然と立ち尽くした怪しい青年……つまるところ、僕だけが残された。




 残され……




 残……




 ん?






 

 何が起きた?



 いや、誰が言わずとも、何が起きたかは明確だ。

 見ず知らずの女の子に力のことを知られた。

 そしてそれが僕と同じ人種だった。

 ついでに救世主になるよう勧誘された。

 それだけ。



 

なるほどなるほど。




 



















 無理だ。理解は諦めよう。


 全ての思考回路を落とした僕は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をしたのち、ひとまず、今日の本来の目的を果たすことを決めた。

 手に抱えた花束を、そっと地面に置く。

 そして独り言のようにそれに話しかける。

「えっと………見てたと思うけど、急な用事ができたんだ。リリア。僕は、あの人の話を聞きに行こうと思う」 

 手は、静かに震えている。

 正直に言えばとても怖い。

 この力について知ることが、怖い。

 『あの時』のように、裏切られるのではないかと思うと血の気が引いていく。


 でもそれなら、轟音さんに力を見られた時、本当にすぐに逃げ出せばよかったのだ。

 しかし、救世主という言葉と、彼女が持つアザが、 僕の心を掴んで引き留めた。

 知りたいと、思ってしまった。


 だから。


「また来るよ、リリア」

 僕はすっと立ち上がると、メモを確認しながら轟音さんに指定された場所へ歩き始める。



 再び静寂に包まれた奇跡、その中で。

 ひっそりと隠れるように、ジャスミンの花束が風に揺られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ