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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
3/20

episode1(後半)巡りて出逢う


 まずは大きく呼吸をすること。

 次に実現したいイメージをしっかりと持つこと。

 最後に、彼女との日々と強い感情を思い出すこと。

 そうすれば、魂が答えてくれるから。




 右頬に燃えるような熱さを感じる。

 けれどそこに苦痛はない。

 あるのは、ただ『ばつ印』の不気味なあざだけだ。





(『巡命』)





 瞬間、世界は一変する。

 先程まで生気を一ミリも感じなかった鈴蘭達は、飛び起きるように顔を起こし、美しい花を咲かせていく。白い花弁も相まって、それはさながら天使が眠りから目覚めたような幻想的な光景だった。


 僕を中心として、その波紋は花畑の端まで広がり、あたりがキラキラとした光に包まれた。

『奇跡の花畑』

 そう呼ばれるこの土地の謎は現在まで解明されることはなかったが、その正体を、僕だけが知っている。

 だってこの奇跡は、僕が生み出したものだから。


 我ながらなんとも素晴らしい行いだろう。なんて言ってみるが、僕自身も原理はよくわかっていない。

 おそらくだけど、これは科学的に証明できる現象ではないのだ。

 いわゆる『不可思議』の一種。

 というのも僕には生まれつき、不思議な力があった。


 あらゆる生命の傷を癒やし、新たな命を与える……『巡命』という力だ。

 全国のそういう系に憧れを持つ者は喉から手が出るほど欲しい力だろうけど、僕からしたら恐ろしくてならなかった。

 だってもし『不思議な力』をもつ人間が僕以外に存在するとしたら、それは……ウイルスに侵された人だけだから。


 そう、この世界で非現実的な出来事はすべて感染者に関わるものだとされてしまうのだ。今の現代で、空を飛べる翼があれば良いのになどと夢を語れば、ネットで不謹慎だと叩かれて詰んでしまうほどに。


 そして、Messiahのいる日本で感染者とみなされた人間は例外なく救済……すなわち、死を迎える。

 疑うこともない、それがこの国の常識なのだ。僕だって別にそれが酷なことだとは思わない。

 救ってもらわなければ感染者は長い間苦しむことになるし、周りにも被害を出しかねない。

 思いやりの精神を大切にするこの国らしい、最善の手段だと思う。


 しかし、僕は感染者じゃない。

 それに近しい何かなのだとしても、理性だってあるし、生まれてこの方誰かを叩いたりすることもないし、力のコントロールもできている。

 勘違いで救われてしまうのはごめんだ。


 だから、僕は今までこの力を使わないように努めてきた。無論、力のことを知っているのも片手で数えられるほどしかいない親しい人間だけである。

 長年の努力のおかげか、僕は感染者に間違われることはなく、普通の一般人として生活を送っている。

  


でも、毎年、この日だけ。



僕は自らの誓いを自らの意思で破る。 



『ねえ、あなた1人なの?よかったら私と遊ばない?!』



 この声は、記憶だ。

 足元でひらひらと揺れる花弁が、僕に昔の全てを思い出させているのだろう。

 懐かしむように目を閉じると、自然と口から言葉が溢れた。


「リリア、今年も君の我儘を叶えにきたんだけど、気に入ってくれたかな。そうだ。今朝のニュースで知ったんだけど、あの動物園、シロクマの赤ちゃんが生まれたみたいなんだ。しばらく行けてないから、いつかまた行こう」 


 その誘いに返事はない。

 当たり前だ。

 彼女はもうここにはいないのだから。


 会えないということはわかっている。

 それでも、ここで話せば声が届いているような気がしてならなかった。


 俯いたまま動かない哀れな少年を急かすように、冷たい風がほおを掠める。

 ………なんだろう。

 その風を伝い、どこからか気配を感じたような気がした僕は咄嗟に後ろを振り返った。



 そこには少女が立っていた。



 まず目に入ったのは肩につくかつかないくらいの美しい髪だ。風に靡くそれは、頭から毛先にかけて茶色から翡翠色のグラデーションになっている珍しいもの。

 さらに、揺れる髪の隙間から覗くのは宝石を嵌め込んだような淡い空色の大きな瞳で、瞬きすることなくこちらを見つめている。

 スズランにも負けないほどに白い肌が眩しく、その容姿も目を疑うほどに美しい。


 でもだからこそわかる。




 ………知らない子だ………!




 喉からヒュッという音が鳴った。

 一体いつからいた?

 力を見られてしまった?

 僕はもうあざを消している?

 なんて言い訳したらいい?

 どうやったら怪しまれない??


 頭の中に浮かんできた不安を無理やり心の奥に押し込むと、代わりに腕から冷や汗が垂れた。

 たまらず一歩後ずさる。

 しかし、全て遅かった。


「そのあざ」


 少女が発した声だった。 

 『あざ』という言葉を聞いて全てを理解した僕は、脊髄反射の勢いで気付けば口を開いていた。


「あ、あの……Messiahに通報はしないでほしい。僕は感染者じゃないんだ。あんなことやっておいて、信じてくれないかもしれないけど、どうか……っ」

 自分でも笑えてくるような言い訳だった。

 慌てるばかりで根拠もない。

 平穏な生活の終わりを覚悟した時、しかし彼女から返ってきたのは予想外の言葉だった。


「信じるよ」


「………は?」


 驚いて顔を上げた僕は、彼女の顔を見て言葉を失った。


「だって……同じだから。私は、あなたをずっと探していたから」


 燃える。

 少女の白い肌の上で、痛々しく生々しく。


「驚いた?そうだよね。まさか自分と『同じ』人がいるだなんて、思わないよね。」


 空色の瞳と対照的に、そしてそれを飲み込むように輝く赤黒い光が、共鳴するように僕のそれを引きずり出す。


「私の名前は轟音和良。あなたは?」 

「…………月ヶ峰陽斗」


 彼女のそれは左頬に。

 僕のそれは右頬に。


「そっか。………あのね。月ヶ峰君、お願いがあるの。」


 そこからの静寂はほんの一瞬だったのかもしれないが、この時の僕には永遠に続くように思えた。

 やがて彼女がそれを破る。


「私と一緒に、救世主になってくれないかな。」











登場人物の読み方紹介をします。


月ヶ峰 陽斗→つきがみね はると

轟音 和良→とどろね かずら



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