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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
20/20

episode18 歓迎会はじまり



 返事を待つ余裕はないのか、気づけば僕はぐいっと腕を引かれて、先ほど歩いてきた廊下を引き返していた。右に曲がってまた右に曲がって、階段を降りて。

 急に突き当たりの部屋に入ったかと思えば。



 パカーン!!



 目の前が虹のように七色に輝き始める。数秒遅れて、それがクラッカーから飛び出した紙吹雪だということを理解した。頭についたキラキラの破片を払いながら、目の前の光景を見て静かに目を見開く。

 綺麗に飾りつけされたリビングにも、もちろん驚きはしたのだが、何よりすごいのは、迎え入れてくれた住人の人数だ。


 1、2、3、4、5、6、7……8!?


 そんなのありえない、と思ってしまった。

 もし館厳様の話が本当なら、マスターとシスターの話を加味しても、この場には僕を含めて最低7人の覚醒者がいることになる。

 


 それはあまりに、多すぎる。


 

 全員とは言い切れないけど、多くの覚醒者は僕のように救済を恐れて力をひた隠しにして生活しているはずだ。

 なのに、いったいどうやってこんなにも探し当てたのだろうか。

 というか、この世界には、まだこんなにも覚醒者が存在したのか。てっきり僕だけが異端なのかと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。


「えっと、月ヶ峰くん。ここにいるのが、このシェアハウスの……」 

「おらおらおらー!とっしーん!」


 轟音さんの声を割くように、目の前をものすごい速さで何かが横切った。

 轟音さんも僕も、お互いを見てパチパチと目を瞬かせる。


「うぇるかーむ!とぅ!でぃすはうーす!!歓迎するよぉ、月ヶ峰少年」


 そして、それがこのシェアハウスの妖怪………いや、お姉様こと、十六夜くいなさんだと認識したのとほぼ同時に、彼女は僕にへばりつきはじめた。

 陽の光に当たっていない白い柔らかそうな肌が、視界の端に見切れる。しかしそれを美しいと思ったのは一瞬で、まるで現実に戻されるかのように僕はバシバシと背中を叩かれた。相変わらずだなこの人。


「いやぁ、久しぶりだな。元気してたか?」

「い、十六夜さん、重いし痛いです」

「やれやれ月ヶ峰少年。出会って数日のレディに重いなんて言っちゃいけないんだぜ? ま、あたしは心が広いから許してやるけど」

「何なんですかその親戚のおばさんムーブ」


 この人、距離の縮め方がおかしいぞ。学生時代には男女問わずキャッキャしながら教室の入り口を占拠しているタイプと見た。

 正直一番苦手なタイプの人種だが、大丈夫。

 だってここには、対十六夜最終兵器の彼がいるはずだから。


 そして。


「おい、いいかげんにしろ、セクハラ妖怪女」

「うおっ!?」


 ヒーローは現れる。


 その声が聞こえた途端、体が一気に軽くなった。最初に出会ったあの日のように、呆れた顔をした李鶴さんが、僕から妖怪を引き剥がしたのだ。さすが、イケメンは期待を裏切らない。ジタバタ暴れる十六夜さんを軽くあしらいながら、李鶴さんが申し訳なさそうに頭をかいた。


「常識のなってないやつですまない、月ヶ峰」

「あ、いえ、なんかもう吹っ切れてるので……」


 僕がそう答えると、李鶴さんも合わせて苦笑する。


「……懸命な判断だ。これからも苦労をかけるだろうが、フォローはするので安心して欲しい」

「あはは……」

「というのは一度置いといて」

「ん?」

「俺からもお礼を言わせてくれ。第零部隊に入隊してくれたこと、感謝する。心から歓迎しよう」


 何だろう、この人のこの雰囲気。

 御伽話の中のような、時間を忘れるような、独特のオーラを放ったまま、李鶴さんは男の僕でも見惚れるような美しい笑みを浮かべる。すると、すっと手を差し出してきた。

 頭はどこかぼーっとしたままだったけれど、反射的にそれを握り返す。



「あの、李鶴さ……」

 


 背後に、誰かの気配を感じた。



「お二人とも。申し訳ないのですが、そろそろ私たちも話に入れてもらえると嬉しいです」


 ポンっと肩に手が置かれる。

 驚いて振り返れば、そこには一人の男性が立っていた。


「マスター!」


 マスター。

 館厳様からの説明が頭の中に蘇る。

 たしか、第零部隊の面倒を見る指揮官のような役職の人だ。




 なのだが。



 僕は今一度彼の姿をまじまじと見つめる。


 いやはや、そんな重要なお役目を任されるくらいなので、てっきりMessiahの中でも古参というか権利のある人たち、つまりその……ご、ご高齢な方が担っていると思っていたが……実際の彼は、想像よりずっと若い見た目をしていた。年はおそらく三十代前半から半ば。



 あと真っ先に入ってくる情報といえば………顔面偏差値爆高のシェアハウスを率いる人物なだけあって、とんでもない美形だということ。


 僕の拙い語彙力で申し訳ないが、できる限り詳細に彼の美しさを伝えようと思う。

 まず、チャームポイントのように思えるのはクルクルとした淡い栗色の髪だ。くせっ毛なのにアホ毛はなく、丁寧にセットされているのがわかる。また、身長はかなり高いのに醸し出す雰囲気からなのか、威圧感がない。むしろ優しい。紳士的。さらに、左目にかけられたモノクルから知的な印象も感じる。例えるならそう、洋楽のかかったおしゃれなカフェなんかでコーヒーカップを拭いてそうなお洒落な人だ。


 とてもじゃないけど、この人がMessiahの切り札『第零部隊』の重要人物だとは思えない。


 一言で言うと、そんな感じだった。


 マスターは僕と目を合わせると、ニコッとはにかみ、胸に手を当てて優しく話し始める。

 なんかすごい大人。


「初めまして陽斗さん。私はこのシェアハウスでマスターの任を担っているMessiah第3部隊所属の笹森です。何かと不安なことが多いと思いますが、全力でサポートさせていただきますので、これからよろしくお願いしますね」


 ふわぁ…。

 そんな溶けるような笑顔で無邪気に笑ったマスター。あまりの眩しさにありとあらゆる闇が浄化されそうになる僕。李鶴さんとの反射握手とは違っておじけづきながら手を差し出してしまったが、彼は優しく受け入れてくれた。

 そしてそのまま流されるように席へと案内され、気がつけば一番目立つお誕生日席とやらに座っている僕。ちなみに、左には轟音さんが、右には李鶴さん、十六夜さんがいた。





 さて。












 ここで一度冷静になり、チラリと周りを見れば。



 そこにおわすは、3人の覚醒者。



 淡い桃色の長い髪を三つ編みおさげにした、なぜかこちらから目を離そうとしない美少女。髪より少し赤に近いワイン色の瞳は、どこか敵意を帯びていてそれが僕に突き刺さる。

 視線が痛いとはこのことかと思いながら、左を向くと、圧倒的なカリスマオーラを持つ少し年上そうな青年が座っていた。スマホを片手に誰かに返信している。その姿すら絵になるのはさすがこのシェアハウスの住民というべきだろうか。

 そして、一番読めないのが眉ひとつ動かさずに目の前のサラダを見つめる彼。モテそうなマッシュヘアと少し長めの前髪で顔は隠れているが、まあたぶんイケメンだろう。僕切ない。



 

 うーん。




 ……何だろう、歓迎されてない感がすごい。




 僕はパニックに陥った。


 なぜ誰も一言も話さない?もしかしてこれは神聖な儀式か何かなのか?

 

 そんなふうに内心冷や汗をダラダラかいていると、マスターと、それからシスターと思われる女性がジュースを注いだグラスを用意してくれた。

 そのままどんどんと準備が進んでいき、


「それじゃあ、月ヶ峰君の第零部隊入隊を祝って!乾杯!」


 轟音さんの合図とともにグラスがぶつかる音がチリンと響く。

 轟音さん、李鶴さん、十六夜さん、マスター、シスター(?)まではまだ気軽に杯を交わすことができたのだが、僕にとっての問題は残りの3人だった。


 さて、どうすれべきか。

 1秒の思考のすえ、やはりこういうときは全員とグラスを交わすべきだと思った僕は、おどおどしながらもできる限り平常を装って初対面組に手を伸ばす。



 しかし、そんな勇気も虚しく。



 ふいっ。


 三つ編みピンクさんは、あからさまに僕から顔を逸らし、ジュースを豪快に一気飲み。僕は相当嫌われているようだった。

 うん、わかってたよ。君は僕のこと嫌いそうな感じだもんね。何でかわかんないけどね。



 早速一人目で心が折れそうになったが、行き場を失った右手を戻すのも恥ずかしいので、僕はそのままそれを右にスライドさせる。



 ……。



 ミステリアスサラダ一点視の彼は、よそよそと自分のグラスを差し出し、お互いのそれが触れるか触れないかというところで腕を引っ込めた。決して好感触でないことがわかる対応だったが、拒否されなかっただけ救いに思えてくるのが不思議だ。



 最後は一人。

 カリスマオーラのイケメンさんだが……


 「月ヶ峰、だよな。この二人が失礼な態度をとって申し訳ない。あんまり初対面が得意じゃないやつらなんだ」


 僕が手を伸ばそうとした方向から声が聞こえた。話しかけられたのだ。



「俺は赤雁葵。第零部隊所属の覚醒者だ」



 赤雁さんは、そう言って口角を上げる。

 ぐっ……イケメン……!!



 って、あれ?



 さっきチラ見した時は横顔だったが、今改めてその姿を見た時、僕は何だか不思議な既視感を覚えた。



 ………この人、知ってる。



 男性にしては少し長い肩ほどの髪をハーフアップに結え、歩けば全女子を虜にしそうな美貌は彼が色男であることを明確に主張する。

 頼れる兄貴のような雰囲気、堂々とした話し方、そして何よりこのオーラ。





「もしかして、会長………?」





 口から意図せず出た言葉に、向こうも不意を突かれたようで目を丸くする。




「月ヶ峰お前、彩雲の生徒か?」






 ……やっぱり。



 私立彩雲高等学校は、この地域では少し有名なそこそこ頭のいい学校で、設備なのども踏まえかなりの人気を誇る。まあ、そんなキラキラ高校に家から近いと言う残念な理由だけで入ってしまったのが、僕なのだが。



 彩雲高校の入学式からはまだ数週間程度しか経っていないが、彼の姿は一年生の誰もが知っている。

 入学式の時、在校生代表ですべての生徒の憧れと尊敬の的になった噂の生徒会長、赤雁葵。


「ふはっ、まじかよ。まさかこんな奇跡があるなんてな」

「僕も驚きました。彩雲高校の生徒さんが一人いることは事前に轟音さんから聞いていたんですが、まさか生徒会長さんだなんて……」


 きょとんと、赤雁会長は首を傾げた。


「おいおい何言ってんだ? 『一人』じゃねぇよ」


「え?」



 その言葉に、今度は僕が困惑する。


「おいまさか、聞いてねぇのか?」


 この反応から何かを察したらしい会長がものすごい目で後ろを振り返れば、そこには笑いを堪える轟音さんの姿が。会長はやれやれという様子で、(あとついでに哀れみの目で)僕の方に手を置く。

とおもえば、まるで別人かのような爽やかな笑みを浮かべた。ちょっと怖い。



「いいか? よく聞けよ。」



 僕は無言で頷く。ごくり。



「……和良、ピンク髪、無口、俺、そして月ヶ峰。成人済みの十六夜やマスター、シスターを除いた学生全員、彩雲の生徒だ」





「ははっ、いやいや会長、そんな冗談……」

























 「……………ちょっとお時間いただけます?」









読み方


笹森 → ささもり

(マスターは苗字オンリーの公開です)

赤雁 葵 → あかがり あおい

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