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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
19/20

episode17 三度あっても次はない


 救世主になってから、5日が経った。

 あれから轟音さんたちには会っていない。

 というのも、僕は手続きやら面談やらが忙しくそれどころではなかったのである。

 もちろん感謝の報告をしたいのはやまやまなのだが、当然僕如きが轟音さんの連絡先も知るはずがないので、受かったという報告ができないまま、時間だけがすぎていった。


 しかし、ようやくもろもろの準備が終わった今日。

 僕はあの日もらったメモを片手に「四葉シェアハウス」にきていたのである。



「いらっしゃい月ヶ峰くん、どうぞ上がって」


 インターホンを鳴らせば、今度は十六夜さんではなく轟音さんが出迎えてくれた。

 ピンク色のスカートを揺らしながら相変わらず眩しいほどの輝きを放つ彼女に、僕は少しだけ臆しながらもいそいそと靴を脱ぐ。


 

 ……ドス。



 そうして次に、なんだか変な音を立てながら手に持っていたカバンを床に一つ、二つ、三つと下ろしていく。肩や腕にのしかかっていた重みが突然なくなったことで、二、三歩よろけてしまったことが恥ずかしい。

 しかし今は、そんな僕の失態を笑っている余裕はなかった。皆無だった。



「ごめんね、荷物まとめるの大変だったでしょう?」



 荷物を下ろし終えた僕をみて、彼女が声をかける。心配してくれている様子だったので、平気だというように笑って見せた。本当はまだ腕の筋肉がプルプルしているけど。


「いえ、僕はモノが少ない方なので、案外楽でした。むしろ、まとめるのに時間がかかってしまってすみません」

「そんなことないよ!面接からまだ5日しか経っていないんだもん、激はやいよ!よぉし。これもささっと終わらせよっか。階段があるから、一個ずつ持っていこう。もちろん私も手伝うよ」

「いやいやいや、さっきの音聞いたでしょう?これ結構重いので、轟音さんに持ってもらうわけには行きませんよ。案内してくれるだけでありがたいです」

「だめ、却下です。もっと頼ってくれないとね」


轟音さんはくるりと僕の方へ振り向き、むっと、可愛らしく頬を膨らませる。

 

「だって私たち、今日から一緒に住む仲間でしょう?」



 ……そうなのだ。

 

 聞いて驚け。

 僕は5日ぶりに「四葉シェハウス」に来た。

 しかし、我が家に帰ることはない。

 なぜなら今日の目的は他でもなく、ここへの引越しを完了させるためだから。



 一体全体何がどうして、僕が四葉シェアハウスに住むことになったのかというと。

 それは勿論、第零部隊としての義務に他ならないのだった。




〜〜




「同居、ですか?」


 面接を終えてひと段落ついたころ、僕は館厳様(オフバージョンのオタク気質な方)から今後の計画について説明を受けていた。

 その中で一際真剣そうな話が始まったと思えば、切り出されたのは四葉シェアハウスへの勧誘である。

 今までの説明はわりとさらさらことが運んでいたが、何故か、この話題になった途端、館厳様がごにょごにょとし始める。何だろう、嫌な予感。


「いやね、第零部隊一行には、個々の能力について詳しく研究するために定期的に検診を行なったり、基本的な訓練を受けてもらったりしてるんじゃよ……」

「はい」

「それで、その検診はシェアハウスにいる『マスター』に、訓練は『シスター』にそれぞれお願いしていて、じゃな。この検診と訓練はどちらも第零部隊には欠かせない必須事項で、それが四葉シェアハウスに住うことで全てスムーズに進むんじゃ」

「……はい」

「もちろん、思春期のそなたにとって、知らない人間、ましてや異性もいる環境に突然身を送り出されるのは大変なことだと理解している。しかし儂はその上で言おう」

「…………はい」

「月ヶ峰君。ほんとに申し訳ないんじゃけど、第零部隊の一員になった以上、このシェアハウスでの生活はもはや義務的行為っていうか………」

「………はい?」

「拒否権あるにはあるけどないに等しいっていうか………ってことで、とりあえずここにサインしてもらっていいかの?」


 そっ、とシェアハウスへの移転に関する契約書を差し出す館厳様。目にも止まらぬ速さで動いたのか、僕の利き手にはいつの間にかボールペンが握らされている。はたして、こんな一般人にペンを握らせるためだけに、最高の救世主としての力を使う人間がかつていただろうか。いや、いない。(反語)

 館厳様のうるうるした瞳を見るに、どうやら本当に拒否権がないようなので、僕は苦笑いをしながら頷くことにした。


「あの、僕がサインしなければいけないことは分かったんですけど、その前に具体的な説明だけ聞いてもいいでしょうか……」

「もちろんじゃ。それじゃあ、まずは儂の推しポイントから……ずばり!このシェアハウスを一言でいうなら………!!」


〜〜


「『覚醒者寄せ集めハウス』。月ヶ峰くんも理解していると思うけど、そこがこの寮の1番の特徴なの。非覚醒者は、マスターとシスターくらいであとは第零部隊の隊員。もちろんマスターたちも能力について理解しているから、生活しづらいってことはないよ」


 僕の部屋になるであろう場所に向かいながら、轟音さんがハウスについての説明をしてくれる。すでにいくつか名前プレートのかかった部屋を見つけたが、どうやらその住人全てが覚醒者のようだ。どうやってこんなにたくさんの覚醒者を見つけ出したのか疑問だったが、ひとまずそれは後で聞くことにした。

 轟音さんがとある扉の前で足を止めたのである。

 


「ここが月ヶ峰くんのお部屋」


 そういって、中に入れば、そこにはなんとも見慣れた風景が広がっていた。

 机、ベッド、本棚、ラグ、イス、窓の配置に至るまで、もともとの僕の部屋とほとんど同じだ。唯一違うのはカーテンの色くらいで、引っ越してきたという実感はまるで起きてこない。

 なんだか普通とは違う驚きに襲われて、僕はしばらく硬直した。


「月ヶ峰くんのお母さんから、お部屋の写真をもらっててね。荷物を運んでくれた人たちが、その通りに並べてくれたの。窓とかは本当に偶然なんだけど」

「……へぇ、すごいですね、ここだけ本当の家みたいだ」

「そう思ってもらえてよかった。……よいしょ。あ、荷物はこの辺でよかった?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 僕は目の前に置かれたカバンをじっと見る。

 ………よし。この量なら今日明日にでも荷解きが終わるだろう。物が少なくてよかった。

 そうして僕は、早速カバンに触れ、作業を開始しようとしたのだが……何やら自信げな轟音さんにパシリと腕を掴まれてしまった。


「ごめんね月ヶ峰くん、荷解きは明日お願い。今日はまだやることがあるから。」

「え?それはどういう…」


 僕の困惑をかき消すような、そしてハウス中に響くような大声で、彼女は言った。


「はじめるよ!月ヶ峰くんの歓迎会!!」


 

 もろちん、この瞬間、軽いコミュ障である僕が少し絶望を感じたのは言うまでもないだろう。


 




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