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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
18/20

episode16 『見てきたもの』と『見ていくもの』






 あれ?




 どうして今、僕はリリアを思い浮かべたんだっけ。ていうか、今何をしていたんだっけ。


 ああそうだ。

 面接に来て、館厳様に問われたんだ。

 僕が誰を『見ている』のかって。


 それで僕は、リリアのことを思い浮かべたんだ。




 

 …………そっか。



 僕はまだ、リリアのことしか『見え』てなかったのか。


 そんな僕が救世主に、第零部隊になりたいだって? 



 そんなの。

   




 身の程知らずにも程があるな。






 〜〜


 



「ヒューッ………カヒユッ……ヒューッ……ガ、グガハッ……ヒューッ……」



 息が苦しい。目がまわる。

 僕の視界が霞んで、立つこともできずにその場に倒れた。


「月ヶ峰殿!」


 それを見た館厳様が慌てた様子で駆け寄る姿を僕はぼんやりと認識する。そこからの動きはさすが最高の救世主さまというべきか、適切な処置のおかげで僕の症状はすぐに治った。


 館厳様は僕をゆっくりとソファーに座らせると、温かい紅茶を差し出す。

 言われるがままにカップに口をつけると、優しい香りが口の中に広がった。

 僕、命主様にお茶なんて入れさせて、怒られないかな……なんてことを考えていると、目の前の館厳様が突然ガバッと頭を下げた。


「すまない月ヶ峰、まずは私に謝罪させてほしい。そなたの記憶に土足で踏み入り、苦しい思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」


 あまりに深々と丁寧にお辞儀するものだから、僕は驚いて固まってしまう。館厳様の後ろで結われた長髪が動きに合わせて肩から垂れ落ちた。

 美しすぎる一礼に思わず見入ってしまっていた僕だけど、ハッとしてすぐに訂正に入る。


 館厳様は何も悪いことなどしていない。

 面接に必要な質問をしただけだ。

 僕が未熟だっただけなのだ。


「た、館厳様! そんな、謝らないでください! 僕の方こそお見苦しい姿をお見せしてしまい、本当にすみません」

「oh……あまりにいい子すぎて儂、感動」


 どこかでスイッチが切り替わった素のモードに戻っている館厳様。空気は一気に和んだけれど、僕は相変わらず館厳様の方を見れずにいた。下を向いたまま、言葉を続ける。


「館厳様のおっしゃる通り……僕はまだ、リリアしか『見えて』いないのだと思います。自分では前に進んでいるつもりだったけど、実際はそうじゃなかった。半端な気持ちでこの面接を受けてしまった事、心から謝罪します」

「月ヶ峰殿……」

 

 先ほどの館厳様のような綺麗なものではないかもしれないけど、僕は頭を深く下げた。それには、謝罪と共に、尊敬と感謝の念込める。




 館厳様はすごい。

 僕ですら気づかなかった僕の劣った部分をいとも簡単に見抜いてしまう。

 分け隔てなく平等に接し、たとえ覚醒者の言葉でも真摯に受け止めてしまう。


 だけど、その凄さを知れば知るほど、僕の中に黒い感情が湧き上がる。



 悔しい。



 未だ自分の気持ちに区切りをつけれていないのに、この人たちと、対等になろうとしてしまったことが悔しい。

 周りのことが何も見えずに閉じこもってばかりだった自分が恥ずかしい。



 僕は、まだ、第零部隊になっていい人間じゃない。



「館厳様、失礼ながら今回の面接、辞退させていただいてもよろしいでしょうか」



 永遠に思える沈黙が辛かった。

 顔を伏せたままだから、彼がどんな顔をしているのかすらもわからない。


  それでも僕は、口を動かす。

 自分の思いを『伝える』と、轟音さんとも約束したから。


「館厳様の一言から、己の未熟さに気がつくことができました。僕はまず、自分の気持ちをしっかりと受け止め、自分なりのけじめをつけてこようと思います。ですので館厳様、もし僕が、第零部隊として歩む未来を『見る』ことができるようになったら」


 大きく息を吸った。

 なるべく真っ直ぐ届くように。

 


「もう一度、面接を受けさせてほしいです……っ」



 言った。

 僕は言ったぞ。


 館厳様はどんなに拙い僕の言葉でも、まっすぐに受け止めてくださる。轟音さんの言葉を疑うわけではなかったけど、長く一緒にいればいるほど、このお方の凄さを実感する。


 現に今も、館厳様は僕から目を逸らすことはない。




「月ヶ峰殿」




「はい」



だから僕は、せめてもの思いで、館厳様をしっかり『見』ようとする。




 ふっ、と。

 館厳様の瞳が柔らかく緩んだ。




「合格」




 ………うん。どうやら耳が何か聞き間違いをしたみたいだ。それにしても何とも悪趣味な空耳だ。こんな耳に育ては覚えはないんだが。

 



「すみません館厳様、もう一度伺ってもいいでしょうか……」


 

 今度こそは聞き逃すまいと、僕は耳に全神経を注いだ。



「だから、合格じゃよ。これから第零部隊として、よろしく頼んだ」



 だから、聞き間違えるはずはなかった。

 館厳様は確かに言ったのだ。合格と。



「え、ええぇぇぇぇ!?」



 こんなところで叫んだら失礼になるか、何てこと考えている余裕はなかった。僕は気がつけばMessiah本部に轟くほどの大きな声で叫んでいた。


「なんでですか!? というか、い、いいんですか!?」

 


 あまりの驚きで思わずそのまま立ち上がった僕は、硬直してワナワナと震える。嬉しいのか悔しいのか分からない複雑な気持ちだった。

 そんな僕の様子を見て、館厳様は笑いながら理由を説明する。愉快愉快、というようなあっぱれとした顔だった。


「月ヶ峰殿、儂が懸念しておったのは、そなたが何を見つめているか自分自身で自覚していないことじゃった。目指す先がわからない人間は弱く脆い。でも、そなたは瞬時に自分の現状に気づき、分析してみせた。これは誇るべきことじゃ。それに、第零部隊だけを『見続ける』なんて不可能じゃよ。儂も四六時中世界平和を願っているわけではないしな。……てことで」 


 ぽん、と肩に手が置かれる。

 近くで見ればよりいっそう傷が目立つその手は、世界で一番輝いて見えた。どれほど多くの人を救ったら、こんなにも強く、優しい手になるのだろうか。

 今まで避けていたからわからなかった救世主という存在が僕の間近にやってくる。

 そしてその手は、己を『見ろ』と主張する。

 


「月ヶ峰陽斗殿、命主館厳學の名の下に、第零部隊入隊を許可する」




 この日、僕は救世主となった。

 しかしそれは、まだ名前のない未熟な救世主。


 ねえリリア。

 きっと見ていたよね。


 あの頃の僕は、いつも君の話を聞いているばかりで、本当に生意気な野郎だったと思うけど。


 いつか、もう一度会えたら。

 僕が救世主として『見てきた』ものの話を、どうか笑って聞いてほしい。



 

 





 

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