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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
15/20

episode13 雅楽川リリアという少女(前編)




 彼女こと雅楽川リリアと、僕こと月ヶ峰陽斗が初めて出会ったのは6年前。

 全ての始まりは、あの奇跡の花畑だった。


 

〜〜



 当時、まだうまく力の制御ができていなかった僕はMessiahというより人との関わり自体を避けていた。

 毎日毎日学校にも行かずに人のいないお昼を狙って近くの公園に行っては帰るという1日を繰り返す。そんな日々は退屈で、寂しかったけれど、殺されてしまうよりはずっと良いと思っていた。

 昔から僕は『今以上』を望まなかったし、そもそも望もうともしていなかった。




 でもある日、



『ねえ、あなた1人なの?よかったら私と遊ばない?!』



 僕は、リリアに出会った。




〜〜




 リリアは不思議な女の子だった。


 何度冷たく突き放しても、彼女は構うことなく横で遊び始める。

 僕がブランコに乗れば横に座ったり、背中を押して揺らしたり。

 僕が砂場に行けば、お城ができていく様子をただずっと見ていたり、花を周りに飾り始めたり。

  

 彼女は自分のやりたいことを強要するのではなく、僕のやりたいことに参加するような形でつきまとっていた。

 だから僕は、別にその行為に不快感を覚えるわけでもなく、気がつけばリリアがいつも横にいるようになった。

 僕が1人で遊んでいる横で、リリアもまた黙って1人で遊んでいる。

 そんな認識だった僕には、彼女に親切にしているつもりも、一緒に遊んであげているという意識も少しもなかったけれど、おかしなことに、リリアにとってはそれが『一緒に遊んだ』になるらしく、いつも別れ際には『遊んでくれてありがとう』と笑っていた。

 何を言っても、何をしても、リリアは疑うことなく僕の後をついてくる。

 ひねくれ者だった幼い僕は、そんなリリアの頭は全てが都合よく聞こえるようなお花畑なのではないか、とひどいことを思っていた。


 『ねえ』


 ほんの気まぐれだった。

 花畑でシロツメクサの花冠を作って遊んでいた僕は、リリアに話しかけてみることにした。横で同じように花を編んでいた彼女は、途端に手を止めてキラキラした視線をこちらに向けてくる。

 

『なあに?』


『どうして一緒に遊ぼうとするの?』


『遊びたいから!』



 ………やっぱりお花畑だ。 

 僕は思った。


『こうやって黙って遊んでいるのが、楽しいの?』

『うん!楽しい!』


 リリアは屈託なく笑った。

 そして、そんな純粋無垢な笑顔のまま彼女はゆっくりと話した。


『わたし、あなたの静かなところが好き。黙って一緒にいてくれることが嬉しいの。いつもお友達は、私の髪や目のことをずっと話しているから、それが少し嫌だったの。みんな良い子なんだけど、それだけが少し嫌だったの』


 僕は優しく話すリリアの顔をじっと見つめた。

 確かに彼女の髪はオレンジに近く、目は彼岸花のように赤い。この国では珍しい色だから、周りからひどい言葉をかけられてきたのかもしれない。


『ふうん』


 思ったよりも重い話になんて返したら良いかもわからず、僕はぶっきらぼうに返事をした。


『ほらね!!』


 でもリリアは、僕の返答に心底嬉しそうに笑った。


『私のお話、もっと聞いてこないでしょ? あなたのそこが素敵なの。とっても心地がいいの』 


『変わってるな』


『へへ、ありがとう』


………どう考えても、彼女の頭はお花畑だ。

 

 ただ。

 あまりにもまっすぐな彼女と過ごす時間は、歪んだ僕にとって少しずつ癒しになっていった。



〜〜



 

 そこから僕たちは、少しずつ会話をするようになった。

 といっても、リリアが一方的に自分のことをベラベラと喋るだけなのだけれど。




 そのおかげで、いつしか僕はリリアについてとても詳しくなっていた。


 彼女は外国人の父と日本人の母のハーフであること。でも、生まれも育ちも日本だから外国語はさっぱりだということ。

 年は二つ上だけれど、小学校には見た目のことをいじられてからあまり行けていないこと。

 花が好きだということ。特にジャスミンの花が好きらしいこと。

 他にも、好きな食べ物や両親との思い出、僕の印象なんかをつらつらと述べられた。


 しかし、それとは対照的に、僕は名前以外のことをリリアに話さなかった。

 仕方がない。彼女が僕に質問してきたのは名前だけだったのだから。

 話す必要がなかっただけなのだ。


そうして、何日、何週間、何ヶ月の時が過ぎ、季節が春から秋の終わりに差し掛かっている頃のことだ。

 リリアは突然、学校にもう一度行ってみると言い出した。


『いいんじゃない? 行ってみたら』


 もちろん、そのことに対しての僕の反応はすこぶる薄かった。

 割と仲良くなり始めた頃だったので、全く悲しくないわけではなかったが、別に止める理由もなかったのだ。


『あはっ、あははは。陽斗、やっぱりあなたって素敵な人ね』


 僕をみてリリアはゲラゲラと笑う。

 これ以上何も追求する気のない僕をみかねたのか、リリアはいつもの如く、1人語りを始めた。


『私ね、今までずっと学校のみんなが友達だと思ってた。でもね、陽斗と出会って、友達になって、毎日楽しくて、学校にいた時はそうじゃなかったなって思った』


 別に友達になったつもりはないけど。

 なんて言葉は喉の奥に詰め込んだ。


『今まで、怖かったんだと思うの。学校に行きたいとは思っていたけど、この髪や瞳を否定されたらきっと悲しくなっちゃう。それでも私には、慰めてくれる友達がいなかったから、それがとても怖かったの』


『でもね!』 


『今の私には陽斗がいる。陽斗はきっと、私が泣いて帰ってきても何も聞かずに黙ってそばにいてくれるでしょう? だから、勇気を出せるの』


 立ち上がって笑うリリアに、僕は特に何も答えない。

 何も言わずにそばにいる。

 それが、今の僕たちの関係だったから。


『私、明日学校に行く。とびきり笑顔で帰ってきて見せるから、待っててね』

『…………わかった』

 

 リリアは頭お花畑の変な女の子だ。

 でも、人よりちょっとだけいい子だ。

 だから僕は、なんだかんだ周りの誤解を解いて、当たり前のように笑って帰ってくるだろうと思っていた。

 もし逆に泣いて帰ってきても、落ち着くまでそばにいてあげようなどと軽く思っていた。









 けど、現実は僕が思うよりもずっと、残酷だった。






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