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破滅世界の死神と。  作者: 真束
本編
11/20

episode9 試練

 



神様は人に乗り越えられる試練しか与えない。



 母親が思い悩む子供に対してよく言ったりするこの言葉に対して、今から僕は一言物申したい。


 だからなんだ、と。


 そう。

 たとえ試練を乗り越えられるとしても、そこに死に等しい苦痛があることは変わりなく、何かを失うリスクだって存在するわけで。ましてや内容のわからない試験であれば対策のしようもなく、ただ命尽きる日を待っているだけだ。


 まさに生き地獄。


 そして悲しいことに、それが今の僕の置かれた状況なのだった。

  



〜〜




 家に帰ってきた僕は、ソファに力尽きたように倒れ込み、しばらくの間虚空を見つめていた。時計のカチカチという音だけが、無性に頭に入ってくる。

 実際には誰もいないはずの空間に、目を閉じれば轟音さんの声だけがはっきりと蘇った。

 ついさっき、Messiahの本部にいた時のことだ。



〜〜



 最終面接の存在を知らされた後、僕はしばらく軽い放心状態にあった。

 その間に、いろいろな資料を渡されて目の前に紙束が山積みになる。その向こう側から、轟音さんの声だけが聞こえてきた。


『ということで、月ヶ峰くん。許可が取れたみたいだから最終面接は明後日の10時から。30分前に四葉シェアハウスの前で集合でお願い』

 橘隊長の対応がスムーズだったこともあり、面接日程はものの数分で決まったらしい。

 明後日か。

 思ったよりも早い………これはまずいぞ。


 なるべく人との関わりを遮断してきた僕にとって、面接というものはそもそとハードルが高い。

 ある程度の台本がないと、おそらく硬直する。

 しかし、僕はコミュ障でも軽度のコミュ障。

 相手が相当な人でない限り、失神などはしないと思うが……。



 もう言うまでもないだろう。

 これがフラグだった。





『あ、そうそう。面接はMessiah命主様が行うから緊張しちゃうかもだけど、月ヶ峰くんらしさを大切にしてね』





 数秒、思考が停止した。

 このときの彼女の発言の何がそんなに僕を絶望まで叩き落としたのか、みなさまはもうお分かりだろう。

 僕は軽度とはいえコミュ障。

 相手が初対面の上、自分より遥かに立場が高い人であったり、怖さのオーラを纏う人であったりすれば、おそらく一言も発することができない。

 そんな僕の面接相手は、Messiahの命主様だという。


 入社面接などではその会社のお偉いさんや人事部の人たちなどが対応をするが、それに準えて例えると、Messiahにとっての命主はもはや会長。

 言うなればトップオブザトップ。

 そもそも通常Messiahの入隊試験であっても、各部隊の隊長が関与すれば珍しいと言われるくらいで、命主が関わった事例などない。

 つまり、一般高校生である僕の面接に命主が担当するなどということは、よほど異例の事態であるということだ。

 この瞬間、僕の中で、「人と話すことが苦手」+「面接初心者」+「プレッシャー」+「極度の緊張」=「気絶」という悪魔の方程式が完成した。



 僕はこの日、初めて緊張で意識を失った。 



〜〜

 

 数分ほどで目が覚めたらしい僕は、安静にしてほしいとすぐに家に返された。

 そして、今に至るのだ。



 ああ、思い出すだけでも気分は最悪だ。

 僕が願うことが一体どれほど高望みなのかを嫌と言うほど突きつけられる。今までの人生で、これほどの試練を叩きつけられたことがあっただろうか。

 

 そして残酷なことに、そんな極限の状態でも、僕がやらなければならないことはまだ残っている。

 なんなら、今行おうとするこの工程が僕の緊張の半分を占めていると言っても過言ではない。

 決して避けては通れないことだと分かっているからこそ、余計に心が締め付けられる。

 気持ちを落ち着けようと、息を大きく吐いて、吸ってを繰り返した。脳に酸素が行き渡り、少しずつ頭が冴えわたっていく。


 僕はポケットからスマホを取り出すと、一つの連絡先を開いた。発信中の画面が数秒続き、それが通話中に切り替わる。

 画面の先から聞き馴染んだ声が聞こえた。



「もしもし。………当然ごめん。今忙しかった?」


 震える声を必死で抑えた。

 本気で第零部隊に所属したいのであれば、この人の許可は必要不可欠だ。

 そう思って電話をかけたのだけれど………


 この時の僕にそんな考えは少しもなかった。

 あるのはただ、伝えなければ、ということ。

 




 伝えなければ。

 僕の覚悟を、想いを、挑戦を。

 




「大事な話があるんだ。今日は何時くらいに帰って来れそう………………母さん」




 伝えなければ。

 ずっと、僕を守ってくれた、この人に。



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