きみの代わり 3
ずぶの素人に一人一人文章を書いてもらって見つけ出す、そんな方法はいくら永遠に時間のある吸血鬼でも億劫でね、何となく立ち寄った国、戦禍の傷跡残る街で、身寄りのない子供を拾って育てることにしたよ。
──ジェームズ・カルマ。
彼はろくに文字の読み書きもできない、教えがいも仕込みがいもある子供だった。それにどことなくね……きみに似ていたんだよ。焦げ茶の硬そうな髪とか、無表情なんだけど少し淋しげな所とか。きみの生まれ変わりだったらいいのにと思いながら、彼を違う国に連れていった。大きな図書館のある街にね。
……驚いたよ。ローラの作品、それに名前は歴史の渦に埋もれて遺されてはいなかった。どうやら彼女の死からいつの間にか二百年も経っていたらしい。時間の流れとは、まったく速いものだね。
悲しんでいる暇はない。
ぼくは急いでジェームズに語学を、創作のやり方を、そして何より彼の役目を教え込んだ。ハンスみたいになっては困るからね、それはもうみっちりと。
「ジェームズ、書くべき物語はこれだ。その為だけに拾ったのだから、励んでくれよ」
「が、がんばりますっ」
血の提供も多少怯えてはいたが受け入れてくれてね、彼は本当に、理想的な子供だった。もっと早く出会いたかったくらいだよ。……早く出会えていたら、また違ったのかな。
時間の流れが速いように、子供の成長も速い。ぼくの腰くらいしかなかった彼に、気付いた時には見下ろされていた。ぼくらは同じくらいの背丈だったよね。それなのにどっちの方が高いかよく言い争ってさ、笑っちゃうよね。
彼にきみの作品を読ませ、模写をさせ、それでどうにかきみの文体に近付けてはいたけれど……彼には申し訳ないが、あまり満足できるようなものではなかった。やはり彼はきみではないね、分かってはいたのに。
間違えた、ぼくは間違えたよ。
ぼくのそんな想いが態度に出ていたのか、ぼくへの怯えが日に日に増しているようだった。吸血鬼だということは最初から伝えていたし、怖いけど慣れますと彼は言ってくれたのにね。
ある日、ぼくは彼に告発された。
「イブニング・スタフォードは吸血鬼気取りの殺人鬼! 奴に両親を殺されました! 拐かしたぼくのこともいずれは……!」
ぼくらが住んでいた街、運悪く連続殺人事件が起きていたんだよね、しかも失血死の。首にも傷があったらしいし、知らなかっただけであの街には同胞がいたのかもしれない。
いるはずのない目撃者も何故か名乗り出てね。ほら、ぼくの髪も瞳も特徴的で、ぼく以外この容姿の者はいなかったから。そういえばよく褒めてくれたよね、きみ。初見時は貶してきたくせに。
そのままそこにいたら酷い目に遭わされそうだから、彼を置いて逃げちゃったよ。もちろんきみの遺品は忘れずにね。当たり前じゃないか。
それで今、ここにいる。