4.オーガを倒しました。寝たいです
シンシアと一緒に村の近くの森に出てきた。
時間は夜ということもあって、かなり薄暗い。
月明かりだけを頼りに進んでいると、再び例の音が聞こえてきた。
「ナナちゃん、多分もう近いよ」
慎重に歩くシンシアがそんなことを言う。
ふとシンシアが木々の陰に隠れて、森の奥を眺める。
私も倣うように陰から覗いてみると、そこには緑の肌をした鬼のような魔物がいた。
「あれはオーガだ……ランクとしてAランク。ドラゴンしかり、普段はここまで高ランクの魔物は出ないんだけど……」
どこか不安そうな面持ちを浮かべているシンシアさん。
私が不思議に思って疑問を抱いていると、シンシアが恥ずかしそうにしながら笑った。
「ごめんね不安そうにして! ワタシ、実はBランク冒険者でさ。ここまでの高ランク帯はさすがに格上で……」
しかし、すぐにシンシアは表情を切り替える。
「でも、村を守るのがワタシの役目なんだ。だから格上でも戦わなきゃいけない」
覚悟を決めた様子で、オーガにじりじりと近づくシンシア。
私はその光景を眺めて、少し胸を打たれてしまった。
私も仕事は熱心にやってた方だと思うけど、あくまでお金を貰うために、生きるためにやっていた。
だけど、彼女は村のみんなを守るために命をかけようとしている。
この様子だとお金を貰っているかも怪しいくらいなのに。
ならば私も頑張ろうではないか。
シンシアのためと、あとは私が熟睡するために。
「《フレイム》」
シンシアよりも一歩前に出て、手をオーガに向けて先程手に入れた魔法を唱えてみる。
刹那——紅く巨大な魔法陣が現れたかと思えば、魔法陣の中から業火が放たれた。
周囲の木々を破壊しながら業火はオーガを飲み込み、跡形も残らず消し飛ばしてしまった。
「うわ〜威力高いな〜」
私は手を払いながらぼやき、ふうと息を吐く。
これで任務は達成。晴れて爆睡を決められるわけだ。
「ま、魔法まで……!?」
私が満足気にしていると、シンシアが目を見開いて驚く。
「こんな高威力の魔法、多分Aランク冒険者でも無理だよ!? ど、どうなってるの!?」
興奮した様子で詰め寄ってくるシンシアに、私は頭をかきながら苦笑する。
「えっと……私もよく分かってないんだけど……」
どう説明しようか悩んでいると、シンシアがむむむと唸った後ぽんと手を叩く。
「つまり天才ってことだね!」
「多分」
とても都合のよい解釈をされたので、とりあえずその方向で進めていただくことにした。
私は別にすごくはなくて、スキルがすごいと思うんだけどね。
なんて思っていると、シンシアがうんうんと頷いたかと思えば、目を輝かせながら私の肩を掴む。
「よし、ナナちゃん!」
「は、はい」
何か言いたげなシンシアの次の言葉を待っていると、想定外のことを言われる。
「もしナナちゃんが良ければだけど、これからも一緒に村を守るのを手伝ってくれないかな!?」
「ええ……?」
ちょっと待って。もしかしなくても、私これからも眠れないのでは?