2.睡眠の邪魔をするヤツは絶対に潰す
——ギャオオオオオ!!
私の敵意を感じ取ったのか、トカゲが咆哮を上げる。
そして、巨体を動かして一気に迫ってきた。
やはり大きいだけ迫力がかなりある。
だけど——私の上司よりは狂気が足りない。
「潰す潰す潰す」
私は地面を蹴り、トカゲに向かって走っていく。
確かに身体能力が強化されているのが分かる。
体がとにかく軽いし、これならいくらでも動けそうだ。
トカゲが目下まで来る——私は地面を蹴った勢いのまま思い切りトカゲを殴った。
——グギュウウウウウ!?
トカゲは悲鳴を上げながら、地面をえぐって吹き飛ばされる。
動揺してしまっている様子で、息を荒くしながら私を眺めてきていた。
私はトカゲを見て、大きく息を吐いて舌打ちをする。
「ちっ……まだ生きてるじゃん……」
そう言った瞬間にトカゲは震え上がる。
だが、トカゲもこのままじゃ不味いと思ったのだろう。
ゆっくりと体勢を立て直したトカゲは、今度はブレスを吐いて攻めてきた。
それを見て、私は更にため息を吐く。
「あ〜あ。来ちゃったらもう、倒すしかなくなっちゃったじゃん」
私は向かってくるブレスに向かって拳を放つ。
衝撃波が発生し、ブレスを簡単に消し去ってしまった。
そのまま、私はトカゲに接近し——腹に向かって蹴りを入れた。
あまりの衝撃に、トカゲはそのまま倒れて絶命してしまう。
倒れたトカゲを見て、私は満面の笑みを浮かべた。
「はあ〜すっきりした! よし、それじゃあこのまま寝ようかな〜——あ!?」
再度切り株の方に戻ろうとすると、さっきの女性剣士が私の肩を掴んでくる。
そして、何度も揺さぶりながら私の顔にぐっと顔を近づけてきた。
「き、君すごいね……! あのドラゴンは勇者クラスの人間しか倒せないSランクの魔物なんだよ!?」
「え……? Sランク? 勇者?」
一気に聞いたこともない単語を言われて困惑してしまう。
これなら広告に流れてくる異世界漫画を一話だけじゃなくて、三巻くらいまでは読んでおくべきだった。
「君は村の英雄だよ! あ、自己紹介がまだだったね。ワタシはシンシア!」
シンシアさんは胸を張って、自己紹介をする。
というか、村の英雄って……私はただ寝たいだけなのだから英雄なんて言われても困ってしまう。
「えっと……君は村の人間じゃないよね? 名前はなんて言うの?」
シンシアさんはしゃがんで、私の視線に合わせて喋ってくれる。
改めて見ると、シンシアさんの身長はかなり大きく見える。
多分、私の身長が小さすぎるだけだとは思うけれど。
「四宮奈々、です。多分十歳くらいです」
とりあえず、親しみやすいように年齢を添えてみた。
まあ……実際の年齢を言っても混乱させてしまうだけだろうし。
「シノミヤ、ナナ……珍しい名前だね。ナナちゃんってことか」
ナナちゃんと呼ばれてこそばゆくなる。
そんな感じで呼ばれたのなんて、数年ぶりかもしれない。
シンシアさんは咀嚼するように名前を呟いて、すぐに笑顔を浮かべる。
「よし! ワタシのことは気軽にシンシアって呼んでね! 敬語も気にしないで!」
そして、シンシアはパンと手を叩く。
「それじゃあ報告しに行こっか!」
「報告……?」
私が困惑していると、シンシアは当然のように言う。
「村のみんなに報告するんだよ! 当然でしょ、村を救ってくれたんだから!」
「え、ええ?」
更に困惑したのだが、シンシアは気にする様子も見せずに私の手を引いて走り出した。