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目的地に到着

そして日が暮れる頃、どうにか辺境都市ナバールに到着する。


雪山からここに来るまで、三日といったところか。


城壁に囲まれた都市で、この辺境をまとめる領主が治める都市である。


人口は一万人ほどで、様々な種族が暮らす都市だ。


この辺りは王都から遠く貧しい地域で、ナバールに出稼ぎに来る者も多い。


かくいう自分も、田舎の村から出てきて冒険者になりにやってきた。


「わぁ……おっきい」


「アォン……」


二人して、城壁を見上げてポカーンとしている。

その姿は田舎者丸出しというか、可愛らしく見えて堪えきれずに笑ってしまう。


「くくっ……」


「アォン!?」


「わ、笑われちゃった……」


「すまんすまん、昔の自分を思い出してな。さて……門のところに行く前に簡単に打ち合わせをするか」


今の俺たちの組み合わせは、側から見るとおかしい。

おっさんが一人に、魔物が一匹、幼女が一人という状態だ。


「打ち合わせですか?」


「ああ。ひとまず、俺が君の父親役になる……いいだろうか?」


「ふぇ!?」


「そっちの方が都合がいいんでな。誘拐犯に間違われるのも困るし」


父親、従魔、娘という設定にすれば良いだろう

そうすれば、不審に思われることもあるまい。


「わ、わかりましたっ……お、お父さん」


「……おう」


いかん、自分で提案してなんだか……めちゃくちゃ照れるな。

育てた子供達がいたが、彼らからは兄さんとか兄貴とか呼ばれていた。

父さんと呼ばれていたのは、師匠であるカイゼルさんだったし。

そういえば、むず痒いとか言ってたっけ。

今なら、その気持ちがわかる……俺も、おっさんになったということか。


「へ、変でしたか?」


「い、いや、平気だ。それと、その敬語も無理しなくていい。父親に敬語を使う子供もいるが、子供は子供らしくいるのが一番だ。無論、慣れてきたからでいいから」


「は、はい……?」


アルルが戸惑いを見せると、サクヤが尻尾を振ってアルルに近づく。

前のように説得しているのだろう。


「グルルー」


「えっと、お父さんには甘えても平気……うんっ!」


「そう、それでいい。あと、君の能力は出来るだけ秘密にしておこう。おそらく、かなり珍しいはず」


「う、うん……あっ」


すると、アルルが恐る恐る手を挙げる。


「どうした?」


「えっと、サクヤちゃんは都市の中に入れるの?」


「サクヤちゃん……ププ」


「アォン!」


「イテッ!?」


俺が笑うと、サクヤが尻尾で叩いてくる。

その顔は『何か文句でもあるの?』と言っていた。

しかし、サクヤちゃんねぇ……そんな風に呼ぶ奴もいないし。


「サクヤちゃんって呼んでいいって言うから……」


「ほほう、サクヤ自ら……わかった、わかったから睨むなって」


俺は両手を挙げて降参のポーズを示す。

すると、ようやくサクヤが尻尾を引っ込めた。


「えっ、えっと……」


「ああ、すまん。質問の答えだが、多分平気だろう。数は少ないが、ビーストテイマーという魔物を使役する職業の人がいたはず。おそらく、無害だと示せば大丈夫だったかと」


「そ、そうなんだ。えへへ、ここでお別れかと思っちゃったから嬉しいな」


「俺としても置いていくのは不安だしな。さて、不審者に間違われる前に門のところに行こう」


実は俺も久々で緊張していたが、二人のおかげで解れた……年長者の威厳として表には出さないがな。

そして二人を連れて、門番のところに向かう。

すると、槍を構えて牽制してくる……結局、不審者扱いだったようだ。


「止まれ!」


「ひゃっ!?」


「ガルルッ……!」


「サクヤ、落ち着け。ありがとな、俺とアルルを守ろうとしてくれて」


「グルルー……」


俺の声にサクヤが一歩下がる。

アルルも下がらせ、俺だけが前に出る。

ちなみに槍を構えられたのは、サクヤがいるからだろう。

この辺りでは見ない魔物などで、かなり珍しいはず。


「驚かせてすまない。俺は遠い田舎の村からきた、ハルトという。都市に入りたいのだが、いいだろうか?」


「こんな冒険者が出て行った記憶はないと思ったらそういうことか」


「しかし、こんな魔獣がいれば噂になるはずじゃないか?」


「それもそうだ。最近は物騒な事件も多いというし……怪しいな。子連れで母親なしで、見たことない魔獣を連れているか」


……しまった、サクヤの希少性を忘れていた。

この子は本来なら雪山にのみ生息し、元々の数も少ないため珍しい魔獣だ。

あまりに一緒にいて、その感覚がなかった。


「お、お父さん……」


「大丈夫さ、何も悪いことはしてないのだから。俺は取り調べでも何でもしてくれて構わない。ただ、あんまりこの子を怖がらせないでくれ」


そして、俺は服の端を掴むアルルの頭を優しく撫でる。

兵士達が顔を見合わせ頷いた時……門の向こうから人が歩いてきた。

その歩き方と気配から、只者ではない様子。

その人物を見て、兵士達の顔色が変わる。


「これは、何の騒ぎですかな?」


「こ、これは、ヨゼフ様!」


「い、いえ、少々怪しい者が都市に入ろうとしまして……」


「ふむ、そうなのですか……ほう、珍しい魔獣ですね。なるほど、この辺りではみないので怪しんだと」


白髪で顔にもしわがあり、歳は六十歳くらいに見える。

少し腰が曲がっているが、生気に満ちた雰囲気を感じる。

その人はサクヤを見た後、ようやく俺と視線が合った。


「貴方は……お二人とも、私が許可しますので中に入れてくださいますか?」


「へっ? よ、良いのですか? 取り調べなどはしなくても……」


「はい、目を見れば人となりはわかりますから。それに、その子達がいい子にしているのが一番の証拠です。人攫いや、密猟者の類ではないでしょう」


「それは確かに……わかりました。それでは、中にお入りください」


「ありがとうございます」


俺は通行料を支払い、都市の中に入る。

ちなみに冒険者ギルドか商人ギルドに属している平民以外は、基本的に通行料が必要になる仕組みだ。

依頼や交渉などで外に出て行くのに、毎回取られたんじゃたまったものではないからだ。

都市に入り、まずはヨゼフ殿に頭を下げる。


「ヨゼフ殿、感謝いたします」


「あ、ありがとうございます!」


「アォン!」


俺に習い、アルルとサクヤも頭下げた。

そして頭を上げると、ヨゼフ殿が微笑んでいた。


「いえいえ、お気になさらずに。彼らにも悪気はないのです。ただいま、少し問題が起きてまして……」


「それは、先ほどの人攫いや密猟者という言葉でしょうか?」


「ええ、悲しいことに。最近、そういう人が増えているみたいなのです。貴方は可愛いお嬢さんを連れているし、珍しい魔獣もいるのでお気をつけて」


「そうなのですね。貴重な情報に感謝いたします」


すると、アルルが俺の服を掴む。

視線を下げると、不安そうな表情を浮かべていた。

そうだ、この子は奴隷にされるところだった。

場合によっては、見捨てた奴隷商人達が文句を言ってくるかもしれない。


「大丈夫だ、お父さんがついてる。サクヤも俺が守るから安心しろ」


「う、うんっ!」


「アォン!」


アルルは笑顔で頷き、サクヤは不満気に鳴いた。


サクヤはともかく、アルルとの付き合いは短い。


だが引き取ったからには、俺には彼女を守る義務がある。


もしそうなったら、全力で守るとしよう。


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