弟子の成長
翌日の朝、朝ご飯を食べ終わり、俺は三階の広場にてサクヤとアルルと遊んでいた。
この宿には従魔用スペースがあるとは聞いていたが、中々にいい場所だ。
三階が一つの部屋となり、広い空間で遊ぶことができる。
「アルル、ボールを投げてごらん」
「うん! サクヤちゃん、いくよー!」
「アォン!」
アルルが投げたボールにサクヤが飛びつく。
追いかける用のボールだが、その身体能力によりサクヤはキャッチしてしまう。
「いや、多分……それは追いかけて取ってくるやつだろ」
「グルッ?」
「ふぇ?」
二人が不思議そうに、俺に視線を向ける。
どうやら、特に気にしてないらしい。
「いや、お前達が楽しいならいいんだ」
「アォン!」
「もう一回? うん! わかった!」
俺はそれを眺めつつ、優雅にコーヒーを飲む。
すると、階段を誰かが物凄い勢いで上がってくる。
「にいちゃん!」
「どうした? こんな朝っぱらから」
「オレと戦ってくれ!」
俺が返事をしようとすると、後ろからカエデがやってきて……カイトの頭を叩く。
「朝からうるさいのよ」
「いてぇよ!?」
「まずは主語を言いなさいよ。兄さん、昨日の夜に買い物をしたことを話したの。そしたら、すぐに宿に行こうとしたから朝まで待ちなさいって」
……それは英断だったな。
夜に来られたらアルルを起こしてしまう。
カエデは相変わらずしっかり者のようだ。
「ふむふむ。それで、カイトはどうした?」
「カエデばっかりずるいぜ! というわけで、オレにも稽古をつけてくれ!」
「いや、昨日は買い物をしたのだが」
すると。カエデがため息をつく。
「はぁ……こいつ、兄さんに構って欲しいのよ」
「なっ!? ち、違うし!」
「違うのか?」
理解したので、俺も少し楽しくなってきた。
なるほど、大きくなったが可愛いところがあるな。
「にいちゃん……笑いを堪えてるのバレてるからな?」
「おっと、しまった。悪かった、お詫びに稽古はつけてやるから」
「ほんとか!? やったぜ! 先に冒険者ギルドの鍛錬場に行ってる!」
そう言い、嬉しそうに階段を下りて行った。
「兄さん、アルル、サクヤ、騒がしくてごめんね」
「いや、いいさ」
「わたしは楽しいよ!」
「アォン!」
「ふふ、ありがと。それじゃ、あいつが不貞腐れる前に行こ」
その後、四人でカイトが待つ冒険者ギルドに向かう。
中に入ると、カエデに視線が集まった。
「お、おい、カエデだぜ。そろそろ、銅級に上がるって話だ」
「さっきはカイトもいたな。何やら、息を巻いていたけど」
「というか、あのおっさんは誰だ?」
「珍しい魔獣を連れてやがる」
……ほう、二人は既に名のある冒険者のようだ。
それに、ランクアップも近いとみなされるほどの。
「カエデ、有名人だな」
「や、やめてよ、兄さん。それに、有名なのは……」
「兄貴! こっちこっち!」
ギルドの右端にある扉の前にカイトがいて、手招きをしていた。
「も、もう、目立ってちゃって」
「迷惑にならないように、さっさと行こうか」
そして中に入ると、そこは広い空間になっていた。
あちこちで鍛錬をしている者達が目に入る。
カイルが場所を取っていたようなので、そちらに向かう。
カエデにアルルとサクヤを任せ、俺はカイトと対峙する。
「へへっ、一年ぶりかな」
「ああ、そうだな。どれだけ成長したのか、見せてもらおう」
「この日のために頑張ってきたんだ!」
そう言い、構えを取った。
その立ち姿だけで、成長したのかわかる。
以前よりは隙がなくなっていた。
「いつでもいいぞ」
「それじゃ——いくぜ!」
獣人特有の身体能力でもって、一気に間合いを詰めてくる。
右の拳が繰り出されるのを、右手でいなすように弾く。
「うおっ!?」
「甘い、まだ腰に力が入ってない。腕ではなく、体全体を使って拳を繰り出せ」
「お、おすっ!」
再び拳が繰り出され、先程より威力が上がる。
だが、まだまだ鍛錬が必要だろう。
「どうした? 俺の防御を崩してみろ」
「ウ、ウォォォォ!」
連続して拳が繰り出されるが、その全てを片手でいなしていく。
そして空いてる手の方で、隙だらけの腹に拳に叩き込んだ。
「ゴフッ!?」
「防御も甘い」
「く、くそっ……全然当たらねえ!」
カイトは犬獣人で、はっきり言えば獣人族の中では弱いと言われる部類だ。
獅子族のような力もないし、狼族のような俊敏さもない。
犬族は獣人界では迫害の対象で、カイトもそうだったらしい。
「……もう終わりか?」
「ま、まだまだァァァァ!」
「その意気だ」
再び、連続攻撃を繰り出す。
同じように、片手でいなしていく。
「もっと早く!」
「くぅぅ……!」
「お前の武器は速さだ! 力が足りないなら手数で補え! 攻撃する隙がないほどに!」
「ア……ァァァァ!」
徐々に速さが増していき、片手でいなすのが難しくなってくる。
そして……その拳が、俺の顔を掠めた。
「やっ」
「気を抜くな」
「ゴハッ!?」
腹に一撃を入れると、カイトが地面を転がっていく。
さて、以前ならこれで起き上がれなかったが。
すると、カイトがふらふらしながらも立ち上がる。
「ま、まだまだ……」
「いや、よく立ち上がった。そして、よくぞ当てた……カイト、強くなったな」
「に、にいちゃん……へへっ、当たり前だろ」
弟子の成長というのは嬉しいものだ。
俺も負けてはいられないな。




