女の子は大変
再会から二日後、俺はカエデの部屋に呼び出されて説教されていた。
俺は大人しく正座し、その言葉を受け入れる。
ちなみにサクヤとアルルは、カイトの部屋にいるのでいない。
「兄さん?」
「はい、すみません」
最年長が最年少に叱られ、兄としての威厳はまるでなし。
しかし、それも仕方のないこと。
「全く……初日は大して気にならなかったけど、まさか今日も|《同じ服》を着てくるとは思わなかったわ」
「面目無い。一応、新品ではあるのだが」
「そういう問題じゃないと思うの。女の子なんだから、色々着たいに決まってるよ」
そう、俺が叱られているのはアルルの格好についてだ。
流石に洋服を買ってあるが、そのどれもが地味で似たような無地のだった。
そこを、カエデに突っ込まれてしまった。
「だが、俺は女の子の服などわからん。そもそも、あの秘境の里では皆がほぼ同じ格好だった」
「それはそうだけど……私も、こっちに来て苦労したし。ともかく、洋服を買いに行かないと」
「すまんが頼む」
「うん、任せて……兄さん、ありがとね」
「ん? なんの話だ?」
「私は一番下だったから妹が欲しかったんだ」
そう言い、頬をぽりぽりとかいた。
この子は姉や兄に可愛がられてきた。
だから、自分がして貰ったことをしてあげたいのかもしれない。
「礼を言うのは俺の方だ。アルルを妹と言ってくれて感謝する」
「そんなの当たり前じゃん。私達は血は繋がってなくても家族なんだから」
「ああ、そうだな」
「ほ、ほら! 早く行こ!」
照れ臭そうにしながら、部屋を出て行く。
俺は苦笑しつつも、後を追って部屋を出るのだった。
◇
……そして、今に至るわけだが。
女子の買い物は大変だと言うことを思い出した。
追放される前にユリア達に連れられた時も、こんな感じだった気がする。
「兄さん、これは?」
「いいんじゃないか」
「もう! そればっかり!」
「い、いや、そう言われてもだな……」
何を見せられても同じようにしか見えん。
何せ元々が美少女だから、可愛い系を着たらなんでも似合うし。
すると、アルルが服を握りしめて俯いてしまう。
「お、お父さん、わたしと買い物してもつまらない……?」
「……兄さん?」
その目は兄を見る目ではなく、クズを見る目だった。
まずい! 積み上げた兄の威厳が消える気がする!
「そ、そんなことはないぞ! どれも可愛くて同じに見えてしまうんだ!」
「……可愛い?」
「あ、ああ! 可愛いさ!」
「えへへ」
そう言い、花が咲いたように笑う。
ふと、カエデと目がいうと『やればできるじゃん』と言われた気がした。
どうやら、兄の威厳はギリギリで守られたようだ。
「よ、よーし! それじゃ、それらを買っていこうか!」
「兄さん、待って」
出て行こうとした俺の肩を、カエデが触れて引き止める。
振り返ると、何やらにっこりしていた。
「ん? どうした? 服はこれだけあれば足りるだろう?」
「ここに、可愛い妹がいるんだけどなー」
「……買わせて頂きます」
「えへへ、兄さんありがと!」
「へいへい、現金なこって」
やれやれ、兄の威厳を保つのも大変だ。
その後、アルルと一緒にカエデの服を選ぶ。
それが終わる頃には、夕方になっていた。
アルルはうとうとしていたので、俺がたつこしている。
それもあり、買った物は後日宿に送ってもらうことになっていた。
「うーん、買った買った」
「こ、こんなに買ってもらっていいのかな?」
「いいのいいの、兄さんには趣味とかないし。どうせ、鍛錬や料理が趣味とかいうんだから」
「いや、俺にだって趣味くらい……」
しまった、他に何も浮かばん。
ずっと鍛錬と子育てしかしてこなかった。
「ごめんごめん。兄さんは、私達のために自分の時間を割いてくれたんだよね。これから新しい趣味とか見つけたらいいんじゃないかな?」
「趣味か……なあ、いい歳したおっさんが夢見ても良いと思うか?」
「私は全然良いと思うけどなー。なになに、何かあるの?」
そう言えば、この子達には俺の過去を話していない。
上の子たちの中には、知っている者もいるが。
俺は詳細を省き、実は白銀級冒険者を目指していたことを伝える。
「へぇ、兄さんがね。私達、自分達のことばかりで兄さんのこと考えてなかった……反省しなきゃ」
「何を言ってる。辛いこともあったが、お前達の明るさに救われた。だから、後は元気に過ごしてくれれば良い」
「相変わらず人のことばっかりだよねー。それじゃ、私達と競争だね」
「……そうなるのか。よし、負けないように頑張るとしよう」
先に巣立った子達も冒険者としてやっている者もいるだろう。
兄として、彼等に負けるわけにはいかない。
そんなことを考えていると、カエデが何やらもじもじする。
「どうした?」
「い、いや、アルルちゃん良いなーって……私も、小さい頃は兄さんに抱っこしてもらったなって」
「なんだ、今だってできるぞ? それくらいは鍛えてるつもりだ」
「恥ずかしいから嫌だし」
「がーん……」
これが親離れというやつか。
いや、喜ぶべきなのだが。
「へこんじゃった……じゃあ、手だけ繋いでよ」
「おっ、もちろんさ」
そうして夕日の中を手を繋いで歩く。
それは、とても幸せな時間だなと思うのだった。




