仙気
昼飯を食べてなかったので、手頃な店に入りそこで取ることにした。
俺は甘辛肉丼を頼み、サクヤは骨つき肉、アルルは肉丼を頼んだ。
すでにランチタイムは過ぎていたので、すぐに料理がやってくる。
「さて、まずは食べるとするか」
「わぁ……お肉いっぱい!」
「ハフハフ……!」
二人は待ちきれないのか、そわそわする。
それを見てると、なんだか微笑ましい。
「はいはい、では……いただきます」
「いただきます!」
「アォン!」
二人が食べるのを確認し、俺も肉丼を口に放り込む。
その瞬間、口いっぱいに幸せが広がった。
何故なら、久々の白米だったからだ。
「うめぇ……甘辛のタレに、米と肉がよく合う」
「お、おいちい……うぅー!」
「おいおい、勢いよく食べ過ぎだ。ほら、水を飲みなさい」
コクコクと頷き、俺が手渡した水を急いで飲む。
「……ぷぁ〜、あ、危なかったです」
「クク……誰もとらないから、ゆっくり食べるといい」
「わ、笑われちゃった……うんっ!」
俺もかきこみたいのを我慢して、ゆっくり食べることにする。
子供というのは、大人の真似をするものだからな。
……サクヤの食べ方がアレなのは、種族的に仕方ないと思おう。
決して、俺の教育のせいではない。
すると、俺の心の声が聞こえたのか、サクヤが見上げてくる。
「アォン?」
「いや、呼んでないから。大丈夫、好きに食べろ」
「グルル!」
口いっぱいを汚しながら、サクヤが骨つき肉にかぶりつく。
やれやれ、後で拭いてやらないと。
「お父さん! わ、わたしも、口周り汚れちゃった!」
「おっ、ほんとだな。さっきまで綺麗に食べてたのに」
「あっ、えっと、その……」
「まあ、いい。ほら、口を閉じて」
備え付きの紙を使い、口の周りを綺麗にしてあげる。
「えへへ……お父さんみたい」
「いや、お父さんだが?」
「そ、そうでした……」
「ほら、続きを食べなさい」
大部、警戒心は取れたかな。
この子が、なんの気兼ねもなく笑えたらいい。
そんなことを思いつつ、再び肉丼を食べるアルルを俺は優しく見守るのだった。
食事を終えたら、そのままその店で休憩を取る。
幸い客も少ないし喫茶店でもあるので、のんびりするにはもってこいだ。
なので、予定通りにアルルに文字を教えることにした。
「この依頼はゴブリン退治だな」
「この文字がゴブリン……あの緑の?」
「ああ、そうだ。ゴブリンを三匹倒せって書いてあるな」
俺は一から十の文字を書き、それをアルルに見せる。
一個一個単語を覚えていき、名称と数字さえわかれば後は繋げて読むことができる。
……これも、昔の仲間が教えてくれたっけ。
あいつは優しくて綺麗で、俺の憧れでもあった。
……今頃、結婚でもしているだろうな。
「えっと、これが一で、これが二……お父さん?」
「……うん? すまんすまん」
「教えるの大変?」
「いや、そんなことないぞ。よし、続きをやろう」
いかんいかん、今はこっちに集中だ。
俺とて頭がいいわけではないのだから。
その後、一時間が経過する。
「クワァ……」
「あっ、サクヤちゃん眠そう」
「んじゃ、この辺りにしとくか」
大体の必要な単語は紙に書いて渡してある。
後は反復練習と、文字に慣れていけばいい。
幸い言葉はしっかりしてるし、そんなに難しくはないだろう。
「お父さん、ありがと……あの、その……」
「おう、また明日やろうな」
「……うんっ!」
すると、満面の笑顔を見せる。
良かった、無理矢理にでも字を覚えておいて。
あいつに『いつか使うことになったらどうするの?』って覚えされられたな。
会計を済ませ店を出たら、予定通りに依頼をしに行く。
「お父さん、何からするの?」
「あぁ、下水道掃除だ。人が使った生活水が行き着くところだな」
「……下水道」
「そっか、わからないかもな」
下水道は大きな街とかにしかなく、村とかは井戸水を使っていたはず。
俺はわかりやすいように、アルルに説明する。
それぞれの家や建物には水を通す管があり、そこから下水道に流れて行くことを。
「えっと、みんなが使った汚れた水が集まるところ?」
「まあ、そういう感じだ」
「グルルー……」
サクヤが、あからさまに嫌そうな顔をする。
鼻が俺たちよりも効くので、仕方ない部分もあるな。
地図に従い、ひと気のない場所にやってくる。
近くの階段を降りると、その入り口から臭いが漂ってきた。
「あちゃー……これは、サクヤには厳しいかもしれない」
「ククーン……」
「サクヤちゃん、鼻が曲がりそうだって」
「だよなぁ……仕方ない、ここは俺一人で行くとしよう」
サクヤを一人にはできないし、当然だがアルルもだ。
そうなると、俺が一人で行くしかない。
「お、お父さん、大丈夫?」
「ああ、すぐに帰ってくるさ。サクヤ、アルルのことを頼んだぞ?」
「アォン!」
俺は二人に見送られ、下水道への道を歩いていく。
《《魔石》》という魔法を込められる道具を使い、光魔法のライトを発生させる。
魔石は特殊な鉱山から取れる鉱石で、なかなか市場には出回らない。
ただし師匠が山ほど持っていたので、俺はそれなりに持っていた。
「いや、本当に師匠様様ってやつだ。魔法が使えない俺は、これがないと不便で仕方ない」
さて、下水道の掃除は実は初めてだ。
石級の仕事だが、《《魔法が使えないとこなせない依頼だったから》》。
魔法が使えない俺は、いつも置いていかれた。
「だが、今の俺なら……出たか」
「プニプニ」
「プニー」
指定害獣の一つ、青い透明な液体が固まった生き物……スライムだ。
こいつらは汚い物を好み、下水道やゴミ箱の近くで発生する。
それによって下水が詰まり、臭いが上まで来てるってわけだ。
ちなみに撲滅は無理なので、定期的に減らすしかない。
「こいつらは物理攻撃をすり抜け、魔法なら瞬殺というアンバランスな魔獣。つまりは、俺の天敵とも言える相手だが……」
「フニ!」
襲いかかってくるスライムに対し、俺は拳を繰り出す!
「プニプニ……」
「まあ、そうなるわな」
俺の手はスライムの中へと入り、食われた形になる。
体長一メートルを超えるスライムは、そのまま俺を飲み込もうと前進してきた。
俺は慌てずに、丹田を意識し気を高める。
そして拳にまとい、その気を解放する。
「解放——仙気発勁!」
「プニッ!?」
内側から気が弾け、スライムが粉々になった。
そのまま再生することなく、ただの液体になる。
そして残ったのは、核と言われるスライムの討伐証拠だ。
それを魔法袋に入れたら、深呼吸をする。
「ふぅ……一つ、トラウマを克服したな」
初めて出会った時は、情けなく仲間達に助けられたっけな。
……俺は、今の今までそんなことも忘れていたのか。
「くそっ、我ながら女々しい奴だ。こんなんじゃ、師匠に笑われてしまう」
「フニ!」
「プニー!」
「さあ、かかってこい」
俺は仙気でもって、スライム達を駆逐していく。
大分数を減らしたので、下水道の奥へといってみる。
「……よし、詰まってないな。とりあえず依頼は10体以上だったし、そろそろ戻るとしよう」
その時、俺の耳に何かが聞こえた。
聞き間違いでなければ、それは臨戦態勢に入ったサクヤの鳴き声だった。
俺は踵を返して、急いで出口へと向かうのだった。




