女装癖
「ところであいつと家近所なんだっけ?
あいつのあの話知ってる?」
「別に近所ってだけで仲いいわけじゃないから本人からは聞いてないよ。
メンタルでしばらく会社休んでいたらしいね。
噂話としてこっちにも話きてたよ」
「やっぱそっちの部署にも話飛んでるんだ」
「まあね、本当なの?
目の前に飛び降り自殺の女性が降ってきたって」
「警察にも事情聴取されたみたいだし
班長があいつの欠勤理由を朝礼でそれとなく言ってたからね」
「すごいよね、
目の前に人間が降ってくるなんて。
落ちた瞬間ってどんな音がするんだろう」
「考えたくもないよ」
「『バキ!』なのか『ドガ!』なのか、
『ボキ!』なのか『バキ!』なのか」
「『バキ!』は最初に言ったよ」
「まず最初に顔面が地面にぶつかって、
そのまま体の重みで首の骨いっちゃって、
そのあとは内臓の重さで・・・
一瞬で全部済むとしたらしたら
『ベチャ!』かな?」
「音はもういいよ、
で、その話には続きがあって、
職場復帰してからちょっとおかしいんだよね」
「まあ、目の前で自殺ってか、
死ぬの見たらおかしくもなるかもね」
「こっちの部署では俺とあいつけっこう仲いいんで、
別に話を聞きだそうと思ったわけじゃないけど、
元気出せよ適な意味で誘って
一緒に飲みに行ったんだよね」
「うん」
「仕事終わってから駅前で待ち合わせしたらあいつ、
びっくりしたよ、
ミニスカート履いて、
長髪のかつら被って
口紅つけてやって来やがった」
「まじ!?」
「すね毛つるんつるんだった」
「なにそれ、それでその後どうしたの?」
「当然やべ、どうしよう、って感じになったよ。
でもまあ、あいついろいろあったわけだし、
元気出せよ適な意味でそのまま俺からは何も言わずに
飲みに行ったよ。」
「何も言わないなんて優しいね」
「まあ一応ね、
そんでそのまま一緒に飲んで、
仕事の話や最近見たテレビの話とか他愛もない話してたら
ちょっと酔ってきて、
あいつが自殺女性が降ってきた時の話してきたんだよね。
世間話しながらもちょいちょいオネェ言葉だったんだけど」
「なんかおもしろくなってきそうな感じ?」
「そうだね、
なんか、女性が上から降ってきて、
地面に激突する前に
一瞬あいつの事を見たんだって」
「で、どんな音したの?」
「音の話は知らないよ、
『グシャ!』ってなる直前に目が合って、
女性が死ぬ前に見てた走馬灯の映像が
あいつの脳に入りこんできたんだって」
「『グシャ!』だったかぁ~」
「もう音はいいよ、
こっから話が始まるのに
もう話さないよ」
「すまんすまん、
もう音の事言わないから、続きは?」
「あいつが言うには、
その女性の記憶が全部自分に乗り移ってしまって、
その女性が死ぬ前にしたかった事を自分がしないと、
彼女の魂は成仏できないんだって、
だから自分は女装をする事になったんだってさ。
どう思う?」
「なんとも言えないねぇ」
「しかも続き、
こっからがちょっとディープなんだけど。」
「あいつが女装癖に目覚めたって事でオチなんじゃないの」
「そうなんだけど、
その後あいつ、
自殺女を助けるために協力してって言って、
俺にいきなりキスしてきた」
「うわー、 何それー
『倍返しだ!』って言ってキスを倍に返したってオチ?」
「ちげぇよ、半沢さんかって。
さすがにびっくりして、
通常だったらぶん殴るけど、
あいつのメンタル考えてそのまま
キスはなかった事にして帰ったよ。
しかもあいつ、
次の日職場で普通におはようって挨拶して、
何もなかったような顔で仕事してたよ。
オカルトみたいな話だけど
そういう人の記憶が乗り移るってあるのかな?」
「どうだろうね、あるのかなぁ
ショックな出来事経験したわけだからね。
でも、その話に俺が別なオチをつけようか?」
「何、どういう意味?」
「あいつと俺家が近いって話だったでしょ、
子供の頃から同じ地区に住んでたからね。
だからうちの近所では有名なんだけど・・・・
あいつ昔から女装癖あったよ」
「え?」
「自殺女性見たのはショックだったと思うけど、
それはそれとして、
おまえとキスしたかったんじゃない?」