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ガラス瓶

作者: 一色 赤

ガラスの瓶。その中で私たちは生きている。


一人にひとつ。ここには大小様々、色とりどり、多種多様のビンがある。

キラキラ輝く私たちのお家は、ひとつ、ひとつが宝石のように美しい。

まるで私たちは囚われたフェアリーのように。ひっそりと、それぞれのビンの中で生きている。

しかし、不自由な思いはしていない。ここが私たちの世界だから。

一定の距離。触れられない。話せない。お互いを認識しあっているのかも解らない。ただこの小さなビンの中でそれぞれのせいを生きている。


私は、そんなみんなを観察するのが好きだ。私の仕事とも言える。この世界で好きなことに没頭すること。それが仕事になる。給料がもらえるわけではない。ただ、生きる意味として、信念として、あるいはタダの暇つぶしとして、仕事をしている。と、私が勝手に思っているだけでもある。


例えば、私の右側。茶色いビンに入っている彼。彼はずっと逆立ちをしている。朝から晩までずっとだ。本を読む時はもちろん、寝るときだって壁に寄りかかって寝ている。彼が逆さまじゃないの(頭が上で足が下なこと)を見たことがない。きっと彼の頭のてっぺんはとてつもなく平たく出来ているのだろう。腕だって凄く太いし、逆さまのほうが安定するに違いない。私も一度挑戦してみたがダメだった。そのときから、彼は私の中で逆さまチャンピオンになった。いつかチャンピオンが地に足つけるところを拝みたいと思っている。


他にも私の正面のビンの子はまだ小さな女の子だけれど、ずっと踊っている。小女のビンは踊りやすいように、丸くて大きい。金魚鉢のような形だ。その中で少女は、クルクル、クルクル、手足を伸ばして、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、高く飛んで、華麗に着地、ポーズを決めて、最後は可愛らしくお辞儀をする。私は少女に精一杯の拍手を送る。少女はアンコールに応えるかのようにまた踊り始める。


それから、私の左側。ピンク色と緑色のビンの二人は恋人同士だ。二人は決して近い距離に居るわけではない。しかし、いつの頃からか、密かに愛を語り合っていた。大きな画用紙にお互いへのメッセージを書き合う。おはよう。から始まって、おやすみ。まで二人は毎日たわいもない恋人同士の話をしている。二人とも本当に幸せそうで、私はそんな二人を見るのがとても好きだ。


そして、今私が一番興味があるのは、少し遠いところにいる青いビンの彼だ。彼のビンは銭湯の煙突のように細長い。不思議なことに彼のビンにはどこからか、ピチョン、ピチョンと水滴が落ちてくる。おかげで、彼のビンは半分くらいまで水が溜まっている。最初は傘をさしていた彼も、どんどん溜まっていく水たちになす術もなくただただ見ているしかなかった。が、それからも水滴は落ち続け、最近の彼は一日中ずっと水の中に潜っているようになった。彼はまるで魚のように優雅に泳ぐ。上へ、下へしなやかに動く肢体は人魚のように美しい。もしかしたらこのまま人魚になってしまうかもしれない。そんな期待を込めつつ、今後の彼に要注目だ。


そんなある日、私の後ろに新しいビンが出来ていた。どこから来たのか、少し疑問に思ったが、それはそれ。私は新しく来た彼がどんなアクションをするのか気になって観察を始めた。

彼は何か考え事をしているのか、ビンの中をせわしなく歩きまわっていた。ウロチョロウロチョロと、絶えず落ち着きがない。しばらくそれが続いた。三日目、ああ~彼はそういう人なのかと思っていた矢先、彼が動いた。なんと、ビンに体当たりを始めたのだ。何回も何回も体をぶつけ続ける。彼は体の大きな男で、ラグビーでもやっていた様ながっしりとした身体つきをしている。そんな彼のアタックに、ビンは揺れた。ぐらんぐらんビンは揺れて、やがて倒れた。私はハっと息をのむ。彼はビンの中から器用に這い出ると、そのままどこかへ行ってしまった。遠い向こう、私の見えないところへ。彼が居なくなったビンだけが悲しそうに転がっていた。


それからしばらくして、私は、水の男が居なくなっていることに気づいた。彼のビンは水がいっぱいで、きっと溢れ出たのだろう。彼は人間のままでいることを選んだのか。それとも、もっと大きな、本物の海を目指したのか。どちらにしろ、彼はこの世界からいなくなってしまった。


他にも、たくさんあったビンたちが、少なくなってきているのに気づいた。みんないつかの彼のようにビンを倒して、あるいは水の男のように何らかの手段を使ってビンから抜け出したのだろうか?どうやって?何のために?どこに行くの?私には解らない。どうして、この世界から逃げようともがくのか。こんなにも平和で静かで美しい世界なのに。寂しいことなんて何もない。あたりを見渡せば、ここにはたくさんの人が居る。どこからかまたやってくる。興味深い人もいる。踊る少女の成長も見れる。ほほえましい恋人達が幸せもくれる。怖いことなんて何もないのに。


しかし、みんなが逃げ出してしまったらどうなるだろう?誰も来なくなったら?私は一人になってしまうのだろうか?そんなことになってしまったら?


。。。それだけは少しコワイかもしれない。。。


。。。私の世界のオワリかもしれない。。。。


けれども、たくさんの倒れたビンたちは、『昔、確かにここに立っていたのだ』と言うように、キラキラと輝き続けるだろうか。私はゆっくり目を閉じて、この美しいビンたちが、まるで神々の遺跡のように静かに眠る姿を想像した。私はひとり、狭いビンの中でふふっと笑った。

そんな世界もちょっとだけ見てみたいな。と思った。

オチはありません;;

この世界観を書きたかった!!

最後まで読んで下さってありがとうございました!!

酷評お待ちしております(゜∀゜)★

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― 新着の感想 ―
[一言] [夢]と[現実]を達観しているように思いました。 一色さんの書くお話は、私自身が飲み込まれてしまいそうで、 そのような小説を書けるなんて羨ましいです! 今後とも、ちょくちょく覗かせていた…
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