合コンで勝者となるには?
私の望みはそんなに大それたことなのだろうか。
たった一晩だけ、恋人と過ごす一夜を体験したい、そんなお願いだ。
それなのにエシュメルは、そんなお願いをされてムカつくから世界征服をしてみようか、なんて言い出した。
私からパワハラを受けている、とも!!
自分こそ世界の魔王様の癖に!!
エシュメルが魔王だから人間の女の小さな願いが、小さいばかりにかえって羽虫の羽音の如き煩く感じるのであろうか。
もしかして、エシュメルの次に美形でエシュメルよりもいかつい副団長のヒューゴさんならば、私の願いを快く聞いてくれたかしら?
人選ミス、だった?
最初っからトップを目指すのではなく、落としやすい方から攻めろって合コンでモテ子が言ってた気がする。
「一番人気はイカ漁のかがり火よ。あれは絶対に落ちない幻。単なるイカな私達は、二番手三番手のフリーな男子を狙うべきなのよ。あとね、目立たない男の子。そういう子にも気さくな女の子は、そこで男の子達にはポイント高くなるの」
目立たない男の子は、そのまま自分自身みたいだった。
心惹かれないのに思わせな振る舞いで声をかけていく、それは自分自身を嘲笑う行為みたいで前世では出来なかった。
もしかしてその大人しい子達に声をかけていたら、実はすっごく気が合って、すっごく好きになってしまう相手だったかもしれないのに。
私は前世の反省を思い出し、だから今回は失敗しないように前世のあの子が言ってくれた事を実践しようと思った。
「どうしてもあなたが嫌なら、ヒューゴさんを紹介して下さる?一晩優しくエチして欲しい。私は簡単に叶えて貰えるささやかな願いだと思ったのに、あなたが勃たないならば仕方がないわって、きゃあ」
頭を叩かれた、とは!
「俺は普通に勃起するよ?びんびんよ?だけどな、男は、さあ勃てで立てられないものなの。繊細なんだよ」
「魔王から繊細でました」
「……今すぐにこの砦を制圧しようか?」
「すいません。ごめんなさい!申し訳ありませんでした!!」
「で、お前は誰でもいいんだったら、酒場に行け。そこで適当に見繕え」
「だ、誰でもいいわけでは無いんです!!」
誰でも良かったら私は前世でも処女とサヨナラしていたわ。
私の好みは、線が細くて、でも筋肉はあって、顔は整ってても女性っぽくない顔立ちで、とか、色々と細かくあったんです。
「前世で出会う事も叶わなかった理想の男性に出会えたのよ。それで三日後、いいえ、今日はもう終わりだからあと二日で死んじゃうなら、前世で出来なかった告白をして一夜が欲しいと思うじゃない。私の願いはそれだけなのに!!」
「そうか?俺がお前から聞いたのは、処女を奪ってくれ?俺が駄目なら副団のヒューゴでいいわ。だけだったな。あ、ついでに言っとくが、ヒューゴには嫁がいるぞ。臨月であっちは溜まっているから誘いやすいかもしれないがな」
エシュメルの私への口調がぞんざいになっていた。
そんな乱暴な口調が心地いい、なんて思ってしまう私って変態。
でも、漫画の男の子って、彼女になった女の子にそんな喋り方してる!!
「なににやけてんだ?まじでヒューゴを誘惑する気か?最低だな」
「ち、違います。わ、私は不倫は人間がするものじゃないと思ってます。だ、だから、ヒューゴさんは無いです。そ、それに、最初からエシュメル様、あなたに決めてたんです。今晩ひとつ、お願いします!!」
私は思いのたけを込めて手をさし伸ばしていたが、その手は簡単にエシュメルによって打ち払われた。
ひどい。
酷いけど、床に転んじゃったけど、なんか気安いやり取りしてるって感じで私はちょっと嬉しくなっていた。
私は色々恋をしたけれど、相手は二次元あるいはアイドルタレント、もしくは読んだ小説の登場人物を脳内で構築した、まさに妄想な相手にばかり、だった。
実を言うと、合コンでの一番人気の男の子もちょっと趣味じゃない子ばかりだったから、私は数合わせ参加でしか無かったの。
「そんなに俺が欲しいか?」
私は低く滑らかな声にもの思いから覚めただけでなく、ぞくぞくっと震えた。






