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転生魔王とこじらせ喪女聖女はかく語りき  作者: 蔵前
その一 世界を滅ぼす理由が出来た(魔王談)
3/15

それはパワハラ

 エシュメルが腕を広げたのを拡大解釈し、私はエシュメルの胸に飛び込み彼に抱きついていた。


 いい匂いがする!

 温かな胸板の弾力が何とも言えず、イイネ!!


「聖女さま?」


「恐ろしい夢でしたの!!魔王軍がこのガリビキアを侵略してきます。夢なのに、それが三日後だって私にはわかります。ああ、恐ろしや!!」


 もっとしっかり頬ずりしたい!


 そんぐらい夢心地な感触だった。


 男の人の胸に顔を埋めるって、こんな感じ?こんな風に安心できる素敵体験だったの?私ったら今それを経験しちゃってるの?


 両肩に痛みを伴う圧迫感。

 私はエシュメルによって両肩を掴まれ、彼の体から剥がされた。

 彼の腕の長さ分彼から遠ざけられると、彼はさらに私を自分から遠ざけるようにして弾くようにして手を剥がす。

 この女には触られたくなかった、という感じが出てて、めっちゃ傷つく。


「騎士、さま?」


「俺は騎士でも男です。ひと目が無い所でこそ自重すべきです」


 良き人すぐる!!


 私は両手を組んで、エシュメルを見つめてしまった。

 たぶん、尊敬どころじゃない目で。

 だからか、エシュメルは軽く咳ばらいをしてから、私に微笑んで見せた。

 膝が抜けそう。


「そんな夢だったら、尚のこと、リンゼイや領主に伝えるべきでしょうに」


「不確定な夢ですもの」


「不確定だからこそ、安全確認は必要でしょう。俺だけが知ってもどうにもなりません。俺は団長でも個人的判断で隊を動かすことはできないんですよ」


「わかってます。私も何かする時には、それなりの手順が必要ですもの」


「では」


「私はあなたにしか出来ないことをお願いしたいんです」


「俺にしか?」


「私は悪夢の後に確信したのです。これだけはするべきなんだってことを」


「何ですか?」


 エシュメルは私を真っ直ぐに見つめる。

 真摯な表情な紳士な人!!

 私は大きく息を吸い、賭けに打って出た。


 私が男性を経験できるのは、きっとこの機会しか無いのだから!!

 頑張るの、私!!


「トゥルーナさま?」


「私は処女を捨てたいの。協力してくださいな!!」


 私はエシュメルに縋りつこうと前に踏み出した。

 しかし、どん、と胸に衝撃を受けた。


 私はエシュメルに突き飛ばされたのである。


 小汚い床の上に尻餅をつくことになったが、私は怖いとは思わなかった。

 だって、私の言葉で彼は行動してきたのだわ。

 ちょっとここは汚すぎるけど、私が羽織っている外套をシーツがわりにすれば、いいえ、私の魔法でここを浄化すればいいじゃないの!!


「なんでウキウキしながら浄化魔法を唱えて床を綺麗にしているんですか?」


「だって。これから私達はここで男女の行為をするんですも……」


 私はエシュメルへと見上げたそこで凍り付いた。

 丁度魔法も終わって、ひゅうっと周囲が浄化されたこともあって、物凄く寒々しい世界に変わっている。


 単なる空き家の中心に、大きな影が立っている。

 天使みたいに金色に輝くイケメンは、羊みたいな大きな巻き角が左右の側頭部から生えている、という、ハロウィン仕様になっているのだ。


「全く。確かにこちらに向かってくる軍勢はいるが、それを倒して下さい、ではなく、旗印の俺に処女を散らせとは、ろくでもない女だな。いや、俺が魔王と知っての誘惑か?最低だな」


 私はここで悲鳴を上げるか、一目散に走って逃げるべきなのだろう。

 でも私は、悲しさの方が勝ってた。


「二度目の人生でも、リア充体験ができないのね!!」


「そ、そんなにしたいのか?」


「だって、喪女だったのよ私は。喪女なの私は。喪女だったのよ!!良いなって思ったと人と体験してから今世は死にたかっただけなのに!!」


 ひゅるっとエシュメルから角が消え、そして彼はしゃがみこんだ。

 もともと体格の良い人だから、しゃがんだところで小さくなりはしないが、私は何となく彼が私に向けた優しさのように感じた。


「お前、転生者か?」


「転生って尋ねてくるってことは、あなたも?」


 エシュメルはコクリと頷いた。

 それから彼は自嘲するような表情に顔を歪ませる。


「気が付いたら魔王だった。だが世界征服なんざ面倒だ。そこで適当に手下をほっぽって身を隠していたが、こーんなところで躓くなんてな」


「あ、あなたは、世界征服なんて考えていなかった?」


「いや。今は考えている。こんなくそ世界は潰しても良いかなってね」


「どうして?」


「部下に無理難題を命令してくる、ふざけたパワハラを受けているからかな」


「そ、そんな目に遭っていたの?」


 しゃがんでいたエシュメルはそのまま立ち上がると、つまらなそうな顔つきで私を見下ろしながら私を指さした。


「お前だよ。聖女と騎士団長だと、身分的に聖女の方が上だろうが」


「あ」

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