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第九四話 打ち合わせですわ!

 帝国首都:運河のほとり




 河にせり出すようにして建てられた、煉瓦の歩道の上。

 日が沈みだす帝国首都の空を眺めながら、オディールとセバスが隣に並ぶ。

 歩道の端の煉瓦製防護塀に腕を置き、体重を預け、オディールが切り出した。


「順を追って話しますわ──覚えていらっしゃいますわよね、マギーラのこと」

「ああ、もちろん覚えているとも。キミが新しく仲間に引き入れた、魔術師見習いの子だろう? 見たところ、エルフの血を引いているようだった」

「そう、そのマギーラと最初に出会ったのが、ブルーネンの地下街だったのですわ」


 そこからオディールは、軽くマギーラとの出会いについて話した。

 ブルーネンに入ったばかりのオディールを誘拐しようとしたマギーラと、そんな彼女を諭して仲間に引き入れたオディール。

 そうした話を、適度に相槌を交えながら聞いていたピエールが、続きを促した。


「それで、マギーラクンとの出会いが、今回の帝国議会とどう関係するっていうのかな?」

「マギーラの居住地に戻ったとき、ある計画書を見つけたのですわ。どうやらマギーラの父親が残したもののようでしたが……それが実現すれば、世界は大きく変わることでしょうね」

「なるほどね。それを実現するための権限や費用、人材を確保するために、帝国議会を利用しよう、というハラな訳だ」

「ご明察ですわ」


 互いの考えや伝えたいことを、流麗に理解し合う二人。

 そもそもオディールが、ブルーネンにやってきていた老爺とピエールに接触し、命じられたままに竜の牙を手に入れてきたのは、この計画──『龍脈型魔法陣』計画を実行するための資金繰りのためだった。

 骨董品も眠る地下街の投棄品の鑑定、そのための老爺の課題は、今やブルーネンの領主となったオディールには、必ずしも必要ではなかったかもしれない。

 ただ、魔王軍の襲撃の際、投棄品の中で実用に足る魔石や武器などを全て放出したことは、防衛成功の要因の一つだっただろう。


「それで、ですね。その計画というのが、『龍脈型魔法陣』というものなんですわ」

「ほう。いいのかい、そこまで言ってしまって?」

「ええ。先程も言いました通り、これはきっとゴドレーシにとっても益のある話ですもの。概要を説明いたしますわ」


 そこからオディールは、『龍脈型魔法陣』について説明し始めた。

 地中に流れる魔力の壮大な流れである、龍脈。

 魔術師に限らず、全ての存在はこの龍脈の影響から逃れることはできないのだが、その全貌を把握している者は誰一人としていないとか。

 そんな龍脈の流れを魔法陣の刻印として転用し、迷境の出現や魔物の生息域などを操作する計画こそが、『龍脈型魔法陣』。

 一通り概要を聞いたピエールが、呟いた。


「ふむ、中々興味深い構想だねえ。けれど、少し疑問が残る。聞いても?」

「ここだけの話と、約束して下さるのなら」

「そうしよう──まずそもそも。龍脈の流れを書き換えるなんて芸当、本当に可能なのか?」

「それについては、可能だと言っておきましょう」


 オディールは、先代領主が秘密の部屋で行っていたおぞましい所業を思い出しながら、きっぱりと答えた。

 若い女性を中心とした、生き血の土壌への浸透。

 魔力を含む液体である血液を人為的に染み渡らせることで、龍脈に対する呼び水とし、任意の地点まで龍脈を引き寄せる。

 そうして富を増幅させたのが、ブルーネン先代領主の、小太りで脂ぎった男だった。


「キミにしては煮え切らない言い方だね。具体的にどうすれば龍脈の書き換えが出来るんだい?」

「──先程の約束を反故にしないと信用して、言いますけれど」


 そう前置きして、オディールは先代領主のかつての行いを暴露した。

 仮面をしているピエールだが、露骨に眉をしかめて嫌悪の表情を浮かべる。


「なんだいそれは。気分の悪い話だね」

「それが問題なのですわ」

「ああ……そういうことか。ようやく合点がいったよ」


 ピエールが気分を害したように、帝国議会でも嫌悪感を示されることが予想される。

 まだ新米領主であるピエールが辿った思考の道筋くらい、帝国議会に出席する者たちならすぐに辿れるだろう。

 既得権益を守るため、先代領主の行いを指摘してくる可能性は大いに高い。

 目に見える穴を塞ぐために協力体制を取ろう、というのがオディールの思惑であった。


「それで、どうなんですの? 話、乗っていただけます?」

「ああ、乗ろう。それで、具体的にはどんな段取りで?」

(ワタクシ)と貴方が、もとから『龍脈型魔法陣』を推し進めていたことにいたしましょう。それで象牙の塔の協力を借りて、龍脈の軌道書き換えに成功した、という流れにするのですわ」

「それらしい流れだけれど、上手くいくかい? 象牙の塔の実態については知っているだろう。それに、証拠書類の偽装もしておくべきだ」

「それは、既に此方で済ませてありますわ」


 言いながら、オディールは自分のドレスの襟から胸元に手を突っ込んだ。

 程なくして、畳まれた羊皮紙が取り出され、それがピエールの手に渡る。

 それは予め作られた契約書類の写しであり、一目見てピエールは完成度の高さを見て取った。


「これは……確かに一式揃っている。様式も問題ない。よくこれを作ったね」

「そういう細かな作業が得意な子が、知り合いにいるんですわ」


 ブルーネンの領主屋敷に残っている、穏やかで温かな美少女の姿を思い出しながら、オディールは言った。

 優美で優し気な魅力を持つヘルツだが、貴族の娘としての教養は一通り修めており、手先の器用さにおいてはブルーネンの中でも随一のものだった。

 ヘルツをこうした謀略に巻き込むのに当初は躊躇していたオディールだが、当のヘルツ本人が望んだため、任せたという経緯である。


「なるほど、頼れる仲間がいるってわけだ」

「そうですわね……ありがたい限りです」


 オディールは噛み占めるように言った。

 追放されてからというもの、オディールは人運に恵まれすぎている。

 出逢った悪い人物と言えば、ブルーネンの前領主くらいだ。

 否、とオディールは胸のうちで首を横に振った。

 自分の天運は、屋敷を追放されるよりもずっと前、今は青年になった少年たちとの出逢いから始まっているのだ、と。


「それは、それとして。ボクばかりが聴いていても対等じゃあないよね」

「あら。それじゃあ話してくださるってことかしら?」

「まあ、そうだね。どうせ手を組むことになるんだ、知らないと歩調を合わせられないだろう……キミの話と同じくらいの、概要を話そうか」


 自分のこれからの振る舞いをオディールに伝え、ピエールは落ちる夕陽に目を向けた。

 何から伝えたものか、と一言呟いて、ピエールは続ける。


「まずは、キミがどこまで知っているか聞いても?」

「と言っても、恐らく貴方が私達の計画について知っていた程度の情報と、同じくらいですわよ。何となくどんなことをしようとしているのかは分かっていても、その名称も仕組みも、見当つきませんわ」


 オディールは緊張感を押し込めながら、ピエールに返答した。

 先日の、遠征軍への優れた支援について示した文書を思い出し、あの時感じた危機感が湧き上がってくる。

 元々森林を切り開いて開墾した土地であるゴドレーシで、工業生産を飛躍的に増やすほどの意図が、これからピエールが語る概要に含まれていることだろう。


「じゃあ、まずは名前から。ボクがゴドレーシで進めている計画は、『魔導工兵』。周辺の土壌から魔力を吸い上げる兵器の構想。今は第一陣の試作段階だけれどね」


 ピエールは、ゴドレーシの領主屋敷の秘密の部屋にある、『魔力吸収式人造兵器マリオネッテ』──『魔導工兵』の試作型を脳裏に浮かべる。

 魔力を用いて人間と同じ規格の兵士を作り上げ、その稼働魔力は土地から賄う。

 敵方の魔力を減らし、此方の兵力を増やすという、東洋風に言うと一石二鳥の計画である。


「それは、先日帝国首都から送付された書状に記載されていた?」

「ああ、その通りさ。まだ試作品だったけれど、良い戦果を挙げたらしい」

「なるほど、既に実績があるわけですわね」


 詳しい仕組みや生産体制について、オディールは特に踏み込まない。

 気になる点ではあるが、今それについて聞くのは、目の前の帝国議会を乗り切るための障害になり得るからだ。


「対魔王軍遠征における実績があるなら、同じ議題におけるゴドレーシの発言力はかなりのモノになるでしょう」

「ああ。とはいえ、それはキミも同じ。魔石の提供で名を馳せたようだけれど、一体何をしたんだい?」

「語ってもいいですが、それなら『魔導工兵』とやらについてももう少し詳しくお聞きすることになりますわよ」

「──そうかい。それならまた後日、舞踏会で会った時にでも話そうか」


 思ってもないことを、とオディールはピエールの飄々とした顔にぶつけた。

 それから二人は、帝国議会における具体的な立ち回りを話し始める。

 と言っても、具体的な台詞まで決めるとかえって不自然になってしまうし、オディールとピエールの間に細かな決まりごとは必要ない。


「──では、整理しよう。対魔王軍における具体的な策を求められた時、まずはボクが発言する。『魔導工兵』について、その実績と有用性について話すとしよう。反対できる者はそう居ない筈さ」

「で、そこで生産にかかる魔力を問題に出すわけですわね。すると、私が『龍脈型魔法陣』を切り出す。『龍脈型魔法陣』については先生に先日お見せして、お墨付きも貰っておりますわ」

「そして、最終的に『魔導工兵』と『龍脈型魔法陣』の実現に必要な権限と費用を捻出させる、と。そういう流れでいいね?」


 話はとんとん拍子でまとまった。

 これ以上話すこともなく、また話すべき理由もない。

 仮装しているとはいえ自分の客室を長い間空けるのも不安なため、寧ろ早めに戻るべきである。

 そうして二人は、時間に差をつけて迎賓館へと戻っていったのだった。

 もう殆ど黒く染まってしまった空の下、別々の道を辿りながら。

※2025/2/14 16:30追記


本日更新分ですが、ちょっと番外編を急遽用意しておりますので少々お待ちを!

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