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呂色高校対ゾン部!  作者: 益巣ハリ
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5. 顔を失くした化け物たち

このままずっと、梔倉さんと喋っていたい。

2B教室までの道が、万里の長城くらいあったらいいのにな。


 しかしその願いも虚しく、当たり前だが目的地までついてしまった。


 教室にはもう数人が集まっていて、皆無言で問題を解いている。教卓に置かれた問題紙を取って、絹人は空いている席についた。


 無言になった数秒間で、さっきの自分はキモくなかったか、オタクすぎやしなかったか、と脳内反省会を開いてしまったが、梔倉が隣の席に座ってくれたことで心臓がまた跳ね上がり、それどころではなくなった。


 2B教室には国語の優等生たちが集められているだけあって、誰一人私語をせず、ただシャーペンが紙をひっかく音だけが教室に響く。

 

 そんな中で絹人は、この静寂の中で自分の激しい鼓動が隣に聞こえやしないかと気が気ではなかった。ちらりと彼女の方を見ると、こちらのことなど意にも介さず問題を解いているようだった。


 そりゃそうだよな、僕のことを梔倉さんが意識するなんてありえないし。ああ、切ない片思い。


 手元のプリントに全く集中できない彼は、ぼんやりと窓の外を眺めた。色が変わり始め、夕方の表情を見せ始める空。風にそよぐ木々。窓に映る、冴えない自分。

 

 はあ、とため息をついてシャーペンを回す。ふと前の生徒たちを見つめたとき、絹人は謎の違和感を覚えた。


 なんでこの人たち、みんな同じ髪型なんだ?


 教室にいる生徒たちは、絹人と梔倉を除いて全員が黒髪のポニーテールだった。明らかに運動部っぽい()()()()()()()


 不穏な様子に、絹人の胃がざわざわし始めた。席に着く前に確認したが、自分の前にいる男は確か…名前は憶えていないが同じクラスだったはず。僕に負けず劣らず地味な男で、とても学ランにポニーテールを合わせるような挑戦的ないでたちをするタイプではなかったはずだが…


 絹人はプリントを取りに行くふりをして、そっと彼らの顔を確認することにした。教卓まで歩いていき、かさつく指でプリントを一枚取って、振り向く。


 すると、全員が同じ顔をしていた。


 いや、同じ顔、というのは正しい表現ではない。彼らのもとの顔が、まるで火にあぶられた蝋人形のようにドロドロと溶け、1つの同じ顔に再構築されていた。彼らの顔は、これといって特徴のない女の顔になったと思えばまた溶け、もとの顔に戻り、そしてまた同じ女の顔になることを繰り返している。彼らはうつろな瞳で虚空を見つめ、文字のようで文字でないものを書き続けていた。


「ひいッ…!!!」


 ありえない。こんなこと現実に起こるはずがない!


 腰を抜かした絹人は机にぶつかり、ガタンと大きな音を立ててしまった。


 その瞬間。


 同じ顔が一斉にこちらを向いた。そしてゆっくりと口が開く。


『『どうしてあなたは私たちと違うの?』』


 複数の声帯が一斉に震え、同じ言葉を放った。それはまるで呪詛のように不愉快な響きを持っていた。化け物たちの声は平坦だが、痛いほど孕まれたどす黒い悪意が鼓膜をぞわつかせる。


 異変を感じた梔倉が顔を上げると、彼らは首をぐるりと180度回し、彼女を見据えた。


『『あなたも違う。どうして違うの?』』

 

 もともと白い彼女の顔が、紙のように色を失っていく。彼らの首は、生きている人間では到底無理な角度に回転しており、顔の皮膚はなおも分解と再構築を繰り返している。


「ああ…あああ!!!」


 梔倉は恐怖で固まっている。絹人も目の前の光景にすっかり腰が抜けてしまい、足に力が入らない。


『『みんな同じじゃなきゃダメなの』』

 

 化け物たちがゆら、と動いた。まず右肩をあげ、次に右足を椅子の外に出し、左手を机について体を持ち上げる。全員が一糸乱れることなく、壊れたマリオネットのように不格好に動く。


『『あ~。わかった』』


 くすくすくす。地の底から響くような笑い声。


『『あなたたち、そっちの人間なんだ』』


『『“主役”の人たちなんだ』』


『『許せない、許せないね?』』

 

 化け物たちが一斉に歯をむき出した。笑っているようにも、泣いているようにも見えるその表情は、顔が溶けていくとともに般若のように歪み、憎悪があふれ出す。


『『お前らの顔も取ってやるゥゥ!!!!!!!!』』


 彼らは一斉に梔倉に向かっていった。彼女は恐怖で動けないままである。絹人はずっと呆然としていたが、股に生暖かい何かが伝う感触で我に返り、彼女を助けられるのは自分しかいない、ということにようやく気付いた。


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