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呂色高校対ゾン部!  作者: 益巣ハリ
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18. 透明人間に触ってみたら?

「…はい、破壊者は珊瑚が撃退しました。彼女はアバラを負傷しましたが、軽傷です。新人2人に怪我はありません」


 秘密組織エリナケウスに電話をかけている陽向を、絹人と梔倉は手持ち無沙汰に眺めていた。


「雷が当たったコウモリ、大丈夫かな」沈黙に耐えられなくなった絹人が口を開く。


 グラウンドに穴が開くような威力の雷をまともに食らったのだ。操られていただけで何の罪もないコウモリたちは大丈夫なのだろうか。目の前の危機が去り、ひと心地つくと急に心配になってきた。


「それは心配ない。珊瑚はやつらのゾンビ部分――精神的な部分だけを攻撃したんだ。能力ってのは自分の意志だからな、気持ち次第で肉体を傷つけないことも可能なのさ」


 いつのまにか報告を終えていた陽向が笑った。その言葉を聞いて、絹人はほっと安心したが、


「まあ、破壊者の攻撃は身体にもダメージを与えるわけだが。お前らも気をつけろよ」と続く言葉を聞いて笑顔が凍りついた。


「珊瑚みたいなつよーい先輩もいるから心配ないさ。とりあえず、お前達はちょっと休んでろ」

「そうよ、コウモリの心配なんてしてどうするの。私もう疲れたわ」


 梔倉はスカートが汚れるのも厭わず、地面に体育座りしていた。隣の地面を叩いて示すので、絹人はこわごわ隣に腰を下ろす。爪が汚れただのお尻が痛いだのぼやく彼女を隣で見ていると、こんなに距離が近づけたんだから、まあ心配は後回しでいいかなと、思えてくる。


「いつか僕らも、あんな力が使えるのかな?」


 校庭を眺めながら、絹人が呟いた。今日確かに手の中に現れた石。たしかセピオライトと言っただろうか、何の変哲もないこの石にも、あんな力があるのだろうか?


「私ならきっとできるわ。ああ、もちろんあなたも」


 2人は目を見合わせ、思わず吹き出した。


 もし、ゾンビと出くわしたのが自分1人だったなら……と、絹人は考える。この現実が受け入れられず、いつまでもクヨクヨしていただろう。こんな風に前向きに考えられるのも、妙に自信たっぷりの梔倉さんがそばにいるおかげだ。その態度がなんだかおかしくて、つい笑ってしまった。


 グラウンドには、いつの間にか組織が到着していた。夕方と同じく、黒いスーツ姿の団体だ。経緯を説明している陽向をぼんやり見ていると、責任者らしき小柄な男がこちらへ向かってきた。


「お疲れ様です。君たちも今日は疲れたでしょう。もう帰って休んでください」

「あ、ありがとうございます。これって、その……」

「ああ、グラウンドの穴ですか?これは僕らが朝までにまっさらにしますんで、安心してください」


 男は事もなげに答えたが、この広い運動場に所狭しと空いた穴を朝までに直せるなんてとても信じられない。


「もしかして、これまでのゾンビ事件も皆さんが対処されてたんですか?」

「ええ、まあ」


 男は少し誇らしげに微笑んだ。


「ここは我ら『白紙(タブラ・ラサ)』にお任せを。今日は本当にお疲れ様でした」


 ペコリと頭を下げ合う男と絹人の間に、梔倉が割って入った。


「あの、どうやって朝までに戻すんですか?」

「ふふふ…それは企業秘密です。お二人とも、一歩下がっていただけますか?」


 言われるがままに後退すると、男がぱちんと手を合わせた。その瞬間、梔倉と絹人以外の全ての人間が、煙のように視界から消えた。


「えっ??」


 目の前の光景が信じられず、絹人は手を伸ばし、空を掴んだ。先程までは確かにそこに男がいたのに、今は何もない。透明になっているわけでもない。本当に消えてしまった。


「何で…さっきまでここにいた人たちは?陽向先生は?」

「消えちゃった……でも、これで納得したわ。私たちがこの街に生まれ育って16年、ゾンビの存在を知らなかったわけが」

「ゾンビが出ても、こんな風に空間ごと隠して処理してたってこと?」

「恐らくは。しかしすごいわね…」


 梔倉も手を伸ばす。目には見えないが、確かにそこにいる組織の人たちに向かって。こちらがどう見えているかはわからないが、もし見えているとしたら滑稽に見えるだろう。


「本当に何もなかったみたい。ここに、私たち2人しかいないみたいに見えるわね」


 確かに2人きりに、と言いかけて、絹人の脳はフリーズした。2人きり?夜のグラウンドに、2人きり???


「どうしたの?顔が赤いけど、のぼせたの?」

「あ、いや、えっと……もう暗いから帰らなきゃと思って!!うん!!夜道は危ないよ!!」

「いきなり何よ。まあでも今日は疲れたし、もう帰ったほうがいいわね」

「じゃ、じゃあ……駅まで一緒に行く?」


 勇気を振り絞った絹人の一言を、事もなげに 「そうね、行きましょう」とあしらった梔倉はさっさと歩き始めた。その後ろを絹人もついていく。目には見えないといえ、恐らく大勢の組織の人間がそこにいるであろうグラウンドを歩くのは妙な気分だ。沈黙の気まずさも相まって、思考は止めどなく広がっていく。透明な人とぶつかった場合、どうなるんだろうか。ぶつかった感覚はあるのだろうか?それともすり抜けるのか?全くぶつからないけど、向こうが避けているのか??もしくは…


「…ねえ!聞いてる?」

「はいっ!?」

「私、ここから駅までの道わからないんだけど。スマホの充電ももう無いし」

「あ、じゃあ僕が調べるね」


 同じ市内にある高校でも、意外と知らないものである。磐井高校をマップで検索し、絹人は驚いた。


「うわ、ここ駅から5分で便利だ。呂色高校とは違うな…」

「ほんと、目の前にコンビニまであるわ!うちの方が偏差値高いのに、おかしいわ」


 偏差値と立地は関係ないだろうと思いながらも、自分のスマホを覗き込んでいるこの距離の近さに胸が弾む。お願いだからこの瞬間だけは、母親からのラインが来ないでくれと願う。

 

 梔倉は方向を確認するとさっさと歩き始めたが、絹人は駆け足で追いつき、その横に並んだ。隣に来た絹人を一瞥し唇を歪めた梔倉を見て、彼はある決心をした。


「今日は本当にすごい一日だったね」

「本当だわ。まだ頭の整理ができてない」

「なんかさ…話し合いとかしない?梔倉さんが良かったらでいいけど、放課後とかに」


 誘った。

 ついに誘ってしまった、梔倉さんを!


 身体が崩壊するゾンビを目の当たりにした時よりも、今の方がずっと緊張している気がする。返事を待っているのに、彼女はなかなか口を開かない。時間にすると数秒だが、言わなきゃよかった、という後悔が星の速さで脳内を駆け巡る。


 2回ほどゆっくり瞬きをしたあと、彼女はようやく唇を開いた。


「別に構わないわ」


 蛍光灯の光で、長いまつげが影を伸ばす。


 構わないってことはつまり、OKってこと?構わないって、乗り気⇔乗り気じゃないのどちらに近い??でもとりあえずOKってことだよね??


「えっ、ほんと?」

「ええ。放課後、というより…週末はどう?ちょうど観たい映画があるの」

「えっ週末!?もちろん!うん!全然大丈夫!」


 信じられない。

 

 透明になって聞いているであろう組織の人たちよ、見ましたか?今僕は、この超美人から週末のデートに誘われましたよ!!


 心なしか拍手の音が聞こえてくる。風綿、よくやったな!!さすが!すごい勇気だ!脳内で鳴りやまぬ賞賛の声。心の中で両手を挙げ、その声に応える。


 それ以降、駅までの道のりは正直夢心地で、どうやって地図を読んで駅にたどり着いたのかまったく覚えていない。ふわふわした気持ちのまま電車に乗り、梔倉と別れ、そのまま就寝した。



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